妊娠中でも『ロキソニン』を使って大丈夫?「安全に使える薬」の正しい意味は

  • 作成:2021/11/25

医療用・市販薬どちらでも日常的な痛み止めとして広く使われている『ロキソニン』ですが、妊娠中の女性でも使えるのかどうか、という質問をよく受けます。これに関して、基本的に妊娠中には避けた方が良い理由と、代わりにどんな薬が使えるのかを解説します。

この記事の目安時間は3分です

妊娠中でも『ロキソニン』を使って大丈夫?「安全に使える薬」の正しい意味は

妊娠中の『ロキソニン』、避けた方が良い理由

医療用医薬品の『ロキソニン』、一般用医薬品の『ロキソニンS』シリーズ、どちらも「ロキソプロフェン」という痛み止めの薬です。頭痛や生理痛、腰や肩の痛み、捻挫、打撲、風邪の時の喉の痛み、歯の痛み・・・日常でよく出会う痛みにはおよそ何にでもよく効くため、人気の薬でもあります。自宅の薬箱の中にいくつか入っている、なんてこともよくあるのではないでしょうか。

しかし、この薬は妊娠中・・・特に妊娠の後期(28週以降)は避ける必要があります。この時期に「ロキソプロフェン」を使うと、胎児の動脈発達に悪影響が出る恐れがあるからです1)。また、日本では薬の添付文書や注意書きにはまだ記載されていませんが、アメリカの食品医薬品局(FDA)はそれよりももう少し早い時期、20週以降の時点から服用を避けるように注意喚起を出しています2)。このことから、妊娠20週以降の段階では、『ロキソニン』の服用は避けた方が無難です。

なお、妊娠の早い段階に使用した場合のリスクは、現在のところ特に確認はされていません。流産3)や先天異常4)も増えることはなさそうだということがいくつかの研究で示されています。そのため、「ロキソニンを飲んでいたけど、妊娠していることがわかった」というような場合に、薬が胎児に何か悪影響を与えてしまったのではないか、というような心配をする必要はありません。妊娠が判明した時点で、今後の薬の使い方を医師・薬剤師に相談する、という対応で問題ありません。

『ロキソニン』以外の薬にも要注意~妊娠中でも使える痛み止めを知っておく

なお、こうした胎児に悪影響を及ぼす恐れのある痛み止めは『ロキソニン』だけではありません。一般的にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれている全ての薬で共通したリスクです。そのため、「バファリンならOK」とか「イブなら大丈夫」というわけではない、ということに注意が必要です。

更に、「貼り薬や塗り薬ならリスクを避けられる」と誤解している方も多いですが、貼り薬や塗り薬であっても、飲み薬と同じリスクが確認されている5)ため、避ける必要があります。

※『ロキソニン』と同様、妊娠20週以降の使用は避けた方が良い痛み止めの例

妊娠中でも『ロキソニン』を使って大丈夫?「安全に使える薬」の正しい意味は

※NSAIDsに分類され、妊娠20週以降は避けた方が良い薬に該当するものは、この一覧以外にもありますので、「ここに載っていないから大丈夫」とは判断しないでください。

では、妊娠後期に痛みを感じた場合は、何の薬も使わずに我慢しなければならないのかというと、そういうわけでもありません。たとえば、飲み薬では「アセトアミノフェン」は妊娠中でも安全に使える薬として広く用いられていますし、塗り薬や貼り薬でも「サリチル酸メチル」や「サリチル酸グリコール」の商品には妊娠中の使用制限はかけられていません。そのため、妊娠中だから手元にある痛み止めが使えない、という状況になった場合には、我慢せずに医師・薬剤師に相談してもらえたらと思います。

「安全に使える薬」の意味をきちんと知る

痛み止めに限らず、妊娠中でも安全に使えるとされている薬はたくさんあります。しかし、安全に使えるというのは、「この薬を使っていれば流産や先天異常が起きない」のではなく、「この薬が元からあるリスクを高めることはない」という意味である点に注意が必要です。実際、ヒトでは薬を使わない自然な状態でも流産を15%ほど起こしてしまうことがわかっています6)。そのため、安全とされる薬を使っていても、7回に1回くらいは流産を起こしてしまうことがあります。悲しくも流産が起きてしまった際、その原因は何だったのか、自分の行動の何がいけなかったのか、「あの時に薬なんかに頼ったからじゃないか」と自分を責めるようなことは、しないで欲しいと思います。

執筆:薬剤師K 調剤薬局勤務、薬剤師10年目

1) ロキソニン錠 添付文書
2) FDA: Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs (NSAIDs): Drug Safety Communication - Avoid Use of NSAIDs in Pregnancy at 20 Weeks or Later
3) BMJ . 2003 Aug 16;327(7411):368.
4) PLoS One. 2011;6(7):e22174.
5) Pharmaceuticals and Medical Devices Safety Information No. 312 April 2014
6) BMJ . 2000 Jun 24;320(7251):1708-12

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