膵臓癌の原因、症状、治療、予防 再発・転移しやすい?余命、自覚症状、早期発見しにくい理由などを解説

  • 作成:2016/10/19

膵臓癌は、膵癌とも言いますが、消化器の癌の中でも、特に治療が難しい癌として知られています。原因や症状、治療、転移可能性に加えて、再発しやすさなどの疑問を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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膵臓癌の治療や予防可能性を知ろう

目次

膵臓癌と膵癌は同じ?

結論から言いますと、「膵臓癌」と「膵癌」は同じ意味で使用されています。

そもそも膵臓は、「後腹膜(こうふくまく)」と呼ばれるお腹の深いところにあり、みぞおちとおへその間に、細長く横たわっている臓器です。つまり胃の裏側に存在していて、肝臓や脾臓(ひぞう)、大腸、腎臓などの臓器と大血管によって取り囲まれています。そして膵臓は、お腹の右側から大きく「頭部」「体部」「尾部」と分けられています。

膵臓は食物を分解する「アミラーゼ」「リパーゼ」「トリプシン」といった消化酵素を分泌する機能(外分泌機能)とともに、血糖値の調節で重要な働きをする「インスリン」「グルカゴン」などを分泌する内分泌機能を持ち、身体にとって非常に重要な機能を担っています。このうち消化酵素を含んだ膵液は膵管を通って十二指腸に分泌されます。

一般的に膵癌と言われる場合には、膵管の上皮から発生して浸潤(体内への浸透)や転移を起こしやすい「浸潤性(しんじゅんせい)膵管癌」を指します。

膵臓癌は、消化器系の癌の中でも特に治療が難しい癌であり、患者数が胃癌などと比べて少ないにもかかわらず、死亡原因としては全悪性腫瘍のうち第5位となっています。

また、膵臓癌による死亡数も増加傾向であり、喫煙や糖尿病、肥満などとの関連も指摘されています。

一般的に膵臓癌は症状に乏しく、診断された時点では進行した状態で見つかることも多いです。最近では検査技術の進歩とともに診断技術も向上してきましたが、治療成績は現在のところ、医学的に満足できるレベルになっていないのが実情です。

膵臓癌の原因 遺伝やコーヒーが関係?

膵臓癌の原因については、他の多くの癌と同様、結論が出ていないのが現状であり、遺伝的要因や環境要因などが指摘されています。膵臓癌の発症に最も関与しているとされるのは、喫煙と肥満です。この他にも、「膵臓癌の家族歴(家族で膵臓癌になった人がいるか)」「糖尿病」「慢性膵炎」「肉類などの高脂肪食」がリスク因子として報告されています。逆に、緑黄色野菜や果物の摂取がリスクを低下させるとの報告もあります。

まず、膵臓癌に最も関与しているとされるのが喫煙です。日本で約11万人を対象として行われた研究「The JACC Study」において、非喫煙者と比較して喫煙者では、膵臓癌の発症リスクが男性で1.6倍、女性で1.7倍との調査結果が報告されています。逆に禁煙した場合では、10年以上の禁煙で膵臓癌のリスクは減少に転じています。

一方、飲酒に関しては明らかな関係は指摘されていませんが、飲酒しながら喫煙する人では、非喫煙者の飲酒よりも10倍のリスクがあるとの報告結果もあります。肉類などの高脂肪食もリスクを上昇させると考えられています。

また、コーヒーも膵臓癌のリスクとして報告されており、The JACC Studyにおいては、1日4杯以上のコーヒー摂取で、膵臓癌死亡リスクが上昇するとされています。緑茶については、研究レベルでの予防効果は認められていませんが、カテキンに含まれるポリフェノールは抗酸化作用があり、癌予防が指摘されています。

生活習慣については、「肥満」と「糖尿病」が膵臓癌のリスク因子として重要です。糖尿病は、多くの研究で膵臓癌の発症リスクを約2倍増加させるとされており、米国では、膵臓癌患者の糖尿病合併率は60%から80%とも言われています。また、肥満は糖尿病のリスクとなるだけでなく、膵臓のDNAを傷つけることなどによって、膵臓癌の発症リスクを上昇させます。この他には、「慢性膵炎」「膵臓の嚢胞性腫瘍」「胆石症」などの病気も膵臓癌との関係があります。

このように膵臓癌の発症リスクには食事や生活習慣などに気を付けることも大切ですが、糖尿病や慢性膵炎といったハイリスクな原因を抱えている方は、特に注意が必要となります。

膵臓癌の好発年齢 20代や30代でもなる?女性はなりにくい?

膵臓癌の患者数は近年増加傾向であり、60歳以降に好発して男性に多い傾向にあります。2007年の日本膵臓学会の報告では、男女比は3:2でやや男性に多く、発症時の平均年齢は男性で63.9歳、女性で65.9歳という結果でした。また、2012年のデータでも、男女ともに40歳以降から患者数が増加し始め、60歳以降で患者数の増加が見られます。

一方、若年者の罹患数はゼロというわけにはいきませんが、他の癌と同様に非常に少なくなっています。具体的には、男性の場合、20歳から24歳:0人、25歳から29歳:6人、30歳から34歳:39人、35歳から39歳:59人であり、女性の場合、20歳から24歳:2人、25歳から29歳:14人、30歳から34歳:16人、35歳から39歳:66人という結果でした。確率は高くありませんが、若い方に発症する可能性がないわけではありません。

膵臓癌は昭和35年以降、増加傾向を示し、特にこの30年では急速に増加しています。また、患者の高齢化も見られており、背景には食事の欧米化といった生活習慣の変化と、日本の高齢社会があると考えられています。他の癌と比較してみても、現在、すべての癌に占める膵臓癌による死亡数は、男性で第5位、女性で第6位となっており、今後も膵臓癌患者は増加すると予測されています。

膵臓癌の組織型 進行スピードははやい?

癌はその形状、発生部位などからさまざまな分類がされますが、組織型も分類の1つの方法です。組織型によって「悪性腫瘍(癌)なのか」「良性腫瘍なのか」を診断し、さらに癌の中でも「進行が速いタイプなのか」「抗癌剤が効きやすいタイプなのか」など、今後の治療方針を決定していく上でも重要な意味があります。

膵臓癌の組織型を調べるためには、お腹に針を刺して直接膵臓から腫瘍の一部を取ってくる「針生検」と、内視鏡を用いて膵管から組織を取る方法などがあります。しかし、針生検では組織を採取したときに、癌細胞をまき散らしてしまうことになる危険性があるため、現在ではあまり行われていませんが、生検は癌を診断する上でも重要となります。

専門的な話にはなりますが、まず膵臓の腫瘍は「上皮性腫瘍」と「非上皮性腫瘍」に分けられます。非上皮性腫瘍には血管腫やリンパ管腫などが含まれますが、膵臓にできる腫瘍のほとんどは上皮性腫瘍です。上皮性腫瘍はさらに「外分泌腫瘍」と「内分泌腫瘍」に分けられます。内分泌腫瘍は、腫瘍からホルモンを分泌する「インスリノーマ」や「ガストリノーマ」などが含まれます。膵臓癌は外分泌腫瘍に含まれ、膵臓癌以外には膵臓に袋のような嚢胞(のうほう)ができる「膵嚢胞性疾患」があります。

膵臓の上皮に発生した膵臓癌にはいくつかの種類があり、「浸潤性膵管癌」、「膵管内乳頭粘液性腺癌」、「粘液性嚢胞腺癌」などがあります。しかし、膵臓癌のほとんどを浸潤性膵管癌が占めており、一般的に「膵臓癌」といえば浸潤性膵管癌を指します。

浸潤性膵管癌は、名前に「浸潤性」とついていることからも分かるように、血管やリンパ管に浸潤しやすく、周囲の神経にも浸潤していくという特徴があります。血管やリンパ管に浸潤すると、血液やリンパ液の流れに乗ってがん細胞が全身に散らばりやすくなってしまうため、予後(治療後の見通しなど)は非常に悪いタイプとなっています。

膵臓癌の転移 転移しやすい?肝臓やリンパ節は転移しやすい?

膵臓癌の予後が非常に悪い理由として、膵臓癌は浸潤性が強く転移しやすいということが挙げられます。

膵臓周囲に結合組織が少なく、膵臓から周囲に向かって直接浸潤しやすいという特徴があります。また、膵臓の周りには血管やリンパ管が多く、血やリンパの流れにのって他の臓器に転移しやすく、さらに神経に沿った浸潤も起こりやすいと言われています。転移しやすいなどの理由によって、膵臓癌の予後は悪く、例えステージⅠで発見されたとしても5年生存率は60%程度となっています。

膵臓癌の主な転移先としては、肝臓、十二指腸、肺、腹膜、骨、リンパ節などとなっています。

膵臓癌で高頻度に見られるのが「肝転移」ですが、手術可能な膵臓癌でも、術後におよそ半数の患者さんで、肝転移が見られると言われています。肝臓も、症状のあらわれにくい臓器であるため、「黄疸」などの症状が見られた場合では、かなり進行していることが予想されます。また、手術を行っても、生存期間の延長が見込めないため、基本的に肝転移のある膵臓癌には手術適応はありません。

膵臓癌で肝転移よりもさらに高頻度に出現するのがリンパ節転移です。全体の80%から90%にリンパ節転移があり、進行度や治療方針を決定する上でも、評価が重要になります。リンパ節も、切除可能な場合には、手術によって膵臓癌と一緒にリンパ節も摘出しますが、切除不能な場合には化学放射線療法を行っていきます。

膵臓癌で腹水の原因となるのが「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」です。腹膜播種はお腹の中に、目に見えないような癌細胞がばら撒かれた状態であり、「癌性腹膜炎」とも呼ばれています。外科的治療(手術などで取り除くこと)は困難であり、化学療法が選択されますが、平均生存期間は3カ月から6カ月となっていて、予後は一般的に悪くなります。

このほかには肺転移や脳転移、骨転移などがありますが、基本的に遠隔転移では手術適応はなく、化学療法が基本となります。骨転移が起きた場合、転移部分に放射線を照射することもあります。

膵臓癌の再発 再発しやすい?

膵臓癌は診断された時点でかなり進行していることも多く、非常に予後の悪い癌です。手術によって、癌を全摘出できたとしても約90%の患者で再発すると言われています。再発しやすい理由として、膵臓癌は早期からリンパ節や他の臓器に転移しやすいという特徴が挙げられます。

したがって、手術で癌をすべて切除できたとしても、目に見えないような非常に小さなレベルで癌細胞が残存していたり、転移を起こしている可能性が高く、「再発」として発見されるケースが多いです。

一般的に、膵臓癌の再発は、術後3年以内が多いとされており、術後も定期的な経過観察が必要となります。逆に5年間再発がなければ、転移や再発の頻度は低下します。再発が認められた場合には、外科的治療の適応は基本的になく、化学療法を行っていき、放射線療法や緩和ケアを総合的に取り入れていきます。

膵臓癌のステージと余命 5年生存率は?

膵臓癌のステージ分類(進行度)は、他の胃癌や大腸癌などと同様に、「腫瘍の大きさ(T)」、「リンパ節転移の有無(N)」、「転移の有無(M)」によって決定されます。この3つの要素は、それぞれの頭文字をとってTNM分類と言われています。

膵臓癌のステージ分類は以下のようになります(日本膵臓学会 膵臓癌取扱い規約より)。

ステージⅠ:大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局していてリンパ節転移を認めない。

ステージⅡ:大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局しているが、第1群のリンパ節に転移を認める。または、大きさが2cm以上で膵臓の内部に限局しており、リンパ節転移を認めない。

ステージⅢ:膵臓の内部に限局しているが第2群のリンパ節に転移を認める。または、癌が膵臓の外へ少し出ているが、リンパ節転移は第1群のリンパ節にとどまっている。

ステージⅣa:癌が膵臓周囲の主要な血管や臓器を巻き込んでいる。

ステージⅣb:第3群リンパ節や遠隔臓器(離れた臓器)に転移を認める。

*ステージ分類の中でリンパ節転移については第1群から第3群という表現がありますが、膵臓の癌が起きた部位から、近さによってリンパ節を分類して番号をつけたものです。「第一群」が最も近く、結果として転移しやすいリンパ節で、「第二群」「第三群」となるにつれて、距離が遠くなり、転移しにくいこととなります。細かい事項に関しては専門的ですので省略します(気になる方は、http://www.suizou.org/hp-old/stage/stage.pdfをご覧ください)。また、内容はほぼ同様ですが、日本膵臓学会以外にもUICC分類という国際的なステージ分類も存在します。

ステージ分類から分かるように、膵臓癌の大きさに関わらず、離れた臓器への転移が認められる場合には、すべて「ステージⅣ」のいわゆる「末期がん」となってしまいます。「遠隔転移」には、肝臓や肺などの臓器への転移や、「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と呼ばれる癌細胞がお腹の中にばら撒かれた状態も含まれ、これによってお腹に水の溜まる腹水も生じてきます。

一般的に膵臓癌の予後は非常に悪いと言われています。2014年における死亡数の多い癌の種類は、1位:肺癌、2位:大腸癌、3位:胃癌、4位:膵臓癌、5位:肝臓癌となっています。この結果では。膵臓癌は第4位ですが、5年生存率(治療開始から5年後の生存率)で比較してみると、少し古い統計(2006年から2008年)にはなりますが、男性で7.9%、女性で7.5%と他の癌よりも圧倒的に低い数字となっています。

背景には、膵臓癌の患者数自体は他の癌に比べて多くないものの、膵臓癌は早期発見が難しく、およそ8割の膵臓癌患者がステージⅣの状態で診断されているという現状があります。したがって、「膵臓癌」と診断されても、手術まで行うことのできる患者さんも膵臓癌患者全体の20%程度となってしまいます。

また、膵臓癌の場合には仮に早期の状態で発見できたとしても予後が良いというわけではありません。膵臓癌のステージごとの5年生存率は、ステージⅠ:57%、ステージⅡ:44%、ステージⅢ:24%、ステージⅣa:11%、ステージⅣb:3%となっています。例えば、胃癌の5年生存率がステージⅠで90%前後、ステージⅢでも40%程度であることを考えると、膵臓癌は、予後の悪い癌であることが分かります。

膵臓癌の予防可能性

膵臓癌は予後が極めて悪い癌であり、早期発見と治療、膵臓癌のリスクのある方は生活習慣の改善など予防も大切となります。

膵臓癌の危険因子として最も関与しているとされるのは、「喫煙」と「肥満」です。この他にも、膵臓癌の家族歴、糖尿病、慢性膵炎、肉類などの高脂肪食がリスク因子として報告されています。逆に、緑黄色野菜や果物の摂取がリスクを低下させるとの報告もあります。

したがって、膵臓癌の予防可能性を高めるためには、喫煙や糖尿病など、膵臓癌の危険因子となるものを理解し、「一次予防」に努めることが重要な意味を持ちます。「一次予防」とは、生活習慣や心の持ち方を見直すことで、癌を予防しようとする考えです。膵臓癌においても禁煙することはもちろんのこと、運動は糖尿病の発症予防になりますし、バランスの良い食事は膵臓癌のリスクを低下させる効果があります。喫煙は喉頭癌や膀胱癌、肺癌においてもリスクとなり、高脂肪食は大腸癌のリスクにもなるため、こうした生活習慣の見直しはさまざまな癌の予防効果があります。

また、一次予防を行ったとしてもどうしても癌は一定の確率で発生してしまいます。そのため、癌を発症してしまった場合に死亡を防ぐ最大の要素は早期治療であり、がん検診などによる早期発見、すなわち二次予防もとても重要なことは、他の癌と同様です。

膵臓癌の完治可能性

膵臓癌に限らず多くの癌に当てはまりますが、癌の根治的な治療法は手術によって癌を取りきることです。しかし、残念ながら膵臓癌の場合には、およそ8割の患者さんが発見時にはステージⅣの手術適応のない状態で見つかっているのが現状です。原因としては、症状がでにくいこと、浸潤や遠隔転移を起こしやすく進行が速いことなどが挙げられます。

また、手術適応があったとしても術後の再発が多いことも予後を悪くしている一因となっています。一般的に癌の予後は、5年生存率(治療開始から5年後の生存率)で評価し、5年間再発がなければ癌が完治したと考えます。ステージⅠでの5年生存率は57%となっています。

確かに他の胃癌や大腸癌のステージⅠでの5年生存率と比較するとかなり予後は悪いと言えますが、完治が全く見込めないというわけではありません。膵臓癌は、ステージⅠの早期で見つかることは極めてまれであり、膵臓癌の根治可能性を上げるためには、癌が膵臓に限局した初期のうちに治療することが重要であり、早期発見が極めて大切であると言えます。

膵臓癌が早期発見しにくい理由 方法はない?

膵臓癌は、早期発見が難しいと言われる大きな理由に、症状に乏しいことが挙げられます。進行すれば腹痛や体重減少、黄疸などの症状が現れてきますが、初期には症状が自覚されないことが多く、発見時にはすでに手術できない状態であることが多いです。膵臓癌患者が医療機関を受診するきっかけとなった症状も、食欲不振や腹部や背中の違和感であることも多く、膵臓癌でなくとも起こる症状です。そのため、体調の不良があったとしても、癌を意識して医療機関を受診するまでには至らず、早期発見が難しくなっています。

さらに、膵臓癌の消化器系の癌の中で、最も予後が悪い理由として、浸潤傾向が非常に強いことが挙げられます。膵臓は「後腹膜(こうふくまく)」と呼ばれるお腹の後ろに位置します。後腹膜は周囲が結合組織で囲まれていないため、癌が広がりやすいという特徴を持っています。

また、脈管が豊富に存在するため、血流にのったり、リンパ管を通して容易に転移を引き起こします。これらの特徴によって、膵臓癌は膵臓周囲への浸潤や遠隔転移を起こしやすく進行が速いために、予後が非常に悪いと言われているのです。

では膵臓癌の早期発見はできないのでしょうか。確かに超音波検査やCT、MRI検査を定期的に行っていけば早期発見できる可能性は高まると考えられます。しかし、膵臓癌は頻度も少なく、すべての人が健康診断などで行うことは現実的ではありません。したがって、糖尿病や慢性膵炎、家族歴など膵臓癌のリスクが高いと考えられる方や、血液検査で膵酵素の異常値、超音波検査で膵管が拡張しているなど膵臓に何らかの異常を認めている方を対象としてさらに精密な検査を進めていくことが早期発見につながっていくと考えられます。

一方で、最近ではまだ研究レベルですが、膵臓癌の早期発見の方法として血液検査で調べる方法など研究結果も見られますので、今後の検査技術の進歩に期待がもたれるところです。

膵臓癌の初期症状、自覚症状はある?血糖値でわかる場合がある?

一般的に膵臓癌の初期症状はほとんどありません。ただ、比較的早期から出現する症状としては胃のあたりや背中の不快感、食欲が減ったなどが挙げられます。しかし、いずれの症状も膵臓癌をすぐに疑うような症状ではなく、通常の血液検査などでは初期の癌を見つけることは難しいです。一方で、膵臓癌患者が医療機関を受診するきっかけとなったのが、上記のようなお腹の不快感、体重減少など漠然とした症状であることも事実です。

また、初期の膵臓癌患者の中には、急な糖尿病の発症や、糖尿病のコントロールが急に悪くなったなどの血糖値の異常で気付かれるケースもあります。そもそも膵臓は「インスリン」という血糖値を下げる働きをするホルモンを作る臓器です。そのため、膵臓癌によって、膵臓のホルモンを分泌する機能が低下すると、インスリンの分泌量が低下して、もともとあった糖尿病が悪化したり、新しく糖尿病を発症することがあります。

さらに膵臓癌患者のおよそ2割に、糖尿病の合併があるとされており、膵臓癌のリスク因子としても早期発見の手がかりとしても大切であると言えます。特に高齢で、突然糖尿病を発症したり、家族歴がない、つまり家族で糖尿病を発症した方がいないにも関わらず、糖尿病を発症したような場合には、膵臓癌の可能性を考え一度検査することがよいと考えられます。

膵臓癌の三大症状 黄疸、痛み、体重減少

膵臓癌は一般的に初期症状が出現しにくいと言われており、膵臓癌に特徴的な症状は癌がある程度進行してから見られます。膵臓癌の症状としては腹痛や黄疸が多く、それに次いで体重減少や食欲不振、全身倦怠感などが見られます。また、膵臓癌に見られる症状は膵臓のどこに癌が発生するかによっても異なってきます。

膵臓癌の症状の中で、比較的膵臓癌に特徴的に見られるものが「黄疸」です。そもそも、肝臓で作られた胆汁は、膵臓で作られた消化液と合流して胆管から十二指腸に分泌されています。つまり、胆管は、膵臓の非常に近くにあり、膵臓癌によって胆管が圧迫されると胆汁の流れが妨げられます。その結果、排泄できない胆汁によって、白目の部分や全身が黄色くなる黄疸が出現します。

特に膵臓の中でも、膵頭部にできた癌では、比較的早期から胆管を圧迫しますので、早期発見につながります。また、黄疸の前兆として、皮膚が黄色くなる前に身体のかゆみを自覚することもあります。

ただし、黄疸は胆管を閉塞する病態ですので、膵臓癌以外にも肝硬変や結石、溶血性貧血、体質性などの原因でも起こり得ます。そのため、黄疸を自覚された際には精密検査を受けることをお勧めします。

腹痛も膵臓癌の症状として見られますが、膵臓に癌ができただけでは痛みは出ません。膵臓癌は、膵臓で作られた消化液の通り道である膵管から発生します。そのため、膵管が癌によって詰まってしまうと膵液が流れなくなることで圧が上昇し、膵管は拡張してしまいます。膵管の拡張自体も膵臓癌を発見する重要なサインですが、膵管の閉塞によって炎症が起こることもあります。炎症が起こると、いわゆる膵炎の状態となり、発熱や腹痛の症状を伴います。

体重減少は膵臓癌に限らず、進行したさまざまな癌で見られる症状ですが、膵臓は特に消化に関わる酵素を分泌する臓器ですので、食べ物を消化吸収する能力も低下します。そのため、膵臓癌によって胃、十二指腸、大腸を圧迫するだけでなく、消化吸収が低下すると言う意味でも体重の減少が生じてきます。

膵臓癌で腹水、背中の痛み、腰痛、下痢、便秘、足のむくみは起きる?

膵臓癌の症状では腹痛と黄疸の頻度が高いですが、膵臓は胃の裏側の背中側にあるため癌が広がっていくと、背中や腰の痛みを自覚することがあります。膵臓癌の多くは膵管から発生するため、癌が大きくなると、膵管を閉塞させて、膵液がうっ滞してしまいます。その結果、局所の炎症が起こり腹痛だけでなく、背部痛が自覚されます。

また、癌の進行とともに膵臓自体も大きく腫れるため、神経を圧迫して持続的な背部痛が症状として見られます。時には、肩や胸のほうまで広がる痛みとなることもあります。

進行した膵臓癌の症状として「腹水」があります。腹水とは、お腹の中に水が溜まった状態であり、膵臓癌が進行して「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」という転移によって生じます。「腹膜播種」は、膵臓癌の進行とともに、癌細胞がお腹の中にばらまかれた状態で、お腹の中に多数の転移巣を作るため、手術で摘出することは困難となります。

腹膜播種が起こると、炎症によって、癌性腹膜炎を起こすことがあり、体液がもれ出て、腹水が溜まっていきます。腹水は数リットルも溜まることもあり、胃や腸を圧迫するため、食欲低下や呼吸困難などの症状をきたします。

腹膜播種が存在する場合にはステージⅣですので、治療としては化学療法が基本となりますが、腹水に対してはいくつかの治療の選択肢があります。直接針を刺して溜まった水を抜く「腹水穿刺」や「腹水濾過濃縮再静注療法(CART)」と呼ばれる、腹水を抜いて身体に必要な蛋白質などは、静脈から身体に戻す方法などがあります。

その他の膵臓癌の症状としては、癌や腹水による圧迫、膵臓機能の低下などの理由で便秘や下痢、便が白っぽいなどの消化器症状が見られることもあります。消化器症状だけでは、医療機関を受診しても、胃や大腸の検査をすることはあっても、膵臓の病気は見逃されることもあるため注意が必要です。

膵臓癌の末期症状はどんなもの?

膵臓癌は初期症状に乏しいため、初期にはまったく症状がないか、何となくお腹がおかしいと感じる程度のことが多いそうです。進行すると、腹痛や背部痛、黄疸などの症状が見られ、末期の状態となると体重減少や腹水、吐血や下血の症状が出現することもあります。膵臓癌では食欲不振や体重減少、便秘や下痢などの消化器症状も目立ちますが、これらの症状は、癌によって膵臓からの消化酵素の分泌が低下するために、消化不良を起こすことが原因の1つとされています。

また、癌が大きくなり、胃や十二指腸に浸潤した場合では、その部分で食物の通りが悪くなることも考えらえます。胃や十二指腸への浸潤では、その部位で出血も伴うため、時に吐血や下血が起こることもあります。さらに膵臓癌の末期では、癌が周囲へ浸潤することや、周りの神経への浸潤、膵臓自体の炎症によって腹部や背部の激しい痛みが生じます。

一方で、膵臓癌の末期では、肝臓や肺などへの転移も生じてくるため転移先の症状も現れてきます。肝臓については、「沈黙の臓器」と言われるほど、初期には症状が乏しいですので、かなり病変が大きくならないと黄疸といった症状は見られません。 骨転移では、骨がもろくなるため何かにぶつけたりしていないのに骨が折れてしまう病的骨折や、痛みが見られます。

肺転移を起こした場合では、呼吸機能が低下するため、咳が続いたり、ちょっとした動作で呼吸困難が出現するなどの症状が見られます。

末期の状態では外科的治療は困難となるため、基本的に抗癌剤を用いた化学療法が基本となります。放射線療法については局所の治療は可能ですが、全身に転移したような場合では難しくなります。ただし、骨転移では放射線療法による除痛効果(痛みをとろのぞく効果)が示されています。また、膵臓癌に伴った痛みに関して現在では、WHOに示されている疼痛コントロールに則って、非麻薬系のNSAIDsと呼ばれる痛み止めから開始し、医療用麻薬などを段階的に使用しながら痛みをコントロールしていきます。

膵臓癌は医療機関の何科が担当?

膵臓癌の検査、治療を行っていくのは基本的に消化器内科になります。消化器内科は胃・小腸・大腸などの消化管と、肝臓・胆嚢・膵臓の検査や治療を担当しており、各臓器の専門家を中心に医療体制を整えています。

膵臓癌に限らず、消化器の病気として多い癌は、手術・化学療法・放射線療法と治療法もさまざまなため、消化器外科や放射線科との連携がとても大切になります。したがって、癌治療においては、他の診療科とも協力しながら、手術や化学療法、放射線療法など最適な治療法を検討していきます。

また、「膵臓癌が心配であるけれどいきなり総合病院の消化器内科を受診するのも気が引ける」といった場合には、かかりつけの内科に相談してみることもよいです。血液検査等であればクリニックでも可能ですし、精密検査が必要であれば、総合病院を紹介してもらうことも可能です。膵臓癌は症状に乏しく、かなり進行してしまうケースも多いですので、気になる症状等があれば早めに受診することをお勧めします。

膵臓癌の検査 血液検査の腫瘍マーカー項目はどれ?エコーやCTは使う?

膵臓癌の検査には一般的な血液検査のほか、CTやMRI、内視鏡検査などを組み合わせて、診断や進行度の評価を行っていきます。

まず、血液検査では、膵臓から分泌される膵酵素(アミラーゼ)、胆道系酵素(γ-GT、ALP)、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)、耐糖能異常(血糖値、HbA1c)などを見ていきます。膵酵素であるアミラーゼは、癌にともなって生じた膵臓の炎症で上昇が見られます。胆道系酵素は膵臓癌によって胆管が詰まってしまった場合に上昇してきます。また、血糖値やHbA1cは糖尿病の診断に用いられますが、膵臓癌ではインスリンの分泌が低下して血糖値の異常が出現してきますので、その指標として重要です。一方で腫瘍マーカーは癌を疑うとても大切な指標となりますが、早期では上昇しなかったり、必ず癌で上昇するというわけではないため注意が必要です。

これらの血液検査の値は、膵臓癌以外の病気でも異常が出てきますので、他の検査と総合的に判断する必要があります。

膵臓癌が疑われた場合には、まず超音波検査やCT、MRI検査を行って、膵臓に腫瘤(こぶ)がないか調べます。同時に画像検査では全身に転移がないかどうかを調べることもできます。超音波検査は最も簡単に、かつ身体に害を与えることなく行える検査です。超音波検査では小さな病変を見つけることは難しいですが、膵管の拡張や膵臓にできた、嚢胞は早期発見に有用であり、スクリーニング検査としても重要です。

また、最近では「MRCP」と呼ばれるMRI検査が行われています。MRCPは、CTなどに比べて、膵管や胆管の状態を確認するのに優れていて、より詳しく状態を把握することができます。また、内視鏡検査では、膵管の開口部である十二指腸まで内視鏡を入れ、そこから細いチューブを挿入して造影する「ERCP」という検査も行われます。

最終的にこれらの検査結果によって、膵臓癌のステージを分類し、今後の治療方針を決定していくこととなります。

膵臓癌の手術治療 リスクは?ステントの場合も?手術ができないのは、どのような場合?

膵臓癌の治療方針は他の癌と同様に、検査結果によるステージ分類や全身状態を考慮して総合的に判断されます。膵臓癌の治療法は手術と化学療法、放射線療法の3つに大きく分かれます。しかし、膵臓癌の場合には、すでに発見された時点で、手術不能であることも多く、その場合には抗癌剤や放射線療法を組み合わせて治療を行っていきます。一般的に手術可能なのは、「肝臓や肺など他の臓器に転移していない」「膵臓の近くを走る主要な血管に浸潤していない」「腹膜播種を起こしていない」ケースとなります。

まず、膵臓癌の手術では、癌が右側(頭側)、あるいは左側(尾側)にあるかによって「膵頭十二指腸切除」と「膵体尾部切除」に分けられます。「膵頭十二指腸切除」では、癌がある膵頭部の他に、十二指腸の大部分、胆嚢、胆管を全て取り除く大がかりな手術となります。切除後は膵管や胆管、十二指腸をつなぎ合わせなければならず、手術時間も6時間から10時間程度かかってしまいます。

一方、膵体尾部切除では切除後につなぎ合わせる必要がないため、手術時間は3時間から4時間程度となります。

外科的治療に伴う合併症としては、特に膵頭十二指腸切除は複雑な手術であるため、消化管の縫合不全や、膵臓と腸をつなぎ合わせた部分の縫合不全などが問題となります。また、広範に膵臓や消化管を切除しているため、糖尿病や消化吸収障害が問題となります。

上記のような、膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除は、膵臓癌の根治的な治療法となりますが、すでに癌が進行し手術適応がない場合でも、癌を取るのではなく症状の改善を目的とした姑息的な手術、つまり症状の軽減や痛みの緩和を目的とした手術を行う場合もあります。

例えば癌によって十二指腸が狭くなり、食事が摂れない場合には、胃と小腸をつなぐバイパス手術を行うこともあります。また、胆管が狭窄して胆汁が流れないため、黄疸が強い場合には、内視鏡的にステント(チューブ)を挿入して胆汁の流れをよくする方法もとられています。

膵臓癌の抗がん剤治療 薬の作用機序、副作用

膵臓癌の化学療法は根治的な手術適応のない進行した膵臓癌や、手術可能であっても再発や転移を予防する目的で、補助的に抗癌剤を用いる場合があります。以前は、膵臓癌の治療は手術のみであり、膵臓癌と診断されると、半年以内に死亡することも多かったですが、抗癌剤の登場によって生存期間の延長が徐々に可能となってきました。

日本においては、2001年に「ゲムシタビン」という薬が保険承認され、それに続いて「S-1」という薬も承認されました。現在ではこれらの抗癌剤の単独使用、または併用しながら患者さんにあった治療が行えるようになりました。

「膵癌診療ガイドライン」(日本膵臓学会)では、切除可能な膵臓癌に対して、補助療法として行う場合には。S-1単剤や副作用によってはゲムシタビンが推奨されています。一方、切除不能例では、ゲムシタビンやS-1の単剤療法、「イリノテカン」「5-FU」「パクリタキセル」などと呼ばれる、他の抗癌剤を組み合わせた併用療法を行うことが推奨されています。

基本的に化学療法は通院治療が可能です。ゲムシタビンの場合、週に1回点滴の投与を3週続けて行い、4週目はお休みを1クールとして実施していきます。

抗癌剤は、癌細胞が分裂しようとしたとき、癌細胞と結合してDNAの合成を阻害します。その結果、癌細胞は増殖することができず、治療できるということになります。

ゲムシタビンは他の抗癌剤に比べて副作用の少ない薬ですが、副作用がまったくないというわけにはいきません。主な副作用としては、他の抗癌剤と同様に、吐き気や食欲不振、倦怠感などが見られます。また、注意を要する副作用が、「骨髄抑制」という白血球や血小板の減少です。血小板の減少によって出血しやすくなったり、白血球の減少によって感染症に感染しやすくなるため、血液検査によって、副作用の程度を観察していくことが重要になります。

膵臓癌に効果のある漢方薬がある?ない?

膵臓癌の根治的な治療法は、手術による癌の摘出であり、手術適応のない進行癌の場合には、化学療法が基本となります。しかし、膵臓癌では手術しても再発することが多く、抗癌剤による副作用の軽減なども課題となります。

一般的に西洋医学における癌治療では、有効性や安全性に関するエビデンス(証拠)が少ないという理由で漢方治療を嫌がる傾向にあります。しかし、近年では副作用の軽減や治療効果を高める、末期癌患者のQOL(生活の質)を向上するなどの目的で、漢方治療を取り入れた代替医療が注目されています。

膵臓癌の進行期では、食欲や体力の低下、倦怠感、下痢・便秘などの症状が強くなってきます。こうした消化器症状に対して有効性が示されている漢方薬の1つが「黄ごん湯」です。黄ごん湯は「黄ごん」「芍薬(しゃくやく)」「大棗(たいそう)」「甘草(かんぞう)」の4種類の生薬を組み合わせた漢方薬ですが、米国の臨床試験で抗癌剤の副作用軽減、抗腫瘍効果を高めるという結果が出ました。

また、黄ごん湯以外にも「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」などと呼ばれる、副作用軽減に効果があるとされる漢方薬の効果の検討が始まってきています。

一方で、これまでの東洋医学の経験的な見地から、癌細胞の増殖を抑えたり、治癒力を高めることで抗癌作用があるとされている漢方薬も存在します。

現在では漢方薬の有効性も徐々に臨床研究によって示されてきています。しかし、漢方薬の有用性は、外科的治療や化学療法に取って代わるまでとは言えず、癌治療の補助医療としての一定の有効性にとどまっている状態です。

膵臓癌の放射線治療

一般的に膵臓癌のステージⅣa、Ⅳbでは手術が難しく、「化学療法」や抗癌剤に放射線療法を組み合わせた「化学放射線療法」を行っていきます。放射線療法は、癌が局所のみに広がっている場合に有効ですが、化学療法と組み合わせることで、放射線療法の効果を高めることができ、さらに目に見えないような遠隔転移も抑制できる可能性があります。化学療法に用いられる「ゲムシタビン」や「5-FUは」放射線の効果を増強する作用があると言われています。放射線治療を含めた膵臓癌治療は、現在、通院で行うことも可能となっています。

放射線療法は、癌に対して体外から基本的に1日1回放射線照射(3Gy<グレイ、放射線の単位>程度)を行い、週5日続けて行います。トータルで45Gyから60Gyの照射を4週間から6週間かけて行います。

「一度に多くの放射線を照射すれば、早く癌を破壊できるのでは」と思われるかもしれませんが、放射線は、癌細胞だけでなく、同時に正常な組織も傷つけてしまうため1日に少量の照射を行います。また、放射線療法は癌の治療だけでなく、背部痛などの症状緩和の高効果もあります。

副作用としては、癌以外の正常な組織の被爆も避けられないため、周囲にある胃や腸の炎症や出血を生じることもあります。

しかし、現在ではこうした正常組織への照射を最小限に抑えるため、「強度変調放射線治療(IMRT)」と呼ばれる方法もあります。IMRTでは、あらかじめCTで腫瘍の位置などを正確に測定し、また放射線の強さを自在に変えることで、より癌だけに集中的に放射線を照射しようとする治療法です。IMRTは前立腺癌、頭頚部癌、脳腫瘍の領域において有用性が示されており、消化器系の癌においても今後IMRTが活用されていくと考えられます。

膵臓癌の緩和ケアの概要と対象者

「緩和ケア」と聞くと末期癌患者のターミナルケアでホスピスに入院したりと、終末期の医療というイメージが強いかもしれません。しかし、現在、緩和ケアは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、QOLを改善するアプローチである」と定義されています。

つまり、「緩和ケア」とは、癌であると診断されたその日から始めるべきものであり、その対象は患者だけでなく、患者を支える家族も含まれます。緩和ケアの範囲も、痛みだけでなく、社会的な問題や精神的な問題も含まれています。

癌における、身体的な苦痛としては、「癌性疼痛」が挙げられます。癌性疼痛は、腫瘍自体による浸潤や転移による痛み、治療のよる痛み、全身の衰弱による痛みなどが原因となり、癌の進行とともに痛みも強くなっていきます。

また、末期癌患者では半数以上の人に、強い痛みが出現すると言われています。緩和ケアにおける疼痛コントロールの目標は以下の3段階に分けられています。

第1目標:痛みに妨げられない夜間の睡眠時間の確保
第2目標:安静時の痛みの消失
第3目標:体動時の痛みの消失

これらの目標と達成するため、最初は「NSAIDs」と呼ばれる痛み止めを使用し、段階的にモルヒネなどの医療用麻薬を用いながら疼痛コントロールを行います。「麻薬」と聞くと悪いイメージを持つ方もいるかもしれませんが、癌の痛みに対してとても有効な薬であり、副作用に対しても十分に対応できるようになっています。

一方、癌患者の心のケアも重要になります。癌宣告されたことへのショック、手術に対する不安、休職することへの心配、死への恐怖などさまざまな精神的苦痛が予想されます。そのため、臨床心理士によるカウンセリングや抗うつ薬の処方などを行うこともあります。最近では緩和ケア外来を設置している医療機関もあり、早期から対応できる体制が整っている施設も少なくありません。

膵臓癌手術後の生活への影響 食事に注意?

膵臓癌の手術は、癌の発生部位によって、膵臓の右側を切除する「膵頭十二指腸切除」と、膵臓の左側を切除する「膵体尾部切除」に分けられます。いずれの場合でも、手術によって膵臓を大きく切除してしまうため、膵臓の機能低下が生じます。

膵臓は食物を分解する消化酵素を分泌する機能と、血糖値をコントロールするインスリンやグルカゴンを分泌する内分泌機能があります。そのため、膵臓癌の術後には日々の生活や食事で注意すべき点もあります。

まず、食事については、術後に胆汁や消化酵素の分泌が低下するため、消化不良を起こしやすくなります。したがって、食事内容は消化のよいものを心掛け、1回の食事量を少量にして複数回に分けて食べるようにしましょう。また、胆汁は脂肪の吸収に働いているため、脂肪分を摂り過ぎないようにすることも大切です。その他、香辛料などの刺激物を控えましょう。

一方、内分泌機能については血糖値を下げるインスリンの分泌が低下あるいは消失するため、血糖値が上がりやすく糖尿病となってしまいます。術後はインスリンの自己注射を行っていく必要が出てきますので、医師の指導の下、血糖値のチェックを自分で行っていくこととなります。

逆に、血糖値を上げる「グルカゴン」というホルモンも低下するため、食事を摂れなかった場合などに、低血糖となることもあります。低血糖では震えや発汗、動悸などの症状が見られますので、注意が必要です。インスリン注射でも起こり得ることですので、低血糖発作のときにはアメやジュースなど糖分を含んだものを摂取することが有効です。

膵臓癌手術後の定期検査の重要性

膵臓癌は再発の多い癌でもあります。手術をしたからといって再発しないわけではありません。手術だけでは、治療が終了したわけではなく、定期的に通院し、血液検査や超音波検査、CT検査などを行いながら、再発の有無を確認していくことが重要です。一般的には5年間再発がなければ、再発の頻度も低下していきます。

また、日々の体調の変化にも注意し、黄疸や腹痛、食欲低下など気になる症状があれば早めに医療機関を受診することも早期発見に大切です。

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