「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える

  • 作成:2022/03/24

神奈川県在住の河辺宏太さんは16歳の高校生。「先天性四肢欠損」によって生まれつき左の前腕部(肘から先)がなく、外出する際は義手を着けています。あまり服へのこだわりはなかったと言いますが、高校生になってお洒落に関心を持つように。「着やすさ」だけでなく、デザインも重視してファッションを楽しみたいと感じています。いつもと違う服を着たい、今まで知らなかった着脱の工夫を知りたい――。その願いをCaNoW(※)に応募されました。

アスクドクターズ監修ライター アスクドクターズ監修ライター

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「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える

CaNoWとは、病気や障がいを理由にかなえられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクトで、企業やその従業員の寄付やサポートで患者さんの願いを叶えていきます。詳細は、CaNoW公式ホームページをご覧ください。

このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。

服の「着やすさ」を優先して、デザインで選べなかった

「かっこいいな!」「着てみたい」

お店に並ぶ服を見てそう思うことは、16歳の少年にとって自然な感情です。でも、生まれつき左の前腕部(肘から先)がなく、義手を着けている河辺さんは「やっぱり脱ぎにくそうだな……」「一人じゃ着られなさそう」と、諦めてしまうことが少なくありません。好きな服を着たいという素朴な願いが、なかなか叶わずにいました。

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とりわけ、ボタンが多い服やネクタイのあるようなフォーマルな服、紐のついた革靴やスニーカーは宏太さんにとってハードルが高いアイテムです。学校で着替える時は、制服のベルトに苦戦して体育の時間に遅れそうになったり、袖のボタンを閉められなくて「開いているよ」と指摘されて恥ずかしい思いをしたりすることもありました。

思い通りに服を着ることは、見た目のこだわりだけでなく、心理面や生活の質(QOL)にも大きく影響することがわかります。

CaNoWチームは、河辺さんから「いつもと違う系統の服装に挑戦したい。どんな工夫をすれば、もっと服が脱着しやすくなるかを知りたい」という願いを受け取り、さっそく実現に向けて計画を練りました。

フルオーダーではなく、あえて既製服をアレンジ

障がいに合わせて服をオーダーメイドする方法もありますが、CaNoWチームはあえて「既製服を着やすいように工夫するプロジェクト」にしました。今回限りの一張羅をあつらえるより、自分に合った服の選び方や着脱の工夫を学ぶほうが、末永く河辺さんの役に立つと考えたからです。

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ある日、河辺さんが訪れたCaNoW事務局には、プロのファッションスタイリストと理学療法士(PT)が待っていました。
スタイリストは、事前のヒアリングをもとにいくつもの服を用意。通常の店舗では遠慮しがちな河辺さんも、ここではスタイリストと一緒に、ゆっくりと服をコーディネートできました。「どんな服になるのか楽しみ半分、緊張半分です」と、はにかんだ表情で語ります。

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さっそく試着し、着脱の動作をPTが丁寧に確認します。一番の問題は、ワイシャツの袖口部分でした。義手は幅が広いため、袖口の切り込みが浅いと引っかかってしまいます。切込みの深いものを選ぶか、カフスボタンに何かしらのリメイクが必要と判断しました。

厚手のパーカーなどは義手を通しにくいため今まで避けてきましたが、PTが簡単な着方をアドバイス。薄手のライナー(女性が試着時、化粧の色移りを防ぐ不織布のようなもの)を左腕の義手に巻いて袖に通し、次に右腕、頭という順番で着ると、一人でも問題ないことがわかりました。

続いて、紐靴にチャレンジ。履きやすいように、スタイリストが靴用のゴム紐を用意していました。一度、セットしてしまえば、あとは履くだけでOKです。河辺さんは、自分でゴムを通せないことを気にしていましたが、PTから「自分でできることと、人に頼んでやってもらうことがあるのは、社会で普通のこと」と助言を受け、納得した様子でした。

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河辺さんは今まで、服の着脱のコツを教わったことはなかったそうです。
この日は、PTとスタイリストにファッションの悩みを相談しました。ネクタイをバランスよく結べない、靴紐がすぐほどけてしまう、レザーバッグのファスナーを閉めにくい……以前から知りたかったことを質問すると、思いがけず「それは普通の人(両腕がある人でも)も練習しないと難しいですよ」という回答。
「障がいがあるから」と諦めていたことが、実はだれにとっても同じように難しいこと。人に相談することで、道が開けるという手応えを感じたのではないでしょうか。

髪型、服、小物…今まで選ばなかったものに挑戦

数日後、河辺さんの姿は美容室にありました。ヘアスタイルを変え、スタイリストと選んだ服を着て“変身”する日が来たのです。

河辺さんにとって美容室は初めての経験。少し緊張した表情で鏡の前に座ります。「こういうのがいいんですけれど……」と希望する髪型の画像をスマートフォンで見せると、美容師は「いいね! こういう雰囲気、似合いそう」と言い、和やかなムードで時間が流れました。

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伸びていた後ろ髪がすっきりとカットされ、部分的にブリーチをかけます。この日オーダーしたのは、ツーブロックで青のメッシュというチャレンジングな髪型。完成すると「今までにない感じ。自分でないみたい」と驚きを隠せません。

随所を「伸びる」仕様にリメイク

その後、スタイリストが用意したスーツに着替えます。初回の打合せを踏まえて、随所に「伸びる」仕様のリメイクを施していました。
一番の懸案だったカフスボタンには、ゴムでできたアジャスターを取り付け、義手を通しても引っかかることがなくなりました。以前から憧れていた腕時計も、ベルト部分を伸びる金具に変更。腕にはめるだけで、簡単に着脱できます。

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ズボンのベルトは、穴の位置が決まっていないメッシュ素材をセレクト。以前、お母さまが買ってきてくれたガチャベルト(バックル部分で調節するタイプのベルト)はうまく着けることができず、棚の奥に眠らせていたという河辺さん。今回のベルトは片手で簡単に着けることができ、満足そうです。

義手を使っていても、どこにでもいる「普通の親子」

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“変身”の準備が整ったところで、プロジェクトを応援してくれたお母さまとご対面です。
パーティションの影からスーツ姿の河辺さんが登場すると、お母さまはパッと笑顔に。いつもと違う姿に、「どなたですか?(笑)、かっこいいですね」と冗談を言うほど、喜びが溢れていました。

続いて、パーカーにショルダーバッグというカジュアルコーディネートに着替えると…。
お母さま「ああ、なんか韓国スターみたいな」
河辺さん「よくいわれます(笑)」
という微笑ましい会話が交わされました。

「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える

お母さまは、河辺さんが幼い頃から障がいがあることにフォーカスせずに育ててきたそうです。左手が義手のため、カフスボタンが留められないという話にも「え、それに困っていたんだね」とつぶやき、河辺さんがあきれるような場面も。

障がいといえばそうなのかもしれませんが、どこにでもいる親子であり、普通の高校生なのです。既製服をアレンジすることで、河辺さんのファッションの幅は大きく広がりました。これから先、自分で似合う服を選び、上手にリメイクしながらファッションを楽しまれるのではないでしょうか。

ファッションは自信をもたらし、人生を楽しくする

ファッションが持つ力について、スタイリストはこう話します。
「大げさかもしれませんが、人生を楽しくする要素の1つとしてファッションはあります。服選びは、障がいの有無にかかわらず試したり、失敗したりの繰り返し。色んな服に挑戦してみてほしいですね」

「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える

河辺さんは「好きなデザインの服を着たい」という願いが叶い、こう語りました。
「自分でもこういうのが着られるんだ、とういう感じですね。外見にこだわることは、自信をつける意味で大事なんじゃないかと思いました」

好きな服を着ることで、チャレンジする意欲が沸いた河辺さん。見た目が大きく変わると同時に、内面にもプラスの変化があったようです。障がいの有無にかかわらず「自分が好きなものを自分で選ぶことの大切さ」を感じさせられます。

引用元:CaNoW(カナウ)

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