【治療】認知症と診断されてからできること

  • 作成:2022/11/11

本記事では、認知症と診断された後、どのような治療選択肢があるかについてご紹介します。

石飛信 監修
医療法人 全人会 仁恵病院 副院長
石飛信 先生

この記事の目安時間は6分です

【治療】認知症と診断されてからできること

認知症の治療

認知症はさまざまな原因で起こるため、その原因に合わせた治療を行います。
たとえば、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、ビタミンB群に代表されるビタミン欠乏症、代謝性疾患、自己免疫性疾患、神経感染症など明らかな身体的要因によって起きる認知症は、それぞれの器質的要因に対する治療を行うことによって根本的な治療が可能な場合があります。一方、認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などでは、失われた脳の機能を取り戻すことは困難なため、“進行を食い止める"ことや本人や家族・介護者の“負担を減らす"ことを目的とした治療・支援を適切に組み合わせて行うのが一般的です。

「認知症」では、記憶力や理解・判断力の低下といった「中核症状」と、身体的・心理的な影響を受けて現れる「行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」の2つの症状が現れるため、治療もこの2つの症状をターゲットに行います。

認知症や認知機能について
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中核症状の治療

アルツハイマー型認知症の中核症状に対しては、「コリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体拮抗薬」に改善効果があると認められており、治療薬として承認されています。また、レビー小体型認知症には、コリンエステラーゼ阻害薬のひとつ、ドネペジル塩酸塩のみ保険適応が認められています。これらの薬は認知症の“進行を遅らせる”ことを目的に用いられます。

■ コリンエステラーゼ阻害薬
脳内の情報伝達には「アセチルコリン」と呼ばれる物質が深く関係していますが、アセチルコリンは「コリンエステラーゼ」という酵素によって分解されてしまいます。そのため、この「コリンエステラーゼ」という酵素を阻害することで「アセチルコリン」の量を増やし、脳内の情報伝達を活発にさせようというコンセプトの薬です。
日本では3種類の薬剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)が承認を受けており、剤型には飲み薬と貼り薬があります。主な副作用として、下痢や吐き気、眠気などがあります。
コリンエステラーゼ阻害薬には、軽度から中等度の「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」に対して、その進行を遅らせる効果が確認されています1,2)しかし、その効果は限定的でもある3)ため、認知症と診断されたからといって、必ずしも全員が使わなければならないような薬ではありません。

■ NMDA受容体拮抗薬
脳内の情報伝達には「グルタミン酸」も深く関係していますが、この「グルタミン酸」による信号が過剰になると、脳の働きが混乱したり、脳の神経細胞がダメージを受けたりします。そのため、この「グルタミン酸」の信号を受け取るNMDA受容体をブロックすることで、脳の情報伝達を整えるとともに、神経細胞を守ろうというコンセプトの薬です。
日本では1種類(メマンチン)が承認されています。主な副作用には、めまいなどがあげられます。
NMDA受容体拮抗薬は、コリンエステラーゼ阻害薬と比べると、より症状の重い中等度~重度のアルツハイマー型認知症や、興奮・攻撃性といった症状を伴う場合4)に用いられます。また、コリンエステラーゼ阻害薬と併用されることもあります。ただし、この薬の効果も限定的である3)ため、認知症と診断されたからといって、全員が必ず使う、といったものではありません。

行動・心理症状(BPSD)の治療

行動・心理症状に対しては、その要因となっている身体的・心理的・環境的要因に対してアプローチする対応(薬を使わない治療)が優先的に行われます5)

認知症に対する非薬物療法の例

認知症の治療・予防

一方で、BPSDの症状が本人または家族に大きな不利益を与える恐れがある場合には、薬物治療が優先されることもあります。

軽度認知障害(MCI)の治療

認知症のように、日常生活に支障を来たしているわけではないが、記憶などの機能が低下している状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。このMCIの人が、中核症状の改善を目的とした認知症治療薬を使っても、認知症への進行を防げるわけではありません6)一方で、積極的に人と関わって会話をしたり、ゲームをしたり7)、あるいは五感を使って季節を感じたりといった活動は、MCIの症状を改善する可能性があります。また、認知症のリスクとなる高血圧や糖尿病・脂質異常症などの持病8)をしっかり治療することも、認知症への進行を防ぐ有効な手立てとなる可能性があります。そのため、MCIと診断された場合は、脳の活動を活発にさせる活動を増やし、持病をしっかり治療するといった基本的なことを心掛けることが大切です。

1) Drugs Aging. 2015 Jun;32(6):453-67.
2) Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jan 25;(1):CD005593.
3) Ann Intern Med. 2008 Mar 4;148(5):379-97.
4) Expert Opin Pharmacother . 2014 May;15(7):913-25.
5) 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」
6) Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;(9):CD009132
7) Front Neurol . 2020 Mar 27;11:178.
8) Neurology . 2011 Apr 26;76(17):1485-91.

2003年福井大学医学部卒。福井大学神経科精神科助教を経て、2013年国立精神・神経医療研究センター 思春期精神保健研究室長。2023年より仁恵病院副院長。現在、主に精神科救急医療に従事。専門は児童精神医学。児童のメンタルヘルス向上を目的とした「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」、「児童思春期の精神疾患薬物療法ガイドライン作成」に責任者として携わった。日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医、日本臨床精神神経薬理学会専門医、日本医師会認定産業医、医学博士。

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