子供がインフルエンザにかかったら・・・インフルエンザ脳症の危険性は?

  • 作成:2017/01/16

インフルエンザの場合、小学生や園児は出席停止になりますが、厳密には小学生と園児では、停止期間は異なります。 また、子供のインフルエンザの症状は、大人と大きく変わりませんが、インフルエンザ脳症と呼ばれる重篤な症状が起きることがあります。 どのような症状が危ないのか、登園や学級閉鎖などの考え方について、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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子ども

目次

インフルエンザの子供の症状

子供のインフルエンザの初期症状は、大人と同様に風邪症状から始まります。その多くは、38度以上の発熱、鼻水、咳、喉の痛み等の症状が中心です。インフルエンザウイルスは、冬に風邪を引き起こすウイルスの1つですが、関節痛・筋肉痛・頭痛などの全身の症状が突然現れるのが特徴です。重症な合併症ですが、子供の場合には、けいれんが長時間続いたあと、意識障害が続く「インフルエンザ脳症」があります。また新型インフルエンザA型の感染例では、気管支喘息(きかんしぜんそく)を合併している方には多いですが、急激に呼吸困難が進む肺炎の症例もあります。いずれも、入院での治療が必要であります。

一方、成人では、65歳以上の高齢の方や糖尿病などで治療中の方など免疫力の低下している方では、インフルエンザウイルスと細菌の両者による肺炎を併発する可能性が高いです。こちらも重症になり入院での治療を必要とすることがあります。インフルエンザウイルス感染は、一般的な風邪のウイルスよりも感染力が強く、特に冬場の11月ごろから3月ごろにかけて流行します。

子供の症状の診断・治療

子供のインフルエンザの診断には、成人と同様に鼻のぬぐい液からインフルエンザ抗原を検出する「迅速診断法」と呼ばれる方法で、行われています。約10分で診断ができます。検査をするタイミングは、発熱してから12時間から24時間経過した時点が適切と考えられています。時間がかかる理由としては、体内でウイルスが十分に増えるのには時間がかかるためです。

インフルエンザの治療はタミフル(内服薬 5日間:ただし、10代には行わない)、リレンザ(吸入液 5日間)、ラピアクタ(吸入液1回)、重症例ではラピアクタ(点滴薬)があります。

大人が気をつける点

インフルエンザが流行時に、発熱したら「子供がインフルエンザで心配だから、検査をしてすぐして欲しい」という目的で医療機関を訪れる人もいます。ただ、迅速検査の精度が高くなるのは、「発熱して12時間経過したあと」であることは覚えておきましょう。

子供が、診察を受けてインフルエンザと診断された後のホームケアですが、意識がしっかりして顔色が良く水分がしっかりとれている状況であれば、処方されたインフルエンザウイルスの治療薬(内服・吸入薬)を解熱薬などと使用しながら、体を冷やしたりして状態を観察していれば大丈夫です。発熱している時は、できるだけゆっくりと休養・栄養をとり、体力を回復させる事が重要です。ただし、以下のように、全身状態が危険場合は、医療機関を受診する必要があります。

・意識状態が悪い
・痙攣(けいれい)している
・呼吸が早い
・顔色が悪い
・水分がとれない
・発熱が3日持続しているなど、全身状態が悪い時には必ず受診して下さい。

子供のインフルエンザの予防方法

インフルエンザは、まずは「予防する=かからない」ということが重要です。例年ではインフルエンザワクチンの予防のための皮下注射は10月から12月くらいに行われています。2015年からは、インフルエンザワクチンの株は4つ(A型が2株、B型を1株から2 株に増やした)となり、B型に関して予防できる種類が増えた効果が期待されます。

取り扱う医療機関は少ないですが、鼻にスプレーをするワクチンもあります。こちらのワクチンの対象は、2歳から49歳であり、気管支喘息の持病がない方を対象に行われております。

インフルエンザの流行時期にできる予防法としては、手洗いやうがいに加えて、咳をしている時のマスク着用を行い、ウイルスにかかる患者を減らしていくことが必要と考えます。インフルエンザ患者の減少により、インフルエンザ脳症・肺炎など重症患者さんの数も減少する事が予想されます。インフルエンザの予防は、重症化予防でもあるわけです。

子供

小学生と園児で違う出席停止期間

「学校保健安全法」という法律では、学校など児童生徒が集まる場でのインフルエンザなどの感染拡大を予防する意味で、出席停止の期間を設けています。インフルエンザは学校保健安全法で「第二種感染」症に分類されており、空気感染や飛沫感染によって流行する危険性が高い感染症と規定されています。そのため、インフルエンザにかかった児童は「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」出席停止しなければなりません。

ただし、幼稚園に通う幼児に関しては、ウイルスの排出期間が成人にくらべて長いことから「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」と解熱した後の期間が1日長く設定されています。ここで「発症した後」という表現がされていますが、一般的に発熱の始まった日を「発症日」、つまり0日として計算しますので、「発症後6日目」あるいは、「解熱後3日目」のどちらか遅い方が出席可能な日となります。

学級閉鎖は自治体ごとに違う

また、同じ学校内で感染が蔓延した場合には、流行の規模に応じて学級閉鎖や学校閉鎖といった対応がされます。しかし、厳密に何人以上インフルエンザを発症したら学級閉鎖になるという取り決めはなく、自治体によって異なります。基本的にはクラスの児童数の2割以上が欠席した時点で学校長が学校医の判断を基に決定されることが多いようです。一方で、社会人の場合、職場での出勤停止期間などは学校のように法律で定められていません。したがって、会社によっても対応は異なり、社会人の方は、就業規則等を確認されたほうがよいでしょう。学生のように自宅療養できない場合もあると思いますが、基本的には学校保健安全法に準じて「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」出勤を控えるのが適しています。また、診断書や治癒証明書に関しては学校や会社によっても対応が異なるようですので、確認する必要があります。

微熱で元気なら入浴も可

 

インフルエンザにおける入浴については、微熱まで下がり元気があれば、短時間の入浴も可能です。以前までは風邪を引いたら入浴はしないほうが良いとされていましたが、現在ではある程度体力が回復しており、元気があれば入浴してもよいというのが一般的になっています。ただし、インフルエンザの場合には高熱が出ますので体力の消耗も激しく、判断は慎重にしたほうが良いでしょう。心配であれば医師に相談したほうがよいでしょう。

また、入浴する際は長湯や湯冷めはしないように心がけ、水分もしっかり摂るようにしましょう。また、インフルエンザウイルスは温度と湿度に弱いので、お湯を介して感染するということは考えにくいですが、タオル等を介した感染には注意し、タオルの使い回しは避けたほうがよいです。

驚く子供

死亡する確率が高いインフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症は主に5歳以下の乳幼児に発症し、インフルエンザ発病後に急激に意識障害など脳の症状が出る病気です。インフルエンザにかかった子どものうち、インフルエンザ脳症を発症するのは1万人に1人と、決して確率的には高くありません。ただ、死亡率は高く(10%から30%)、後遺症も10~40%の子どもに見られるほど重い病気のため、小さな子どもを持つ親の関心も高く、社会的に大きな注目を集めています。

毎冬のインフルエンザ流行期に100人から300人の子どもが発病していて、流行の規模が大きいほど患者も多くなり、「A香港型」と呼ばれるウイルスの流行時に多発しています。この脳症は単一の病気でなく、いくつかのタイプに分かれます。(1)脳全体にはれ(脳浮腫)があり、他の多くの臓器の障害や血液の障害を伴いやすい最も重症のタイプ、(2)けいれんで発症することが特徴で、脳浮腫は部分的で、脳や神経の後遺症を残しやすいタイプなどが主なものです。

免疫の過剰反応が原因?

原因はまだ不明のところも多いようですが、他のウイルスより毒性の強いインフルエンザウイルスに対して、体を守るための「免疫」と呼ばれる機能が、過剰に反応することが考えられています。免疫が反応する際、血液の中に免疫反応の伝達の役目をしている炎症物質(サイトカイン)が大量に出されます。サイトカインは本来身体の機能を調節する大切な役割を持っていますが、サイトカインが白血球から過剰に分泌されるとアレルギーと同じような反応が起こるのです(「サイトカインの嵐」と呼ばれています)。この物質の一部が脳の血管にダメージを与え、脳に水分がもれやすい状態となり、脳の浮腫を起こします。

インフルエンザ脳症の3つの症状

インフルエンザ脳症の症状は、発熱から、数時間から1日と、短いタイミングで発症する特徴があります。初めにおきる症状は以下の通りです。

(1) 意識障害:意識レベルの低下が急なものや、初めから高度なもの(いわゆる「昏睡」といわれる状態)は、重症型の可能性が高く、特に注意が必要です。
(2) けいれん:発熱後24時間以内に15分以上続くけいれんや、くりかえすけいれんは脳症の場合が多いようです。
(3) 異常な言動と行動:およそ1時間以上続く異常な言動や行動、同時に意識レベルの低下を伴っているものが要注意です。

インフルエンザ脳症のサイン

インフルエンザ脳症患者家族の会「小さないのち」(http://www.chiisanainochi.org/)の調査により、インフルエンザ脳症が発症する直前、お母さんたちが感じていた異常がまとめられています。家庭で気づけるサインとして、インフルエンザに伴う次のような行動や言動には注意して下さい。

(1) 両親がわからない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)。
(2) 自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
(3) アニメのキャラクター、象、ライオンといった動物などが見える、など幻視や幻覚的な訴えをする。
(4) 意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
(5) おびえ、恐怖、恐怖感の訴えや表情をする。
(6) 急に怒りだす、泣き出す、大声で歌いだす。

このようなサインは、単に発熱による異常行動かもしれませんが、しばらく続くようだと脳症を発症する可能性もあります。早めに医療機関を受診したほうがよいでしょう。

後遺症は身体だけでなく精神にも

インフルエンザ脳症の後遺症は、大きく身体と精神の障害の2つに分けられます。 「身体障害」では残る可能性の高いほうから、以下のようなものがあります。

(1)手足のマヒなどの運動マヒ
(2)ものが飲み込みにくくなる、えん下の障害
(3)視力の障害
(4)聴力の障害

どれも、その程度はさまざまです。ごく軽いものから、寝たきりの状態になる程重い場合もあります。

「精神障害」は知能の低下(知能障害)とてんかんが多くなっています。てんかんは、インフルエンザ脳症になってから10カ月以内に起きることが多く、薬による発作のコントロールが難しい例(1日1回以上の発作例)が半数近くあります。明らかな知能の低下以外にも、物事を認知する機能などの障害もあります。視力に問題はないのに見えるものを認知できない視覚認知の障害、記憶の障害、注意や集中の障害、衝動や感情を抑えることができない「脱抑制」などです。後遺症に対するリハビリテーションは身体の障害ばかりでなく、認知機能の障害などに対しても行われています。

解熱剤に注意が必要な理由

インフルエンザ脳症は、重い後遺症が残る可能性があるため、慎重な対応が必要となります。インフルエンザ脳症は、脳のむくみが原因となるため、例えばアスピリンやジクロフェナム、メフェナム酸といった血管から水が漏れ出しやすくなるような解熱剤は、脳のむくみを進行させて重症化させてしまう原因となるため、解熱目的で使うことができません。また、インフルエンザ脳症が出ていない場合でも、使用することで脳症を誘発する場合もあるので、インフルエンザに対して解熱剤を使用する際には注意が必要です。

インフルエンザ感染時の発熱は39℃を超えることも多く、小さい子供にとっては非常につらいものです。発熱自体は正常な免疫の反応なので、必ずしも熱を下げる必要はありません。しかし、食事を取れないほど身体がだるくなる場合、解熱剤にはアセトアミノフェンという種類のものが比較的安全に使用できるとされています。インフルエンザで解熱剤を使用する場合は必ず医師に確認するか、小児科で処方されたものを使用するようにしましょう。

予防接種に一定の期待も

インフルエンザ脳症を起こす原因はまだあまりよく分かっていませんが、インフルエンザのウイルス量や体調、体質などが発症に関与しているのではないかと言われています。ウイルスの量を抑える薬として、抗ウイルス薬であるタミフルやリレンザ、アマンタジンなどが挙げられますが、発症から48時間以内に投与しなくては効果がありません。また、免疫系の過剰な活性化を抑える「大量ステロイド投与療法」は、脳症発症後に対する治療として効果的ですが、予防的に投与することはできません。

一方、ワクチンの接種は、高齢者のインフルエンザによる重い合併症や死亡を予防する上で特に効果的とされており、小児のインフルエンザ脳症のリスクも下げると言われています。しかし、ワクチン接種を行っていても脳症を発症した例もあり、その予防効果は完全とはいえません。

いずれにせよ、現状インフルエンザ脳症を完全に予防する方法はないので、小さいお子様はワクチンを接種した上で、流行シーズンには人混みを避けたり、手洗い・うがいをするといった予防をしっかり行うようにしましょう。


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