胞状奇胎の原因、種類、なる確率、再発と出産の可能性 癌になる?なぜ「ぶどうっ子」と言う?

  • 作成:2016/04/18

胞状奇胎とは、着床後に子宮内に粒々が多数できる状態で、「ぶどうっ子」とも呼ばれています。症状の出方によって、「全胞状奇胎」「部分胞状奇胎」など種類がわかれます。残念ながら、胞状奇胎となって無事出産することはありません。確率や再発可能性も含めて、専門医師監修記事で、わかりやすく解説します。

平松晋介 監修
ちくご・ひらまつ産婦人科医院 院長
平松晋介 先生

この記事の目安時間は6分です

胞状奇胎になる確率はどれくらい?
胞状奇胎とは何? 胞状奇胎の概要
胞状奇胎の原因
胞状奇胎が「ぶどうっ子」と言われる理由
全胞状奇胎とはどんなもの?
部分胞状奇胎とはどんなもの?
侵入胞状奇胎とはどんなもの?
胞状奇胎が癌になる?
胞状奇胎となる確率
胞状奇胎は「流産」?胞状奇胎から無事出産することがある?
経験者は再発しやすい 高齢出産もリスク

胞状奇胎とは何? 胞状奇胎の概要

胞状奇胎(ほうじょうきたい)とは子宮内に粒々としたものが多数できる病気で、「ぶどうっ子」とも呼ばれています。胞状奇胎は欧米よりも、日本を含む東アジアに多く見られます。近年は少子化に伴い、胞状奇胎の絶対数は減少傾向にありますが、日本では約500回の妊娠につき1回の割合で発生するとされています。また、妊娠する年齢が高齢になった場合、特に40歳以上の場合、胞状奇胎の発生する確率が高くなると考えられています。

また、今までの妊娠で胞状奇胎を経験した女性が再び胞状奇胎になる確率、つまり再発確率は、約2%とされていますので、なりやすい人がいると言えます。胞状奇胎自体はまれではありますが、どの時代でも一定程度ありえる病気だといえます。

胞状奇胎の原因

胞状奇胎の発生原因は、妊娠が成立するとき、つまり女性の体内で精子と卵子とが受精する際に、何らかの異常が生じて起こります。胞状奇胎はその見た目から「全胞状奇胎(ぜんほうじょうきたい)」と「部分胞状奇胎(ぶぶんほうじょうきたい)」に分類されます。全胞状奇胎と部分胞状奇胎は原因も異なります。

「全胞状奇胎」は文字通り、胎盤の一部を形成する「絨毛(じゅうもう)」という組織の全てが、「嚢胞(のうほう)」という袋状の構造をしています。そのため、全胞状奇胎には胎児としての成分は存在しません。一方、「部分胞状奇胎」は、絨毛の一部が嚢胞の構造でありながら、他の部分が胎児成分でできています。

また、正常の妊娠から生まれる赤ちゃんは通常、父親の精子由来の1つの核(DNA)と母親の卵子由来の1つの核(DNA)から生じる、「2倍体」という状態で発生します。しかし、全胞状奇胎は母親の卵子由来のDNAが何らかの理由により消失し、父親の核(DNA)のみから発生します。一方、部分胞状奇胎は、父親の精子由来の2つの核(DNA)と母親の卵子由来の1つの核(DNA)から発生します。部分胞状奇胎は3つの核(DNA)から発生するため、「3倍体」と呼ばれています。また、まれな場合ですが、2つの受精卵から生じる2卵性の双子で、一方が胞状奇胎となり、もう片方が正常な赤ちゃんとして誕生する場合もあります。

胞状奇胎が「ぶどうっ子」と言われる理由

いずれの胞状奇胎であっても、その外観は少なくとも一部がぶどうの房のような姿をしています。これが、胞状奇胎が「ぶどうっ子」と呼ばれている理由です。胞状奇胎で見られるぶどうの房は、嚢胞(のうほう)と呼ばれる構造物で、胎盤の一部である絨毛から発生したものです。

全胞状奇胎とはどんなもの?

胞状奇胎のうち、全ての絨毛が嚢胞化しているものを「全胞状奇胎」といいます。そのため、胎児の姿が見られないことが、重要な特徴の一つです。全胞状奇胎は母親の卵子由来の核(DNA)が何らかの理由により消失し、父親の核(DNA)のみから発生します。また、全胞状奇胎は精子由来の核(DNA)のみを持つため、「雄核(ゆうかく)発生」とも呼ばれています。

胞状奇胎を診断する際に重要なのは、超音波の検査の結果です。解像度の悪い機器ですと、吹雪の様に斑点が散乱した状態が観察され、解像度の高い機器では、多数の嚢疱が観察されます。また、血液検査や尿検査も重要です。正常の妊娠では、妊娠10週ごろ、妊娠の有無を表す「hCG(エイチシージー)」というホルモンの量が血液中で数万から10万mIU/mLまで増加します。ところが、全胞状奇胎の場合は、同時期のhCGが50万から100万mIU/mLにまで増加します。

部分胞状奇胎とはどんなもの?

胞状奇胎のうち、一部の絨毛のみが嚢胞化(のうほうか)しており、胎児成分も一部に認めるものを「部分胞状奇胎」といいます。部分胞状奇胎は父親の精子由来の2つの核(DNA)と母親の卵子由来の1つの核(DNA)から発生するため、3倍体(通常の胎児は2倍体)であることが知られています。部分胞状奇胎も全胞状奇胎と同様、妊娠10週ごろ、正常の妊娠では妊娠の有無を表すhCGが血中で数万から10万mIU/mLまで増加するのに対して、部分胞状奇胎は数10万mIU/mLにまで増加します。

全胞状奇胎と異なるのは、絨毛癌が発症することは稀とされています。

侵入胞状奇胎とはどんなもの?

「侵入胞状奇胎」とは全胞状奇胎・部分胞状奇胎に関わらず、子宮の筋層内へ病気が侵入した胞状奇胎全てを指します。つまり、子宮の筋層内に侵入したものが「侵入胞状奇胎」、侵入せずに子宮内にとどまっているものは「非侵入胞状奇胎」といいます。

全胞状奇胎は、子宮の筋層内へ侵入しているか否かで、さらに「非侵入全胞状奇胎」と「侵入全胞状奇胎」(後述)とに分類されます。部分胞状奇胎は、全胞状奇胎と同様、子宮の筋層内へ侵入しているか否かで、さらに非侵入部分胞状奇胎と侵入部分胞状奇胎とに分類されます。

侵入胞状奇胎は、絨毛癌と同様、早期に血液中へと侵入し、肝臓や肺といった様々な臓器へ転移することが知られています。そのため、侵入胞状奇胎であると判断された患者さんには、薬剤を用いた化学療法が治療の中心となります。全胞状奇胎の方が侵入胞状奇胎になりやすく、具体的には、全胞状奇胎のうち約10%から20%、部分胞状奇胎のうち約2~3%が侵入胞状奇胎になるとされています。

胞状奇胎が癌になる?

妊娠に関わる癌として、絨毛にできる絨毛癌が知られています。通常、絨毛で癌が生じる可能性はそれほど高くなく、約5万から10万例に1例が絨毛癌となるとされています。しかし、全胞状奇胎の場合、全胞状奇胎の約1%から2%に絨毛癌が発症するとされており、全胞状奇胎は正常の妊娠と比べて、約1000倍なりやすいことを意味しています。一方、部分胞状奇胎の場合、絨毛癌の発症は稀とされています。

絨毛癌では月経(生理)周期が乱れたり、不正な性器出血が見られます。また、絨毛癌は血液を介する転移が多いため、肺や肝臓に癌ができた時と似たような症状が現れます。具体的には、咳や血の混じった痰(たん)が見られたり、意識がもうろうとする、頭痛がするなどといった症状が現れます。

絨毛癌に対する治療は「多剤併用化学療法」と言う絨毛癌に対して効果のある様々な薬を用いたり、手術で絨毛癌を取り除くなどの方法がとられます。絨毛癌は様々な臓器に転移するため、「絨毛癌にかかる=死」をイメージされることもしばしばあります。しかし、絨毛癌に対する化学療法の技術が進歩して、治療成績は向上しました。

胞状奇胎となる確率

日本では約500回の妊娠につき1回の割合、つまり約0.20%の確率で胞状奇胎と診断されます。あるいは、約300回の分娩に1回の割合、つまり約0.33%の確率で胞状奇胎と診断されます。全社母親の卵子と父親の精子が受精し妊娠することを1回と数えているのに対して、後者は妊娠を経て赤ちゃんが生まれる、つまり分娩を1回と数えているため、2つの確率は異なっています。しかし、本質に的差はありません。

胞状奇胎は「流産」?胞状奇胎から無事出産することがある?

妊娠22週よりも前に妊娠が終わることをすべて「流産」といいます。つまり、妊娠後22週よりも前に妊娠が終わっていれば、定義上は胞状奇胎も「流産」に含まれると言えます。流産は、原因が明らかで、かつ有効な治療方法が存在していれば、対応ができることができます。しかし、胞状奇胎はその原因が明らかになっていないため、胞状奇胎の原因に対する治療をすることができません。辛い事実ですが、胞状奇胎と診断されると、無事に赤ちゃんが生まれることはありません。また、妊娠反応検査や超音波検査(エコー検査)、さらには顕微鏡を用いて、細胞などの組織の状態確認する「生検」の検査結果から、現在の妊娠が胞状奇胎であると診断されると、胞状奇胎に対する治療を早急に行う必要があります。

経験者は再発しやすい 高齢出産もリスク

胞状奇胎には、なりやすい人、なりにくい人が存在します。例えば、20歳代で妊娠した人と比べて、40歳以上で高齢妊娠をした人は胞状奇胎になりやすいことが分かっています。胞状奇胎になる数は20歳から30歳代の方が多いとされていますがこれは妊娠、分娩の絶対数が多いためであり、確率として40歳以上の女性のほうが胞状奇胎になりやすいのは間違いありません。40歳以上の高齢妊娠の場合ですと、40歳未満の人と比べて胞状奇胎になる確率は約20倍から30倍も高いとされています。つまり、40歳以上の高齢妊娠の場合、約4~6%の確率で胞状奇胎になるということになります。

また、以前に胞状奇胎になった経験がある場合、胞状奇胎になった経験がない人と比べて胞状奇胎になる確率は約10倍高いとされています。つまり、約2%の確率で胞状奇胎になるということができます。さらに、「高齢出産」「胞状奇胎野経験者」という2つの条件が組み合わさると、再び胞状奇胎になる確率はさらに高くなりうると考えることができます。

胞状奇胎になる確率は一見すると0.20%と低いと思いがちですが、高齢妊娠や胞状奇胎の既往がある場合だとその確率は2%から6%まで上がります。胞状奇胎は決してまれな病気ではないと言えます。胞状奇胎の再発率が高くなることから考えると、母親あるいは父親の遺伝子等の異常が示唆されます。しかし、胞状奇胎が再発する原因は明らかになっていません。


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胞状奇胎の種類や確率についてご紹介しました。妊娠の状態に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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