ウイルス性肝炎の症状とA型、B型、C型の違い

  • 作成:2016/08/26

身体にとって重要な栄養を貯めたり、逆に有害な毒素を体外に排出する役割を持っている「肝臓」。この肝臓の細胞が破壊され炎症がおこる病気が肝炎です。肝炎のほとんどはウイルスの感染によっておこり、ウイルスにはA型、B型、C型などの型があります。肝炎の症状や原因、治療法、予防法について医師監修のもと、分かりやすく紹介します。

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ウイルス性肝炎の症状とA型、B型、C型の違い

目次

肝炎の症状はさまざま

肝炎とは、肝臓の細胞(肝細胞)が破壊され、炎症が起きる病気です。

肝臓は、代謝、たんぱく質や脂質、胆汁酸(たんじゅうさん)などの物質の合成、 糖など体にとって必要な物質の貯蔵、体の中の不要物の排泄を行っています。

肝炎になると、肝臓の細胞が死んでしまうので、肝臓の仕事である代謝、合成、排泄、貯蔵が適切に行えなくなり、さまざまな症状が出現します。


肝炎の初期症状は風邪に似ている

肝炎の前触れともいえる前駆(ぜんく)症状は、発熱、のどの痛み、頭痛といった症状で、風邪に似ています。この症状から、肝炎初期では、風邪と診断されてしまうこともあります。


肝炎の有名な症状「黄疸(おうだん)」

肝炎の有名な症状として皮膚や白目の部分が黄色くなる黄疸(おうだん)があります。 黄疸がでる少し前には、ウーロン茶のような茶色くにごった色の尿が出ることがあります。 これを褐色尿(かっしょくにょう)といいます。

黄疸が進むにつれて尿は更に濃くなり、コーラのような色になっていきます。 黄疸が出現する頃には、全身のだるさ、疲れやすさ、食欲不振、悪心吐き気、嘔吐の症状もみられるようになります。


劇症肝炎(げきしょうかんえん)の症状

更に、劇症肝炎(げきしょうかんえん)といって、急激に著しい肝臓の肝機能働きの低下がおこると、体内でアンモニアなどの毒性物質を取り除くことができなくなることにより昏睡状態となったり、両手を広げて鳥が羽ばたくような震え(はばたき振戦)が生じたり、口臭が甘酸っぱいような不快な臭いのアンモニア臭が生じたり、血液の凝固因子が減少してしまいます。


B型肝炎特有の症状とは

B型肝炎ウイルスに感染した場合には、発疹や筋肉痛、関節痛が出現することがあります。 また、小児がB型肝炎ウイルスに感染すると全身に発疹が出現する例があり、ジアノッティ病といわれています。


肝炎の症状が出ないケース

反対に、肝炎ウイルスに感染しても、症状が出ない場合もあります。 肝炎ウイルスに感染すると、体の免疫機構が働き、肝炎ウイルスを免疫が攻撃します。

その時に肝細胞も一緒に破壊されることから肝炎となるのですが、免疫が肝炎ウイルスを認識しない場合は、ウイルスを攻撃できず、肝細胞も破壊されません。いってみれば肝炎ウイルスと肝細胞が共生できている状態です。

このようなウイルスに感染していても何の症状も出現しない場合は、持続感染者(無症候性キャリア)といわれます。

肝炎の原因とは?

肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が破壊されていく病気を肝炎といいますが、その原因にはウイルス、アルコール、薬物、自己免疫などがあります。肝炎の中には肝硬変から肝がんへ移行してしまうものもあります。


肝炎の80%はウイルスが原因

日本の肝炎の約80%がウイルス性といわれています。

一般に肝炎というとウイルス感染によるものをいうことが多く、ウイルス感染以外が原因で起こる肝炎の場合は、肝炎といわず肝障害と言われます。例えば薬によるものは薬物性肝障害と言われたりします。


ウイルスにはA~Eの型がある

肝炎を引き起こすウイルスには、A、B、C、D、Eの型があります。 それぞれのウイルスの型で感染経路や慢性化しやすいなどの違いがあります。


型ごとに違う感染経路

肝炎ウイルスの感染経路(かんせんけいろ)は、 A型、E型肝炎ウイルスの感染経路は経口感染(けいこうかんせん)、 B型、C型、D型肝炎ウイルスは主に血液や体液を介して感染します。

経口感染とは、肝臓で増殖したウイルスが胆汁、腸管から便の中に排出され、 ウイルスが入った排泄物が何らかの経路で口の中に入ってしまい感染することです。


A型肝炎ウイルスの感染経路

A型肝炎ウイルスは、経口感染のため、主に水や食べ物を介して感染します。

日本では衛生状態が改善していることもあり感染者は減少していますが、 若い頃にA型肝炎になった高齢の方の中にはA型肝炎ウイルスの抗体を持っている方も多くいます。

日本では、症例は多くありませんが、井戸水や生ガキなどの二枚貝、輸入の冷凍イチゴを食べた後の感染が報告されています。症状が出るまでの期間(潜伏期間)は、2週間から6週間です。


B型肝炎ウイルスの感染経路

B型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスキャリアやB型肝炎の患者の血液や体液を介して感染します。

原因として、性行為や病院などでウイルスに汚染された針を誤って刺してしまうことで感染する 針刺事故、B型肝炎ウイルスを持つ母親から感染する母子感染があります。

輸血も感染原因の一つですが、輸血で利用される血液は通常、血液にウイルスが含まれていないかチェックした後に輸血しますので、献血を利用した輸血で肝炎ウイルスに感染することはほとんどありません。

また、B型肝炎の母子感染は、1989年からB型肝炎の母親から産まれてきた子どもに対して、 ワクチン接種が開始されています。そのため、ワクチン接種により、子どもがB型肝炎ウイルスキャリアとなる数は減少しています。

B型肝炎ウイルスの潜伏期間は1ヶ月から6ヶ月です。


B型肝炎ウイルスの感染経路

C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスと同様、血液や体液を介して感染します。 しかし、性交渉での感染や母子感染は、B型肝炎ほど頻度は高くありません。

以前は輸血に使用する献血の血液から感染することもありましたが、 B型肝炎ウイルスの場合と同様、現在は感染の心配はほとんどありません。

このほかに、入れ墨を入れたり、覚醒剤などの薬物使用者による注射器の使い回しなどで感染する例もあります。

ウイルスの潜伏期間は1ヶ月から3ヶ月です。


D型肝炎ウイルスの感染経路

D型肝炎ウイルスも血液、体液を介しての感染です。

潜伏期間は1ヶ月から6ヶ月です。D型肝炎ウイルスは、 感染するときにB型肝炎ウイルスが必要になります。そのため、D型肝炎ウイルスは、 B型肝炎ウイルスに感染している場合にだけ感染します。


E型肝炎ウイルスの感染経路

E型肝炎ウイルスはA型肝炎ウイルスと同様、ウイルスが含まれた食物や水から感染します。 E型肝炎ウイルスは元々感染力が低く、大量に体内に入らない限り感染することはないとされます。

しかし、充分に加熱されていない豚、猪、鹿の食肉を食べて感染した例が報告されており、 妊婦では重症化し死亡する可能性もあるので注意が必要です。潜伏期間は3週から9週です。

肝炎の種類 A型、B型、C型~E型の違い

1995年以降の日本の肝炎は、原因ウイルスがA型(HAV)、B型(HBV)と、 A型・B型・C型以外がそれぞれ約30%、C型(HCV)が約10%となっています。

D型肝炎は診断が難しいことなどから、正確な感染状況は不明です。 肝炎は、原因となるウイルスによって経過と重症度が異なってきます。


A型肝炎の特徴

A型肝炎は、一時的な感染(一過性感染)で慢性化 (6か月以上の肝機能異常とウイルス感染が持続している状態)や劇症肝炎、 癌になることはほとんどありません。

高齢者の場合は、若年層に比べて、劇症化や腎不全や心不全などの合併症が起こり 重症化するケースが少なくないため、注意が必要です。

A型肝炎はほかの肝炎に比べて、38℃以上の発熱が多くみられることが特徴です。

ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間を潜伏期間といいますが、 A型肝炎ウイルスの潜伏期間は、2週間から6週間で、症状が出る直前が最も感染力が強いとされます。


B型肝炎の特徴

B型肝炎は、基本的に一過性の感染のことが多く、 一度感染して治癒するとB型肝炎ウイルスに対して免疫ができるので、B型肝炎にはなりません。

ところが、B型肝炎ウイルスが持続感染する場合があります。

B型肝炎ウイルスに新生児から乳幼児期に感染した場合や病気の治療などで免疫抑制状態の場合、B型肝炎ウイルスの中のgenotypeAという遺伝子型のウイルスに初感染した場合には キャリアとなりやすいといわれます。

B型肝炎ウイルスの潜伏期間は1ヶ月から6ヶ月となっています。


C型肝炎の特徴

C型肝炎ウイルスは、他の肝炎が一過性であることが多いのとは異なり、 約50%から90%の人が、感染すると肝炎が長引いたり、慢性化します。 C型肝炎が慢性化した場合は肝臓の軽度の炎症が長く続いた後、 十数年経過した頃、次第に急激に活動性が活発になって、肝硬変や肝がんに進行します。 現在、日本の肝がんの約80%がC型肝炎ウイルスに関連すると言われています。 潜伏期間は1ヶ月から3ヶ月です。


D型肝炎の特徴

D型肝炎は、一過性の場合も慢性化する場合も、どちらもあります。 潜伏期間は1ヶ月から6ヶ月です。


E型肝炎の特徴

E型肝炎はA型肝炎と同様、一過性感染のみで、慢性化することはありません。 しかし、重症化の頻度は高く、特に妊婦が感染すると死亡率は10%から20%となります。

急性肝炎が重症化したり劇症化して死亡する確率は、A型肝炎とC型肝炎では0.5%以下、 B型とA型、B型、C型以外では1%から2%と考えられています。

なお、肝炎の人の体液や血液に注意して生活すれば、 普通の生活で肝炎ウイルスがうつる事はありません。

肝炎の治療方法と注意点

急性肝炎が重症化・劇症化しなければ、肝炎は治る可能性の高い病気です。 しかし、劇症肝炎となった場合には高い確率で死に繋がります。

肝炎は、原因となるウイルスによって経過と重症度が異なり、予防や治療方法が変わります。 どの肝炎にも共通する治療は、安静にして肝臓に血液を充分に送り、肝障害の治癒を促すことです。 ほかには、食事療法、薬物療法があり、予防するためのワクチンがあります。


食事療法中はタンパク質の制限が必要

肝臓でタンパク質の代謝を行うため、肝炎の時にあまりタンパク質を取ると 肝臓に負担がかかってしまいます。そのため、タンパク質は60g/日以下に制限する必要があります。 しかしタンパク質を取らないと、充分なカロリー摂取が難しくなってしまうので、カロリーを補うために、 糖類を主体に1日1800キロカロリー程度を目安に食事をとります。 実際には個人の体重に合わせて、必要なエネルギーを計算します。


治療に使う薬の種類は?

薬物療法では、副腎皮質ステロイド、 B型肝炎に対して抗ウイルス剤、B型、C型肝炎に対してインターフェロン(IFN)治療があります。 近年、C型肝炎に対しては新薬であるインターフェロンを含まない経口タイプの抗ウィルス薬も 保険適用となっています。

副腎皮質ステロイドは、肝炎が重症化したり劇症化した場合や、 胆汁うっ滞型肝炎、自己免疫性肝炎の場合には使用されますが、 基本的に肝炎の治療にはあまり使用しません。 肝炎をかえって長引かせてしまう副作用があるからです。 そのため、使用する場合も、できるだけ短期間の使用とされます。


インターフェロン(INF)治療とは?

インターフェロン(INF)はB型、C型肝炎ウイルスが体内で増殖するのを防ぎ、 2ヶ月から6ヶ月間投与をします。INFにはα、β、γの3つのタイプがあり、 治療ではINF-αがよく使われます。INFは、C型肝炎の中でも遺伝子型の2a型、 2b型に治療効果が高いとされます。しかし、効果があまりない遺伝子型もあり、 日本で多い1b型のC型肝炎ウイルスには効きにくいため、 INF療法の治療効果は40%から60%程度とされます。

INFの副作用では、インフルエンザのような症状がよく見られます。 頻度は少ないものの、鬱状態、小紫胡湯(漢方薬)との併用で間質性肺炎となる場合もあります。

B型肝炎に対しては抗ウイルス剤があり、ラミブジンやエンテカビルがあります。


重症の肝炎は専門病院で治療

C型肝炎以外の急性肝炎は、本来、治癒しやすい病気です。 重症化、劇症化した場合は、専門病院での治療になります。 肝疾患治療の中心となる病院が、各都道府県に原則として1か所以上指定されています。 肝疾患診療連携拠点病院といわれる医療機関で、 その中には肝疾患相談支援センターが設置されており、肝炎に関する質問や相談を受け付けています。

また、B型・C型の肝炎治療に対して、 厚生労働省や各都道府県の医療費助成制度が利用できる場合があります。 また、政令指定都市や特別区、市区町村が肝炎ウイルス検診を無料で実施していることもあります。 詳しくは、お住いの都道府県・市区町村にお尋ねください。

肝炎の予防に有効なワクチン摂取

肝炎の予防としては、A型とB型肝炎に対してワクチン接種があります。

A型肝炎ウイルスに対しては、2回から3回のワクチン接種を行います。 初回のワクチン接種の2週から4週後、6ヶ月後に行います。緊急性がある場合は、 初回と2週間後の2回でも効果があるとされます。

B型肝炎ウイルスに対するワクチンは、初回、1ヶ月後、6ヶ月後の3回行います。 B型ワクチン接種を行った後は通常、3年から4年効果が持続するといわれています。

C型、D型、E型肝炎ウイルスに対しては、ワクチンはありません。

D型肝炎はB型肝炎ウイルスに感染している場合にのみ感染するため、 B型肝炎ウイルスに感染しないことが予防策となります。

E型肝炎ウイルスに対しては、現在、ワクチンの開発研究が行われています。 しかし、現段階ではまだ実用化されていません。感染源との接触を避けて、感染を防ぐ事が一番の対策です。 感染源との接触を避けるのは、他のウイルス性肝炎にも言えることですが、 特にワクチンのないウイルスに対しては予防が重要となります。


最後に

肝炎の症状と種類、治療方法についてご紹介しました。肝炎に関して不安や悩みが解消されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?

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