脚気の原因、症状、治療、予防方法 今でもなる?心不全につながる?検査と診断の方法も解説

  • 作成:2016/09/21

脚気とは、ビタミンB1の不足で神経症状が出る病気です。膝をハンマーで打つ「腱反射」という現象が起きないと脚気を発症している可能性があるとされていて、膝を打った経験のある方も少なくないかもしれませんが、死亡する可能性もある重大な病気です。また、過去の病気ではなく、現在の日本でも発症する方がいます。症状、治療などを含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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脚気はどう予防する?

目次

脚気の原因はビタミンB1不足?

「脚気(かっけ)」とは、ビタミンB1の不足が原因で起こる全身の病気で、正しくは「チアミン欠乏症」といいます。チアミンとは、ビタミンB1の別名です。ビタミンB1は、食べ物などに含まれている糖質を体内でエネルギーに変換するときに欠かせない栄養素であり、特に運動中は大量のビタミンB1を必要とします。また、脳や神経組織の働きをスムーズにするためにも、ビタミンB1は欠かせません。

ビタミンB1が不足すると、体内では糖質が不完全燃焼状態となり、筋肉の中には乳酸という疲労物質が蓄積したり、脳から神経への情報伝達がうまくいかなくなったりします。さらにビタミンB1欠乏症が進行すると、神経や筋肉だけでなく心臓や脳などにも影響を及ぼすこともあります。

脚気は、放置すると生命に影響を及ぼすだけでなく、後遺症につながる可能性もある病気です。気になる症状がある場合は放置せずに内科を受診してみましょう。

脚気は過去の病気ではない?今でも発症する?

かつて、「脚気」は日本でもよくみられた病気で、命を落とす人も少なくありませんでした。しかし、明治時代に脚気の原因がビタミンB1不足であることがわかり、脚気の予防法や治療法が確立するにつれて脚気を発症する人は少なくなりました。現在は、脚気は過去の病気と思っている人も少なくありません。

ところが、現在でも脚気を発症する人は珍しくありません。実は日本人の多くがビタミンB1不足の状態なのです。

ビタミンB1摂取の推奨量は、年齢や性別によって違いがありますが、厚生労働省は、毎日のビタミンB1摂取量として、成人男性は1.2mgから1.4mg、成人女性は0.9mgから1.1mgを摂ることを推奨しています。しかし、2014(平成26)年の調査では、日本人成人1日あたりのビタミンB1平均摂取量は、男性が0.93mg、女性が0.77mgにとどまっています。ビタミンB1摂取量の推奨量は年齢や性別によって違いがあるものの、年齢や性別に関係なく、多くはビタミンB1不足である現状です。

なお、日本人がビタミンB1不足であるのは、インスタント食品などの加工食品の摂り過ぎなどが原因と考えています。

どんな人が脚気になりやすい?

脚気はビタミンB1不足が原因の病気であるため、ビタミンB1が不足しやすい状態の人がなりやすいとされています。特に注意が必要な人は、アルコールを大量に飲む人です。体内でアルコールなどの糖質を分解するためにはビタミンB1が必要なため、アルコールを大量に飲む習慣がある人は、ビタミンB1が不足しやすくなります。

脚気は、インスタント食品や清涼飲料水、菓子類などを食べることが多い人も注意が必要です。加工食品には炭水化物や糖分などの糖質が大量に含まれている製品が多いため、体内で大量のビタミンB1を必要とし、通常のビタミンB1摂取では足りなくなりがちです。

また、激しい運動や肉体労働をする、甲状腺機能亢進症である、妊娠中または授乳中である人なども、ビタミンB1が不足しやすいため脚気になりやすいとされています。

ビタミンB1不足は、脚気を発症する要因ですが、ビタミンB1は、体内に蓄えることができない性質があり、一度に大量に摂っても吸収されずに体外に排出されてしまいます。そのため、ビタミンB1は毎日摂り続けることが必要です。

脚気はなぜ「脚気」という漢字が使われる?

脚気という病気の名前で「脚」という漢字が使われているのは、足の先端を刺すような痛みやけいれんなど、脚から症状が現れることが多いためです。

脚気の場合、膝の下にハンマーを当てても反応がなく脚が動かない「腱反射減弱(けんはんしゃげんじゃく」という症状が知られていますが、これも、脚気による末梢神経障害のひとつです。ただし、脚気は、末梢神経障害であるため、放置すると、末梢神経が通っている手先など、足以外にも症状が現れようになります。

脚気になるとどんな症状が出る?

脚気の初期段階では、疲れ、イライラ感、記憶力低下、睡眠障害、前胸部の痛み、食欲不振、腹部の不快感などが現れます。さらにビタミンB1不足状態が続くと、末梢神経障害が起こり、神経や筋肉に異常がみられるようになります。つま先に針で刺されるよう痛み、脚のけいれんや痛みなどが現れます。足が焼けるような感覚は夜間に激しい症状として、現れる傾向があります。手足などにみられる末梢神経障害のことを乾性脚気と呼ぶこともあります。

さらに症状が進行すると、全身に症状が現れ、脳の機能にも影響を及ぼすようになります。脳の異常は「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」と呼ばれ、主にウェルニッケ脳症とコルサコフ精神障害の2種類に分けられます。

ウェルニッケ脳症を発症すると、自分の意志と関係なく眼球が動く「眼振」や眼の筋肉麻痺など眼の症状や歩行困難がみられ、錯乱状態になることもあります。治療をせず放置すると、昏睡状態となり死に至ることもあります。コルサコフ精神障害は、発声障害、最近のでき事の記憶障害、覚えていないことをつくろうために作り話をする「作話症」、錯乱などがみられます。



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脚気で心不全になるって本当?脚気心とは?

ビタミンB1不足が続くと、心臓からの血液量が増加して脈が速くなります。また、血管が拡張して、皮膚が熱を帯びて湿っぽくなるため、「湿性脚気」と呼ぶこともあります。さらに症状が進行すると、心臓の機能が著しく低下する心不全となることがあります。ビタミンB1不足が原因の心不全のことを「脚気心」と呼ぶことがあります。ショック状態を起こしたり、血液が酸性になる「代謝性アシドーシス」という状態を起こしたりすることもあり、死亡することがあります。

脚気の初期症状は、ただの体調不良と判断して放置されることも少なくありませんが、症状が進行すると、生命の危険を脅かす可能性がある病気です。気になる症状がある場合は、自己判断せず医師に相談しましょう。

脚気の場合どんな検査をする?ハンマーでわかる?他には?

脚気の可能性がある場合、医師が診察の際、膝の下をハンマーのようなもので叩く「腱反射検査(けんはんしゃけんさ)」を行うこともあります。ただし、膝のケガなどで腱反射がうまくいかない人もいるため、腱反射検査だけは脚気と診断することはほとんどありません。

脚気と診断するためには、通常は血液検査の結果で判別します。血液検査では、血液中に含まれるマグネシウムなどのミネラルなどの割合を調べる「電解質検査」を行います。マグネシウムが不足すると、足がつったり、手足がしびれたりなど脚気と似た症状が見られるため、マグネシウム不足など他の原因がないことを確認するために行います。

また、ビタミンB1が足りなくなると「トランスケトラーゼ」という酵素の働きが低下するため、赤血球中のトランスケトラーゼ活性(働きの具合)を検査したり、「24時間尿中チアミン排泄量」、つまりビタミンB1の排泄量を調べたりすることもあります。

脚気の治療ではどんなことをする?薬はどんなもの?

脚気の治療では、ビタミンB1の投与が基本です。ビタミンB1は市販の医薬品やサプリメントなどもありますが、脚気の場合は、医師が処方するビタミンB1または体内でビタミンB1に換わる「ビタミンB1誘導体」という医薬品を服用します。血液検査の結果が判明するために約1週間かかるため、脚気と診断する前からビタミンB1を服用することもあります。

脚気の症状がとくに重い場合は、筋肉にビタミンB1を注射することがあります。心不全を起こしているときは、患者さんの症状に応じて血管を広げて血液の流れをよくする「血管拡張薬」、心拍のリズムを整える「抗不整脈薬」などを使用することがあります。

なお、ビタミンB1は水に溶けやすい性質のため、摂り過ぎると体内には蓄えられず尿と一緒に排出されてしまいます。脚気の自覚症状がなくなっても、医師の指示に従って処方された薬を服用し続けることが大切です。

脚気を予防するには?食べ物の注意点は?白米より玄米?

脚気を予防するには、ビタミンB1を毎日十分に摂り続けることが大切です。ビタミンB1は、玄米、豆類、豚肉、うなぎなどに多く含まれています。白米は玄米を精製して、胚芽や糠(ぬか)を取り除いたものですが、胚芽や糠に多く含まれるビタミンB1も失われてしまっています。ビタミンB1を毎日効率よく摂るためには玄米または胚芽米の方が好ましいとされています。また、玉ねぎ、にら、にんにく、ねぎなどの食材には、ビタミンB1の吸収を高める「アリシン」という成分が含まれています。

また、アルコール、インスタント食品、清涼飲料水、菓子類など糖質が大量に含まれる飲食物を好む人は、食習慣を改めるだけでなく、積極的にビタミンB1を摂るように心がけましょう。食べ物だけではビタミンB1を十分摂れない場合は、サプリメントなどで補うのもよいでしょう。

脚気についてご紹介しました。栄養状態に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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