局所麻酔とは?どんな手術で必要?種類がある?注射は痛い?薬の種類、副作用なども解説

  • 作成:2016/08/24

局所麻酔とは、文字通り、体の一部に効く麻酔です。具体的には痛みが伝わる神経の伝達を止めることとなります。「局所麻酔」と一言にいっても、体の表面にぬるものから、注射で薬を注入するものもありまう。薬の種類や副作用などもふくめて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

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局所麻酔が必要な手術や、麻酔の種類を知ろう

目次

局所麻酔とは?

麻酔は一般に全身麻酔と局所麻酔の2種類に大別されます。どちらの麻酔も、手術、処置、検査などのために薬によって痛みを感じないようにすることは同じですが、第一に大きく違うのは意識消失の有無になります。今回のテーマである「局所麻酔」は、意識のある状態、つまり目覚めている間に痛みをとることができる方法です。

次に、痛みをとるメカニズムも大きく違います。全身麻酔が麻酔薬を脳に作用させて、脳が全身の痛みを感じとることができない麻酔状態を作り出すのに対して、「局所麻酔」は、対象となる部位の痛みを伝える神経や脊髄(せきずい)を一時的に麻痺(まひ)させる薬(局所麻酔薬;後述)を使うことによって脳への信号がブロックされ、痛みのない状態を作ります。

局所麻酔は主として以下のような場合に多く使われます。

(1)皮膚や粘膜(ねんまく)の表面に注射で薬を浸潤(しんじゅん、浸透ささせること)させて痛みをなくし(局所浸潤麻酔;後述)、小手術や救急処置などを行う場合(例えば歯医者さんの麻酔)
(2)もう少し広い範囲の痛みをなくし、下半身の手術などを行ったり、大きな手術の全身麻酔に併用して術後の痛みをとるような場合

局所麻酔が選択されるのはどのような場合?

局所麻酔は、全身麻酔に比べ基本的に患者さんに対する負担の少ない麻酔です。とくに、注射で薬を浸潤させて痛みをとる(局所浸潤麻酔;後述)麻酔の場合に当てはまります。

(1)小手術;「皮膚表面の腫瘤(しゅりゅう;“できもの”)の摘出」、「切創(せっそう;切り傷の)の縫合(ほうごう)」など
(2)外科的処置;「チューブやカテーテル留置のための皮膚切開・縫合・固定時」など
(3)検査;「造影検査など太い針を血管に刺す時」など、が行われる場合、

上記のような場合、「適切な部位や範囲」、「適切な時間内」、および「麻酔薬の適切な量」で用いられる限り、たとえ患者さんの希望があったとしても全身麻酔の選択の余地はありません。むしろ全身麻酔では、行われる手術などよりも麻酔自体の患者さんへの負担が大きくなってしまうからです。

上記に比べ、もう少し広い範囲の部位における手術(例えば、①下半身(へそから下の手術で、婦人科の病気、虫垂炎<盲腸>、痔、下肢の骨折など)、②腕とくに肘(ひじ)より先の手など)では、全身麻酔でも、局所麻酔(特に「脊髄くも膜下麻酔」や「伝達麻酔」;後述)のどちらでも可能な場合が多くあります。

担当する麻酔科が「局所麻酔を選択する条件」としては以下のようなものがあります。

・呼吸機能の高度の低下がある
・重篤(じゅうとく)な合併症がある。具体的には心臓病、肝臓病、腎臓病などの不全状態
・重症の高血圧、糖尿病など生活習慣病
・妊婦さん(とくに初期)
・アレルギー体質
・患者さんの希望」

局所麻酔の種類

感覚神経の受容器(じゅようき;痛みなどの刺激を受けとる神経)から脊髄までの間のどこかでブロック、つまり神経の信号伝達を一時的に断つのが局所麻酔です。局所麻酔薬を投与する部位によって一般に次の5種類が挙げられます。

(1)表面麻酔;
皮膚や粘膜表面に局所麻酔薬を投与して、内部へ浸透させ感覚神経終末へ作用させて痛みをとる方法です。皮膚表面に貼るテープ、粘膜に塗るゼリー、喉頭(こうとう)や気管に噴霧するスプレー、眼球や結膜への滴下(たらすこと)などがあります。

(2)局所浸潤麻酔(単に「浸潤麻酔」とも);
皮下や粘膜組織内などに局所麻酔薬を注射で投与して、薬が浸潤した範囲の感覚神経をブロックします。注射部位の比較的狭い範囲の痛みをなくすのに利用されます。

(3)伝達麻酔;
末梢神経の周辺や神経叢(しんけいそう;末梢神経が枝分かれしたり集まったりして網目状になっている部分)に局所麻酔薬を投与して、その神経の支配している領域が無痛になります。代表的なものに、「腕神経叢ブロック(わんしんけいそうぶろっく)」があります。

(4)硬膜外(こうまくがい)麻酔;
脊髄も脳と同じように、外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」という3層から成る「髄膜(ずいまく)」に包まれ、保護されています。硬膜の外側にある「硬膜外腔(こうまくがいくう)」とよばれるスペースに局所麻酔薬を注入して、脊髄からでてきた神経(正式には「脊髄神経根」)がスペースを通過する部位で、ブロックします。全身麻酔と併用して行われ、硬膜外腔に細いチューブを留置することで、術後の痛み止めに使われることが一般的です。

(5)せき髄くも膜下(せきずいくもまくか)麻酔;
前述の「くも膜」と「軟膜」の間は「くも膜下腔(くもまくかくう)」といわれ、脳脊髄液(主としてクッションと代謝の役目をする無色透明の液体、単に髄液ともいわれます)で満たされています。腰部のくも膜下腔の髄液中に局所麻酔薬を投与することにより、主に下半身の脊髄神経をブロックします。このため、「腰椎麻酔(ようついますい)」あるいは「下半身麻酔」などともよばれます。感覚神経だけでなく、運動神経もブロックされますので、足が一時的に動きにくかったり、動かなくなったりしますが、麻酔が切れれば戻るので心配はいりません。

局所麻酔の注射は痛い?痛みを和らげる措置はある?

局所麻酔では、表面麻酔を除いて、いずれも針を刺して、つまり注射で行われますが、麻酔の種類によって使用する針は大きく異なります。

1.浸潤麻酔;
一般の注射(予防注射など)と同じような極細い針で可能ですから、それほどの痛み(刺す時の)はありません。ただし、局所麻酔薬の種類によっては、組織とのpH(水素イオン濃度のことで酸性、アルカリ性への傾きをあらわします)の違いから、薬自体が痛いことがあります。個人差もあるようです。

2.せき髄くも膜下麻酔;
比較的長い特殊な針(スパイナル針とよばれます)を腰部の背骨の隙間から、くも膜下腔まで進めます。最近では、できる限り細いスパイナル針を使用する傾向にありますが、針の先端が、確実にくも膜下腔に入っていることを髄液の逆流によって確認するため、細さにも限界があるようです。麻酔科の医師によって、刺す部位の痛みをとるために同部位の皮膚や皮下に浸潤麻酔をする場合と、しない場合があります。非常に細いスパイナル針を使用する医師の中には、背中にする浸潤麻酔の方が、むしろ痛いという見解をもつ人もいるようです。

3.硬膜外麻酔;
上記のせき髄くも膜下麻酔と同様に背中(主に胸部または腰部)から、硬膜外腔まで「硬膜外針(こうまくがいしん)」といわれる、かなり太い特別な針を使って、進めます。硬膜外への穿刺は、一般に痛み止めをしてからでないと無理です。皮膚を含め針の通り道に、十分な浸潤麻酔をしてから硬膜外穿刺が行われます。硬膜外針が太い理由は、術後の鎮痛(ちんつう、いたみをしずめること)に使うチューブを通して、留置する処置があるからです。

局所麻酔はどれくらいの時間続く?

局所麻酔に使用される薬(局所麻酔薬;詳しくは後述)は、「効果の発現が速く、効果が持続する時間は短い種類」のものと、「効果の発現は遅いが持続時間の長い種類のもの」の2つに大きく分けられます。

浸潤麻酔、神経ブロック、せき髄くも膜下麻酔においては、持続時間の短い種類の薬を用いた場合、1時間から2時間くらい効果が続きます。持続時間の長い薬の場合は、3時間から4時間程度の麻酔効果が期待できます。

ただ、浸潤麻酔では、手術の部位は皮膚や粘膜の表面であるために、薬の効果が薄れた場合には、手術を一旦中止して、極量(きょくりょう;中毒などを起こさないための安全に使用できる量の上限です)の範囲内で追加できますので、時間の延長が可能です。神経ブロックや、せき髄くも膜下麻酔に関しては、手術を中止して薬の追加を行うことは一般的にできません。

硬膜外麻酔では、事情が少し異なります。全身麻酔に併用して行われ、術後の痛み止めのために留置された硬膜外チューブから薬が投与されます。したがって、薬の追加により麻酔時間の延長は可能ですし、一般に、手術終了から術後に向けては、専用のポンプ (静脈注射などで持続的に薬物を一定量で投与する時に用いる「シリンジポンプ」というものと同様の機能のもの) により、持続的に投与することが可能で、術後の痛みに合わせて時間は延長できることになります。

局所麻酔薬の種類

局所麻酔薬の歴史は古く、紀元前からいわゆる麻薬として用いられていたコカインから始まっています。1884年、最初に手術で使われた局所麻酔薬はコカインで、点眼による表面麻酔で白内障の手術に成功しています。局所麻酔薬の化学的な基本構造は、「ベンゼン環」と「アミン」という構造が2種類の化学結合によってつながれています。化学結合の1つは「エステル結合」と呼ばれるもので、(A)「エステル型局所麻酔薬」であり、もう1つは「アミド結合」で、(B)「アミド型局所麻酔薬」といわれます。

(A)エステル型局所麻酔薬;

歴史的な「コカイン」もエステル型に含まれます。エステル型の局所麻酔薬は、血中の「コリンエステラーゼ」という物質によって分解(加水分解)されますが、分解の結果産まれる物質がアレルギー(後述)を起こすことが知られています。脳脊髄液中には、コリンエステラーゼが少ない(血中の1/20から1/100)ことから、エステル型は分解されにくく、せき髄くも膜下麻酔に適するとされています。代表的な薬は最初に合成された「プロカイン」で、作用時間の短いタイプの薬で浸潤麻酔などによく使われます。「テトラカイン」は2時間程度までの手術で、せき髄くも膜下麻酔によく使われています。

(B)アミド型局所麻酔薬;

アミド型の局所麻酔薬は、肝臓で代謝・分解されるため、肝不全(かんふぜん)の患者さんでは中毒(後述)を起こしやすくなります。ただ、アミド型の薬自体のアレルギー(後述)はないとされています。代表的な薬は「リドカイン(商品名キシロカイン)」で、作用時間は短いタイプですが効果があらわれるのが速く、表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔(おもに手術中に)と幅広く使用されています。硬膜外麻酔において、術後の痛み止めのための持続的な投与に有利な作用時間の長いタイプの薬には、「ブピバカイン(マーカイン)」、「ロピバカイン(アナペイン)」などがあります。

局所麻酔薬の種類と作用機序

痛みなどの感覚は、受容器(痛みの場合、「痛点」とも)から脊髄まで、末梢神経の中をシグナル(信号)として伝わっていきます。実際には、神経の細胞膜の内と外の間の電位の差(専門的には“活動電位”といいます)が次々と伝導していくメカニズムになっています。活動電位は、Na+(ナトリウムイオン)が細胞の外から内へ、細胞膜にあるチャンネルを流れ込むことで発生します。

局所麻酔薬の作用機序としては、末梢神経の薬を作用させた部位において、Na+チャンネルをブロックすることで活動電位の発生を止めます。結果として、活動電位が伝導していくことを防ぐことができ、痛みなどのシグナルが伝わらないようにするというものです。

局所麻酔薬の副作用 アレルギーもありえる?

局所麻酔薬によるアレルギー反応やアナフィラキシー(全身性に症状がでる重症型のアレルギー反応)は、他の薬物(例えばアスピリンや抗菌薬など)に比べて極めて少ないことがしられています。したがって、局所麻酔では、アレルギーに対する使用前の皮内テストは一般に行われていません。

一方、歯科治療などでは、急に生じた「気分不良、顔面蒼白(そうはく)、失神」といった症状が、即時的な反応であるアナフィラキシー様として、局所麻酔薬アレルギーと診断されていることも少なくないようです。しかし、反応のほとんどは薬物自体が原因ではなく、強いストレス(不安、恐怖、痛みなど)からくる神経因性の反応とされる血管迷走神経失神(「デンタルショック」とも)と考えられています。

局所麻酔薬アレルギーは少ないとはいえ、とくにエステル型局所麻酔薬の体内での分解産物が、アナフィラキシーを引き起こすことがしられています。また、アミド型局所麻酔薬では、薬自体でなく、添加物(てんかぶつ;抗菌物質など)がアレルギー反応の原因になることがあるとされていて、注意が必要です。

局所麻酔中毒とは?

局所麻酔薬が血管内に入り、血液や脳内の濃度がある一定以上に達すると中毒症状があらわれ、「局所麻酔薬中毒」とよばれています。原因は、主として以下の2つです。

(1)目的の組織中ではなく、誤って血管内へ注入された場合
(2)使用する局所麻酔薬の濃度が高すぎたり、量が多すぎることにより血液中へ吸収される量が増え、分解が追いつかない場合

(1)は、神経ブロックなどで目的の末梢神経周囲にある血管への誤投与してしまうことなどが多いようです。(2)の原因は、一般に血流の豊富な組織、とくに粘膜などへの投与(浸潤麻酔)で多いとされています。

(1)に多い急性中毒の典型的な症状は、初期には「興奮相(こうふんそう)」といわれ、興奮や多弁から痙攣(けいれん)を起こし、高血圧や不整脈が出現します。さらに進むと「抑制相(よくせいそう)」となり、意識の消失、呼吸の抑制、血圧の低下などが起こるとされています。

他に局所麻酔の合併症はある?

局所麻酔のうち「せき髄くも膜下麻酔」および「硬膜外麻酔」には、局所麻酔薬中毒以外で起こる合併症がいくつかあります。

(1)血圧の低下;「せき髄くも膜下麻酔」「硬膜外麻酔」共通 両麻酔によってブロックされる範囲の何本かの脊髄神経には、痛みなどを伝える感覚神経だけでなく運動神経や交感神経(こうかんしんけい;自律神経の1つ)も含まれています。交感神経は、末梢の血管の緊張を保つ働きをしているために、ブロックされると血管が拡張して血圧が様々な程度に低下します。

(2)硬膜外血腫または出血;主に「硬膜外麻酔」
心臓の病気または脳梗塞などで、血液を固まりにくくする抗凝固薬(こうぎょうこやく)や抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)を服用している患者さんでは、硬膜外穿刺が血管を傷つけた場合、大量出血したり血腫をつくったりする危険が高くなります。薬を一時的に止めること(休薬)が可能な場合は、術前に一定の休薬期間を設けて凝固能を正常化して対処します。休薬が不可能な場合は硬膜外麻酔は中止して、全身麻酔だけで手術が行われます。

(3)麻酔後頭痛;主に「せき髄くも膜下麻酔」
脊髄くも膜下麻酔で手術をした後、起き上がった時などに頭痛を感じることが比較的多くみとめられます。脊髄くも膜下麻酔では、くも膜を針で刺すことにより小さな穴が開くために、穴から脳脊髄液が漏れだすことが術後に起こる頭痛の原因と考えられています。最近では、非常に細いスパイナル針を使うことが多いため、麻酔後頭痛の頻度は減少しているようです。枕を低くしてベッド上で横になって、あまり動き回らなければ、普通は1週間程で良くなります。



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