全身麻酔の副作用、合併症リスク、局所麻酔との違い、死亡確率 「無気肺」「痰」についても解説

  • 作成:2016/01/13

全身麻酔は、薬を脳に作用させて、患者が痛みを感じず、かつ安全に手術するために実施されます。副作用としては吐き気といった軽いものが起こることがあります。非常にまれですが、アレルギーなどを引き起こすことがあり、死亡するケースもないわけではなありません。全身麻酔のリスクや「無気肺」と呼ばれる状態も含めて、専門医師の監修記事でわかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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目次

全身麻酔と局所麻酔の違い

麻酔は大きく全身麻酔と局所麻酔の2つに分けられます。どちらも手術のために薬によって痛みを感じなくさせますが、その時、意識がないのが全身麻酔、あるのが局所麻酔です。簡単には手術中に眠っているか目覚めているかという違いがあります。

痛みをとるメカニズムも異なります。局所麻酔は手術をする部位の痛みを伝える神経や脊髄を一時的に麻痺(まひ)させる薬(局所麻酔薬)によって行われます。

一方、全身麻酔は薬(全身麻酔薬)を脳に作用させて、麻酔状態をつくります。この状態では、脳が痛みを感じとることができないため、手術の部位に関係なく全身に痛みはありません。

一般に小手術(抜歯、皮ふ表面の小さなできものをとるなど)や、へそより下の手術(婦人科の病気、虫垂炎、痔、下肢の骨折など)では局所麻酔が行われます。いわゆる「下半身麻酔」は局所麻酔の1つです。

全身麻酔では、(1)意識をなくし、(2)痛みを感じず、(3)筋肉がゆるみ、(4)有害な自律神経の反射がでない状態にすることが可能です。

したがって、腹や胸を開ける手術、脊椎(せきつい)、顔面や頭部、および脳の手術など患者さんのストレス(手術の部位や時間、出血の量などで決まります)が比較的大きな手術に用いられています。



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全身麻酔のメリットは?麻酔関連死亡は10万例に1例以下

全身麻酔のメリットは手術中に「意識がない」ことです。どんな手術でも不安を感じやすい患者さんが、不安を感じずに済みます。

次に「安全性」です。専門の麻酔科医が付き添い、患者さんの全身状態を適当なモニター下に管理します。患者さんの安全に加え、外科医も手術に専念できます。

全身麻酔で使用する薬の種類は、局所麻酔に比べどうしても多くなります。薬が合わなくてアレルギーなどを起こすリスクはあります。麻酔に関連する死亡のリスクは、日本麻酔学会のデータでは極めて低い(10万例に1例以下)ものになっています。

軽い合併症 吐き気や頭痛が起きる可能性がある

副作用や合併症のうち比較的軽く、よく見られるものは次のようです。

1. 吐き気、おう吐;手術の前にある程度の時間は飲食しないようにして予防しますが、しばしば起こります。吐くこと自体は心配ありません。

2. 頭痛;麻酔後に頭が重い感じがすることがありますが、次第に回復します。

3. のどの痛み、声がかすれる;一般に全身麻酔では、眠った後に口または鼻から気管にチューブを通し、人工呼吸をするためです。一時的でほとんどの場合、数日のうちにおさまります。

4. 寒気や発熱;麻酔の影響で体温の調節能力が一時的に低下するためです。しばらく温めれば、少しずつおさまります。

5. 歯が抜ける、唇のきずやはれ;チューブを気管に入れる時の器具を使った操作により起こります。歯がグラグラしていたり、口が大きく開かない人に起こりやすいようです。

6. のどの渇き;麻酔の前にだ液の分泌を少なくする注射をすることがあります。そのため術後にも、のどの渇く感じが残ることがあります。

重い合併症 非常にまれだが、肺炎やアレルギーが起きることも

副作用や合併症の中には重篤なものもありますが、発生は非常にまれです。

1. 肺炎; 麻酔中や麻酔直後に、胃の中身のものが気管内や肺に入り、ひどい肺炎が起きることがあります。誤えん性の肺炎と呼ばれています。

2. アレルギー; 麻酔薬や麻酔で使用する薬が体に合わない方がまれにいます。じん麻疹程度ですむ場合から呼吸困難やショックにまで進むこともあります。

3. 肺塞栓症; 麻酔中や術後は、じっと横たわっているので下肢(脚の部分)の血流が停滞し、血管の中で血液が固まりやすくなります。これが肺の中で詰まると突然、重症のショック状態となります。特に喫煙習慣、肥満、経口避妊薬の服用、下肢静脈瘤などがリスクを大きくする要因です。

4. 悪性高熱症; 麻酔薬により筋肉が硬直し高熱が生じ、危険なショック状態になる遺伝的な異常です。この遺伝を持っている人は2万から6万人に1人程度ときわめてまれです。一度発症すると約10%の死亡率があります。

術後合併症の無気肺とは?痰が関係?

全身麻酔による手術後には、呼吸器の合併症として「無気肺(むきはい)」という状態が起こりやすくなります。「無気肺」とは、以下2つの状態が起きます。

(1)手術後の創部の痛みによる「呼吸の運動の抑制」。小さく浅い呼吸へ変化します
(2)挿入されていた気管内チューブの刺激などによる「気管内の分泌物(いわゆる、痰)の増加・貯留」などによって、末梢の気管支がふさがります。その結果。肺胞(はいほう)と外気との交通が断たれ、肺胞内に空気がなくなり、つぶれた状態になります。肺胞とは、血液との間で酸素や二酸化炭素を交換する肺の小さな部屋です。

無気肺は放置されると、分泌液内で細菌が繁殖して、肺炎(術後肺炎)を引き起こします。無気肺は術後36時間以内に発症しやすく、術後肺炎は術後1週間前後に発症することが多くなっています。

個人差はありますが、全身麻酔後は、どうしても痰の分泌が多くなります。無気肺を防止するためには、「痰をしっかり出し、深呼吸すること」により、肺胞をつぶれにくくしなければなりません。

術後の創部痛によってできなくなっている場合には、鎮痛薬を効果的に使用してもらいます。また、うがいなどで口腔内に湿り気を与えたり、ネブライザー(薬液などを含んだ細かい霧を発生させる装置)を用いて分泌物を軟らかくして、出しやすくすることが効果的とされています。



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