「更年期が終わったら元気になる」はカン違い…? 閉経後の不調に備えて、早めにできる対策とは
- 作成:2022/09/06
女性のライフステージにおいて、大きな転換点となる更年期。AskDoctorsでは産婦人科医の宋美玄先生に、更年期についてわかりやすく解説していただきます。シリーズ第4回は「更年期以降にかかりやすくなる病気」を取り上げます。
この記事の目安時間は3分です
閉経後の女性は、男性よりエストロゲンが少ない!
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
女性ホルモンのエストロゲンの分泌量は、閉経が近づくと急激に減少し、閉経を過ぎるとほぼなくなります。
エストロゲンは月経・妊娠・出産に深くかかわるホルモンですが、ほかにも大切な役割を担っています。血管や心臓、骨を強化し、脳内の神経伝達物質を増やして脳を活性化するなど、女性が心身の健康を保つ上で重要な働きをしています。閉経以降はこうしたエストロゲンの恩恵が受けられなくなってしまうんですね。
あまり知られていませんが、60代女性の血中エストロゲン値は、なんと男性よりも低くなってしまうのです。それだけ、健康管理には注意が必要になる年代と言えるでしょう。
エストロゲンの欠乏の影響は全身に
エストロゲンによる守りを失った体に加齢の影響も加わると、さまざまな不具合が発生します。いくつか紹介しましょう。
脂質異常・動脈硬化
エストロゲン欠乏の影響が顕著に表れるもののひとつが、コレステロールや中性脂肪といった「脂質」の値です。エストロゲンには、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を減らす働きがあります。閉経以降はその働きが失われ、血中のLDLコレステロールや中性脂肪の値が増加しやすくなります。
LDLコレステロールの増加は、動脈硬化を進める大きな原因に。さらに動脈硬化でしなやかさを失った血管は、狭心症や心筋梗塞など命にかかわる病気を招きます。こうした病気は、エストロゲンが減少する更年期からじわじわと体を蝕んでいることが少なくありません。
また、高血圧や糖尿病など、生活習慣病全般にもなりやすくなります。
エストロゲンに守られていた閉経前までは、食べ過ぎや運動不足といった不摂生をしていても何とかなっていたかもしれませんが、閉経以降はそうはいきません。生活習慣にいっそう注意する必要があるのです。
骨粗鬆症
エストロゲンは、骨の代謝とも関係が深いホルモンです。骨は常に古い骨を壊して新しい骨を作ることを繰り返し、強度を保っています。エストロゲンが減少すると、骨を壊す破骨細胞の働きが活発になって骨量の低下が進んでしまいます。骨がスカスカになった状態を骨粗鬆症と言い、ちょっと転んだだけで骨折してしまうことも。骨折から寝たきりになり、介護が必要になることも少なくありません。
婦人科系
更年期以降に増えてくる婦人科疾患と言えば、子宮が正常位置から少し下がる「子宮下垂」や、子宮下垂が進行して膣の外にまで出てきてしまう「子宮脱」などが挙げられます。加齢とともに骨盤内で子宮を支えている筋肉や靭帯が弱くなることに加え、エストロゲンが失われることで起こりやすくなります。
また、膣粘膜が萎縮して弾力性がなくなり、性交痛や膣炎の原因になることも。子宮体がんや卵巣がんなど、婦人科系のがんにも注意が必要です。
尿トラブル
骨盤内の筋肉の中でも骨盤底筋が衰えると、尿漏れや頻尿、尿失禁などの尿トラブルが増加します。骨盤底筋は出産や加齢で弱くなっていきますが、便秘で長時間いきむ、草むしりなどのしゃがみ姿勢、きついガードルによる圧迫といった、過度に腹圧をかける習慣によっても衰えが加速します。
歯や目の不調、認知症のリスクも…
さらに更年期以降は、婦人科系だけでなくさまざまな部位のがんになる人が増え、歯周病や目の病気、認知症などにもなりやすくなります。不調を感じたときは、そのままにしないで医療機関を受診してください。「更年期はこういうもの」「年を取ったから仕方がない」などと思いこんでいると、病気を見逃してしまうことにもなりかねません。
ふだんの生活でも疲れたら無理をしないでゆっくり休む、年に一度は健康診断を受けるなど、今まで以上に健康管理を心がけましょう。
人生の後半を健康で楽しく過ごすために
これから更年期を迎える女性たちは、「更年期の荒波を乗り切ったら、また元気な日々が待っている」と期待しているかもしれませんが、それは勘違いです。
確かに、更年期が終わる頃には更年期障害も落ち着きますが、そのあとには長い長い「老年期」が続いています。前述の通り、エストロゲンに守ってもらえなくなった体は生活習慣病や骨粗鬆症、認知症などのリスクが高まります。これらの不調や病気は更年期障害のように一過性のものではなく、むしろだんだん悪くなっていきます。
長い後半の人生を健康に生きるために、更年期の先を見据えた対策をしましょう。
例えば、更年期障害の治療として行われる「ホルモン補充療法」には、エストロゲンの欠乏が原因で生じるさまざまな不調や病気を防ぐ効果もあります。更年期が近づいたらかかりつけの婦人科医を決めて、適切な時期にホルモン補充療法をスタートするというのもひとつの方法です。
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
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