マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、初期症状として熱が出るほか、乾いていて、長引くしつこい咳が特徴です。症状が風邪に似ている側面もありますが、マイコプラズマを疑うポイントは咳以外にもあります。マイコプラズマ肺炎の症状や治療について紹介します。

マイコプラズマ肺炎の症状

初期症状は発熱

マイコプラズマ肺炎の初期症状は発熱です。38度台の比較的高熱が出ることが多く、何日か遅れて咳がでてきます。最初のうちは一般的な風邪と変わらないことが多く、全身の倦怠感(だるさ)や咽頭痛(のどの痛み)を伴います。風邪の症状に続いて咳が次第に悪化していき、頑固な咳が続きます。この咳は風邪のように痰(たん)が多くからむわけではなく、乾いた咳であるのが特徴です。

マイコプラズマ肺炎を疑う場合

マイコプラズマ肺炎を疑うチェック項目としては、以下のようなものがあります。

  • 長期間にわたって頑固な咳が続く
  • 抗生物質の一種である「β-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系など)」を使用しても症状が改善しない
  • 喘息の持病のある子供が気管支拡張薬を使用しても発作を繰り返す
  • 家族など周りにマイコプラズマ肺炎の患者がいる
  • 保育園や学校などでマイコプラズマ肺炎が流行している

ただし、感染した人がすべて何らかの症状を発症するというわけではなく、ほとんどの場合は不顕性感染(症状が現れないが感染していること)であり、実際に症状が出現するのは10%以下と言われています。

頻度は低いが重症な合併症も

マイコプラズマ肺炎の合併症として、中耳炎、無中枢神経症状(菌性髄膜炎、脳炎、ギラン・バレー症候群)、肝炎、膵炎、腎炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、皮膚症状(スティーブンス・ジョンソン症候群)など多彩な症状を伴うことがあります。ただ、頻度は低いです。

肺炎に至らないことも

また、「マイコプラズマ肺炎」と「肺炎」という名前がついているものの、肺の炎症まで至らず、上気道炎、気管支炎の症状にとどまる場合もあり、レントゲンで異常が見られないこともあります。その場合の風邪との見分け方は、血液検査や周りでの発症や流行がないかを参考にして判断されます。

マイコプラズマ肺炎の原因

マイコプラズマ肺炎の原因菌は「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)」という細菌です。肺炎マイコプラズマは自己増殖能(自ら自分の複製を作ることができる)を持つ最小の生物で、一般的な細菌とは異なった特徴をいくつか持ちます。

1つ目は細胞壁を持たないことです。通常、細菌は細胞膜とその外側にある細胞壁という二重の膜に包まれています。しかしマイコプラズマは通常の細胞壁をもたず、細胞壁の合成を阻害することで治療効果をもつ「ペニシリン」や「セフェム系」などといわれる抗生物質が効かない特徴があります。また、マイコプラズマを培養するには「PPLO培地」という特殊な培地が必要であり、培養には1週間以上必要とします。

マイコプラズマ肺炎の感染経路は、飛沫感染と接触感染が考えられます。飛沫感染はマイコプラズマ肺炎患者の咳やくしゃみから、病気のもととなる菌を吸い込んでしまい感染する経路です。接触感染は直接患者に触れてしまうことや、患者が触れた物を触って口などから体内に入ってしまう経路です。1、2メートルの距離でも感染するとされていることから、学校などの閉鎖された環境で流行が起きやすいです。

マイコプラズマ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎と確定的に診断する(間違いないという診断)には、患者の咽頭をぬぐった液や痰(たん)からマイコプラズマの病原菌を分離して見つけることが必要となりますが、病原菌を培養するには1週間程度の時間を必要とするため、現実的ではありません。
実際の医療の現場では、血液検査で診断をしています。血液検査では抗マイコプラズマ抗体(原因菌と戦うための武器のようなもの)の上昇をもって確定診断されています。ただし、発症1週間以内の早期の時期では、抗体の増え方が十分でなく、「ペア血清」と呼ばれる、発症した初めの時期と回復する時期に血液検査をして判断する場合が多いです。

肺炎を疑った場合、まずレントゲン撮影は行われます。しかし、マイコプラズマ肺炎の場合、レントゲンの像は多様であり、レントゲンのみで診断することは難しいです。一般的な細菌による肺炎と異なり、スリガラス像(淡く白い像)をしていることが多く、マイコプラズマの影響が肺炎に至らず、気管支炎に留まっている場合にはレントゲンで異常を示さないことも少なくありません。
マイコプラズマ肺炎を発症した場合、抗生物質による治療が基本となります。ただし、一般的な「ペニシリン系」や「セフェム系」など「β-ラクタム系」と呼ばれる抗菌薬が効きません。そこで、別の仕組みで細菌を死滅させる「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」「ニューキノロン系」の薬がマイコプラズマ肺炎の治療には使用されます。

マクロライド系、テトラサイクリン系の抗菌薬は、細菌にとって必要なタンパク質の合成を阻害することで、細菌の増殖と発育を抑制しています。一方、ニューキノロン系は、細菌がDNAを複製するときに必要な酵素を阻害することで細菌を死滅させています。
一般的には、マクロライド系の「エリスロマイシン」や「クラリスロマイシン」などが、優先的に処方されることが多いです。
小学生以上では、テトラサイクリン系も使用することがありますが、副作用として歯に色が付いてしまったり、骨の発育不全があるため、妊婦と7歳以下の小児には使用できません。

薬が効かない菌が増えている?

近年、「マクロライド」と呼ばれる薬に対する耐性菌(薬が効かない菌)が増加してきており、問題となっています。そのため、症状がなかなか改善せず、入院治療が必要になる場合も出てきています。耐性菌の出現する割合は徐々に増えてきており、マイコプラズマ肺炎の流行する年に顕著となっています。2011年に流行した年のデータでは80%以上の耐性化を認めた報告もあります。
現在のところ小児、大人を問わず、第一選択(もっとも優先的に選択される薬)はマクロライド系ですが、耐性菌に対しては「ミノサイクリン」という薬が使用されています。ミノサイクリンはテトラサイクリン系の抗菌薬ですが、小児に対する使用は、歯の形成などの問題から、副作用を上回る効果が期待できる場合にのみ使用することになっています。

マイコプラズマ肺炎の予防

現在のところマイコプラズマ肺炎に有効な予防接種はありません。流行する季節には手洗いやうがいをし、マスクを着用すること、患者との接触をできるだけ避けることが大切です。
流行するシーズンにはできるだけ人混みを避けましょう。予防的にマスクを着用することも大切ですが、潜伏期間が1週間から2週間あるため、自分が感染している場合、他人に移してしまう可能性もあります。そのため、咳やくしゃみは人のいないほうにするなどちょっとした気遣いも感染をひろげないために大切です。

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