乳幼児の死亡率が高い「百日咳」 風邪とは違う症状と有効な予防法

  • 作成:2016/08/26

短い咳(せき)が長い期間続く「百日咳(ひゃくにちぜき)」は、最初は風邪と似た症状が出ます。ところが、小さな子供にうつると最悪の場合死亡することもあり、注意が必要な病気です。医師監修のもと、百日咳の代表的な症状や、原因と治療法、有効な予防法であるワクチンについて解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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乳幼児の死亡率が高い「百日咳」

目次

百日咳の代表的な症状

百日咳の症状は、発症してからの期間によって3段階に変化していきます。それぞれの期間の特徴と潜伏期間についてご説明します。


感染力が最も強い「カタル期」

まず、発症後1週間から2週間ほどの期間は『カタル期』と呼ばれ、鼻水が出る・咳(せき)が頻繁に出るなどの症状が起こります。普通の風邪と非常に似た症状ではありますが、風邪薬の類は基本的に効果がありません。

日を追うごとに咳はだんだんと強くなり、ますます頻繁に起こるようになっていきます。ちなみにカタル期は、最も百日咳を他の人にうつしやすい時期です。

咳をするときはハンカチやティッシュを口に当てるなどして、まわりの人に感染させないよう気をつけましょう。


短い咳が続く「痙咳期(けいがいき)」

カタル期の次は『痙咳期(けいがいき)』と呼ばれる期間がやってきます。痙咳期は、一般的に2週間から3週間ほど続きます。痙咳期には、けいれんのような「コンコン」という短い咳が発作的に起こるようになります。痙咳期に起こる短い咳は音楽記号になぞらえて『スタッカート』と呼ばれることもあり、連続的に何度も続くところが特徴的です。


夜になると喉から音が鳴る

発作的な咳のあとには、息を吸うときに喉から「ヒュー」と笛のような音が鳴る『笛声(てきせい)』という症状が見られます。咳と笛声の繰り返しは、特に夜間に起こりやすい傾向にあります。たいていの場合発熱は起こらず、もし起こっても微熱程度です。


目が赤くなったり、吐くことも

頻繁に咳が起こるために顔がむくんだり、鼻血が出たり、目が赤くなる『眼球結膜出血(がんきゅうけつまくしゅっけつ)』が起こったりするケースもよく見られます。咳が頻繁に起こると嘔吐を伴うこともあるため、水分不足や栄養不足に陥りやすくなります。こまめな水分・栄養補給を心がけましょう。


乳幼児は特に注意が必要

なお、乳幼児の場合は上手に咳ができず、発作的に無呼吸状態に陥ることがあります。無呼吸状態が続くとチアノーゼ(顔面蒼白)や全身のけいれん、呼吸停止などの深刻な症状を引き起こすことがあるため、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。 1歳以下の乳幼児、特に生後6ヶ月以内の乳児は、症状の重症化により死に至るリスクが高くなります。かつては日本でも百日咳を発症した子供のおよそ10%が亡くなっていました。特に危険な時期にあたるのが痙咳期であるため、この時期は保護者が目を離すことなく容体を見守りましょう。


回復期は約2~3週間

痙咳期を経たあとは、2週間から3週間にわたる『回復期(かいふくき)』がやってきます。名前の通り回復していく期間にあたり、徐々に発作性の咳が治まっていく時期です。

カタル期から回復期に変遷し百日咳が完治するまでの期間は、およそ2ヶ月から3ヶ月です。長い場合で3ヶ月と数週間、つまり100日ほどの期間にわたり咳が続くため、『百日咳』という病名がつけられました。

百日咳の潜伏期間は?

百日咳は、感染から発症までの間に潜伏期間をもつ感染症です。

百日咳の潜伏期間は、一般的には7日から10日ほどです。百日咳の原因である『百日咳菌(ひゃくにちぜききん)』に感染してから症状が現れるまでに潜伏期間があるため、いつ感染したのか特定しにくいという難点が生じています。

次は、百日咳の原因と『百日咳菌』について、くわしく解説していきましょう。

百日咳の原因は『百日咳菌』

百日咳の主な原因は、『百日咳菌』に感染することです。まれに『パラ百日咳菌』によって百日咳にかかることもありますが、ほとんどのケースでは百日咳菌が原因です。

百日咳菌・パラ百日咳菌は、鼻水や唾液などの体液を通して感染する『飛沫感染(ひまつかんせん)』や、百日咳菌に汚染されたものに触ることによって菌が体内に入る『接触感染(せっしょくかんせん)』により、人から人へとうつっていきます。


数年ごとに夏から秋にかけて流行

百日咳菌は世界中に分布していて、各地域ごとの流行が3年から5年ほどのサイクルで起こります。流行は一年を通してどの時期にも起こりますが、中でも夏~秋に流行することが多いようです。

百日咳菌がどのようにして百日咳を引き起こすのかはいまだに分かっていませんが、百日咳菌が活動する上で発生する毒素が咳などの症状を起こさせるのではないかと考えられています。

百日咳の治療方法は?

「百日咳にかかったかもしれない」と感じたとき、どの診療科にかかればいいか悩むことがあるかもしれません。特にかかりつけの医師がない場合は、まずは内科、小児科を受診してみてください。 あるいは、大規模な総合病院を訪れてもよいでしょう。百日咳の治療法は、出ている症状によって違ってきます。


初期のカタル期は抗菌剤が有効

百日咳の治療には、たいていの場合抗菌薬が用いられます。どの抗菌剤が処方されるかは患者さんの体質や医師の診断により異なりますが、一般的には『エリスロマイシン』や『クラリスロマイシン』などの『マクロライド系』と分類される抗菌剤を使うことが多いです。

これらの抗菌剤が有効なのは、百日咳の初期にあたる『カタル期』の間です。カタル期にマクロライド系抗菌剤を5日程度服用することで、百日咳を起こしている百日咳菌のほとんどの活動を押さえを陰性に変え、症状を抑えることができます。

カタル期、つまり症状の出始めに治療を開始することができれば、比較的に速やかに百日咳を治すことができるというわけですね。

抗菌剤は、百日咳菌を完全に滅ぼしつく体内から無くすすまで服用を続ける必要があります。そのため、服用から5日ほど経過し殺菌効果が得られたとしても、約2週間は抗菌剤の服用を続けましょう。


短い咳が出た後は対処療法に

カタル期が過ぎて『痙咳期』に移り、コンコンと短い咳が頻発するようになったら、『鎮咳去痰剤(ちんがいきょたんざい)』という咳・たんを治める薬を使います。

場合によっては、『気管支拡張剤(きかんしかくちょうざい)』を用いて気管支を広げ、息苦しさを軽減させることもあります。

ただし、鎮咳去痰剤や気管支拡張剤はつらい症状を鎮めるための対処療法であり、百日咳の根本的な解決には効果がありません。

かといって、痙咳期以降には抗菌剤の効き目がほとんど期待できないため、安静にしつつ自然回復を待つほかありません。その場合は、全身的な水分補給、十分な栄養の摂取、よく眠り体を休めることなどが大切になります。


他の治療方法は?

乳幼児などの患者さんが無呼吸状態や呼吸停止などの重症に陥った場合は、入院して人工呼吸器を着用させたり、いろいろな種類のウイルスに対する抗体である『ガンマグロブリン』を大量投与したり、緊急的な治療を施すことがあります。

家庭でできる咳止めの方法は、室温を20度以上に保つことや、加湿器などを使って湿度を上げること、水分を十分に摂ること、痰がでたら飲み込まずにその都度吐き出すことなどです。

タバコの煙は咳を悪化させるため、成人の患者本人が喫煙しないことはもちろん、百日咳患者の周辺では喫煙しないことを徹底してください。

なお、市販の咳止め薬は百日咳の発作的な短い咳を重くすることがあるため、服用しないようにしましょう。咳がつらい場合は医師に相談し、病状に合った処置を受けることが大切です。


関連記事:百日咳の治療、検査、診断基準 薬は抗生物質?大人は薬不要?

百日咳は予防が最も大切

百日咳の治療では、初期のカタル期の処置が最も重要です。しかし、カタル期の症状は普通の風邪と非常によく似ているため、痙咳期以降に治療を始めるケースが非常に多いのが現状です。

そのため、百日咳の症状に対抗する方法としては、治療よりも予防のほうが重要度が高いという見方もあります。特に乳幼児の場合は重症に陥ることがあるため、しっかりと予防に取り組むことがとても大切です。


ワクチン接種が一番の予防法

最も効果的な予防方法は、百日咳のワクチンを接種することです。乳幼児の場合、ジフテリア・破傷風(はしょうふう)・ポリオと併せた『四種混合ワクチン』の接種が義務づけられています。

接種の期間と必要回数も定められていて、初回接種を生後3ヶ月から12ヶ月の間に3回受け、その後12ヶ月から18ヶ月の間に追加接種を1回受ける必要があります。


ワクチンの副作用は?

ワクチンは百日咳の感染・発症を防ぐためにたいへん効果的ですが、副反応が起こることがあります。代表的な副反応は、注射を打った部分が赤く腫れたりしこりをもったりする症状です。

このような副反応は比較的起こりやすいものの、ほとんどの場合は問題のない程度で治まります。しかし、まれに腕全体が腫れるなど重症化することがあるため、異変があれば速やかに医師に相談してください。

副反応は、ワクチンの接種年齢が高いほど起こりやすい傾向にあります。副反応を軽く留めるため、できるだけ早いうちにワクチンの接種を済ませておきましょう。


ワクチンを受ける時の注意点

子どもがワクチンを接種したあとは、まわりの人に百日咳を発症させてしまう恐れがあります。そのため、ワクチンを接種した人の家族や濃厚接触者(物理的に密接に関わる人)は『エリスロマイシン』『クラリスロマイシン』などの抗菌剤を服用し、予防をしなくてはいけません。

なお、乳幼児が受ける予防接種の『四種混合ワクチン』の中にも百日咳ワクチンは含まれています。『二種混合ワクチン』には百日咳ワクチンが含まれていないため、予防接種を受けるときにはワクチンの内容をよく確認しましょう。

ここまで紹介したワクチンは、いずれも子どものための百日咳ワクチンです。大人のための百日咳ワクチンは、残念ながら日本では認可されていません。そのため大人の百日咳予防は、日常の中でできる予防方法を実践していくほかありません。


ワクチン以外の予防方法は?

百日咳予防のためにできる取り組みは、マスクの着用、こまめな手洗い・うがいによる消毒です。これらの習慣は、百日咳のみならず数々の感染症にも予防効果があります。特に手洗い・うがいは、季節を問わず毎日行うように心がけましょう。

手洗い・うがいをする際に重要となるポイントは、『薬用』と表示された石けんやハンドソープ、うがい薬などを使い、百日咳菌を殺菌することです。薬用でない石けんやうがい薬を使っても、感染症に対する予防効果はさほど期待できません。


もし家族が百日咳になったら

また、身近な人が百日咳にかかった場合、百日咳菌に感染する可能性が一躍高まります。百日咳菌の感染経路が飛沫感染と接触感染であることを意識して、百日咳患者の咳を浴びないこと、唾液や鼻水に触れないこと、患者が触ったものに触らないことなどに留意してください。

反対に、自分が百日咳にかかったときは、周りの人にうつしてしまわないよう気をつけましょう。特に、症状が深刻化しやすい乳幼児や子どもにうつさないよう細心の注意を払う必要があります。 発症中はもちろん、回復期を終えるまで子どもと接触しないよう心がけてください。

もしかして百日咳かもしれないと不安に感じている方や、この病気に関する疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、ご活用ください。

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