がん検診で「要精密検査」…不安や恐怖に振り回されないためには、検査と治療の流れを知ること

  • 作成:2021/10/13

乳がん検診を受けてから結果が通知されるまでは、少なからず心配なものです。いざ「要精密検査」の通知が来ると、誰でも不安で、再検査の日まで落ち着かない日を過ごすことでしょう。しかし、「要精密検査」の通知が来ても、必ずしも乳がんというわけではないのです。今回は、要精密検査の意味や、その後の検査や治療について乳腺専門医が詳しく解説します。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

がん検診で「要精密検査」…不安や恐怖に振り回されないためには、検査と治療の流れを知ること

実際に乳がんと診断される人は5~10%程度

乳がん検診で「要精密検査」と通知された人の中で、実際に乳がんと診断される人は5〜10%程度。意外と少ないと思いませんか? 9割以上の人は乳がんではなく、異常なし、または良性と診断されているので、過度に不安になる必要はありません。ただ、可能性が0ではない以上、私は必ず精密検査を受けて欲しいと思います。

精密検査では、多くは再度マンモグラフィ(乳房専用のX線撮影)や、乳腺エコー(乳房超音波検査)を行います。
乳がんを疑うような病変が乳腺エコーで見える場合には、「エコー下吸引細胞診」を行います。エコーで見ながらその病変に細い針を刺して細胞を取り、がん細胞があるかどうかを顕微鏡で見るものです。細胞診は細い針を使いますので、通常、麻酔を必要としません。しかし、採取できる量は少なく、診断が難しい場合もあります。その場合は、局所麻酔をしてもう少し太い針を刺す「組織診」が必要になります。

極めて小さい石灰化が見られるようなタイプの乳がんは、エコーでは見えないため、「マンモグラフィガイド下マンモトーム生検」を行います。マンモグラフィで撮影しながら病変の位置を確認し、乳房を挟んだまま局所麻酔をして太めの針を刺し、病変部位を採取する方法です。

これらの検査で診断がつかない場合は、局所麻酔をして病変を取り出す手術(外科的生検)を行い、本当にがんかどうかを診断する方法もあります。

がんと診断されたら、さらに詳しく調べて治療方針を検討

乳がんと診断された場合はさらに詳しく検査し、その後の治療方法を検討します。
CTで乳がんの状態、全身の転移の状態を調べたり、MRIで乳房内に乳がんがどのくらい広がっているかを調べたりします。必要に応じて、骨シンチグラフィ検査(※1)でがんの骨への転移を調べたり、ほかの検査では診断がはっきりしない場合にはPET検査(※2)を行ったりします。
また、血液検査で腫瘍マーカー(※3)なども測定します。ただ、腫瘍マーカーはあくまでも目安となるものであり、がんがあっても上昇を示さないこともあります。

※1 骨の組織に集まる性質をもった放射性医薬品を注射し、エックス線検査ではわからない小さな骨転移が確認する。
※2 放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を静脈から入れ、がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像にして確認する。
※3 がんの診断補助や診断後の経過や治療効果を見るもの。血液や尿に含まれる特徴的なタンパク質を確認する。

がんの「標準治療」は、現時点で「最善の治療」

乳がんの治療は、がんの進行状況や乳がんのタイプに応じた「標準治療」が基本です。“標準”というと“一般的な”という意味に感じるかもしれませんが、そうではなく「現在使用できる最善の治療」のことです。患者さんの年齢、全身状態、ご本人の希望などを考慮しながら進め方を決めていきます。

多くの場合、乳がんの標準治療では手術を行います。手術をせずに薬物療法や放射線治療だけを行う治療はまだ確立されていないのです。薬や放射線治療は手術後の再発予防として行われています。

乳がんの手術は、大きく分けて「乳房部分切除術(温存術)」と「乳房切除術(全摘術)」があります。乳がんが大きすぎる、複数ある、乳房内でがんが広がっているなどの理由で温存術ができない場合には、全摘術を行います。
また、温存術を行った場合には、全摘術と同じくらいの治療効果を出すために、残した乳房へ放射線をあてることが必要になります。したがって放射線をあてることができない場合にも、全摘術となります。全摘術後、患者さんのご希望があれば、失った乳房を取り戻す「乳房再建術」を行うことも可能です。

事前の検査でわきの下(腋窩)のリンパ節に転移がないと思われる場合には、乳房の切除手術をする際に「センチネルリンパ節生検」を行います。センチネルリンパ節とは、乳がん細胞が最初にたどりつくわきの下のリンパ節です。乳輪や腫瘍の周りに放射性同位元素や色素などの薬剤を注射し、それを目印としてセンチネルリンパ節を摘出して、転移の有無を顕微鏡で調べます。
センチネルリンパ節生検で陰性だった場合は、腋窩リンパ節への転移はないと判断し、そのまま何もしません。陽性であれば、腋窩郭清(腋窩リンパ節を切除する手術)を加えます。陰性か陽性かでステージも変わります。
なお、手術前に行った画像診断や細胞診で腋窩リンパ節への転移があるとわかっている場合は、初めから腋窩郭清を行います。

再発や転移を予防する「術後補助療法」とは?

手術が終わると、摘出したがん組織を使って病理検査を行います。どのようなタイプの乳がんか、悪性度やがんのステージはどの程度かなどを詳しく調べるのです。

  • 非浸潤がん…がんが発生した場所のみにとどまっているか
  • 浸潤がん…がんが近くの組織に入り込んだり、転移したりしているか
  • ホルモン受容体…女性ホルモンに反応しやすいタイプかどうか
  • HER2…がんの表面にあるタンパク質がどのくらいか

例えば上記のようなことを調べ、再発予防のために「術後補助療法」を検討します。ホルモン治療、化学療法(抗がん剤治療)、分子標的治療などを追加するのです。

◉ホルモン治療

乳がんの約8割は、女性ホルモンである「エストロゲン」や「プロゲステロン」を取り込んで増殖する「ホルモン依存性乳がん」です。女性ホルモンの分泌や取り込みを抑える薬を使用して、ホルモン依存性乳がんの増殖や再発を防ぎます。

◉化学療法(抗がん剤治療)

がんが近くの組織に入り込んでいる「浸潤がん」の場合、発見された時点で血液やリンパの流れに乗って、ほかの場所にがんが移動している可能性があります。術後に抗がん剤を行う目的は、現在は見えていない、どこかに潜んでいるかもしれない微小ながんを根絶させることです。

また、乳がんが大きい場合や、脇のリンパ節に転移している場合など、少し進行している乳がんは、「術前化学療法」といって抗がん剤を使ってがんを小さくしてから手術を行うこともあります。術前化学療法のメリットは、部分切除を行える可能性が出てくる、どこかにあるかもしれない微小ながんを早期に治療ができる、その抗がん剤がどのくらい効くか知ることができる、などが挙げられます。

◉分子標的治療

抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞も無差別に攻撃してしまいます。しかし、「分子標的薬」はがん細胞に的を絞って攻撃します。分子標的薬特有の副作用もありますが、抗がん剤の副作用よりは軽く感じられると思います。分子標的薬の登場により、飛躍的に乳がんの予後の改善が期待できるようになりました。

「手術は受けたくない」と思うかもしれないけれど…

さて、今回は乳がんの精密検査から、その後の基本的な治療について解説しました。
読者の中には「できることなら手術を受けたくない」と思われる方もいるかもしれません。でも、現在のところ乳がんの一番効果的な治療は手術です。ラジオ波熱焼灼療法(※4)、凍結療法(※5)など、乳房を少ししか切らない治療方法も研究されていますが、まだ臨床試験の段階で、効果や副作用などははっきりしていない状態です。
また、そのような治療は保険診療の対象となる標準治療ではないため、治療を受けることのできる病院は限られています。仮にこのような治療を希望する場合には、標準治療を受けないことによる不利益もあせて、しっかり考えてから受けるべきだと思います。

※4 乳房の外からがん組織に刺した電磁針に、AMラジオと同じ周波数の電磁波(ラジオ波)を発生させ加熱。その熱でがんを殺す方法。
※5 がん組織に専用の針を刺し、冷凍手術器で−50度以下に凍らせてがん細胞を破壊、死滅させる方法。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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