「男性なのに乳がん!?」「乳腺炎だと思ったのに…」検診やセルフチェックでも見落としやすい乳がん

  • 作成:2022/01/06

「セルフチェックでしこりはないけれど乳がんだった」「男性でも乳がんと診断された」など、乳がんにはしこりや性別だけで判断できないものもあります。今回は、乳腺外科が専門の法村尚子先生に、自分では判断しにくい珍しい乳がんについて解説していただきます。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

「男性なのに乳がん!?」「乳腺炎だと思ったのに…」検診やセルフチェックでも見落としやすい乳がん

乳がんの種類は多種多様。あまり知られていないタイプも。

ひとくちに「乳がん」と言っても、いろいろなタイプがあります。
大まかには、がん細胞が「乳管」「小葉」※1の中にとどまっている非浸潤がん、がん細胞が乳管・小葉の膜を破って周囲に広がった浸潤がん、乳頭の皮膚に進展するパジェット病、というように分類されます。

浸潤とは、がん細胞が周辺組織にしみこむように広がることを言います。乳がんとして発見されたときには、80%程度は浸潤がんの状態であり、非浸潤がんの状態で見つかるのは20%弱程度です。非浸潤がんだったとしても、放置すると浸潤がんへと進行していきます

また、乳がんは病理検査のもと、様々に組織学的な分類がされています。浸潤がんの中で多いのは、腺管形成型、充実型、硬性型であり、この3つで80~90%ほどを占めます。そのほか、特殊な型として粘液がん、管状がん、腺様囊胞がん、髄様がん、アポクリンがん、浸潤性小葉がん、化生がんなどがあります。

このほか 珍しい状況の乳がんとして、乳房にはがんが認められないのに腋窩(わきの下)のリンパ節に乳がんの転移がある「潜在性乳がん」、副乳(腋窩や腹部など胸以外にある乳房)にできる「副乳がん」、男性乳がんなどもあります。

※1 乳腺は、乳汁の通り道である「乳管」と、その先の乳汁を作っている「小葉」から形成される。

乳頭のただれが治らない場合は「パジェット病」を疑おう

一見、乳がんとは思えないような症状、乳頭のあたりの皮膚がただれて、「湿疹かな?」 と思ってしまうような乳がんが、パジェット病です。

乳頭の表面が赤くただれ、出血やカサブタなどが見られます。皮膚の湿疹とは見た目では区別がつきにくく、診断するには生検(病変の一部をとって顕微鏡で見る)が必要です。パジェット病とは気づかずに、皮膚科で湿疹の治療をしていた、という方もいます。なかなか治らない乳頭の湿疹はこの病気を疑い、専門医を受診したほうがいいでしょう。

パジェット病は、乳頭の近くの乳管から発生し、表面に進展していきます。しこりはなく、マンモグラフィや乳腺エコーでの発見は難しいタイプです。早期治療を行えば、予後は良好ですが、放置するとだんだんと進行していきます。乳がん検診でも見つけられないこともあるため、知らず知らずのうちに進行してしまう場合もあります。

しこりができないタイプの「炎症性乳がん」

乳腺外来を訪れる患者さんの話を聞いていると、「乳がんはしこりができる」と思っている方が多く、「しこりを作らないタイプのがんもある」と言うとよくびっくりされます。

浸潤がんの一種である炎症性乳がんは、乳房全体が真っ赤に腫れ上がったり、ゴツゴツしたりと、授乳期によく見られるような「乳腺炎になったかな?」と思うような症状が出るがんです。急に乳房が真っ赤に腫れたり、オレンジの皮のようにゴツゴツしたりします。

授乳期でないのにそのような症状がある場合は、炎症性乳がんを疑い、精査を受けたほうがいいでしょう。進行が早く、予後も不良です。抗がん薬治療を中心に、手術や放射線療法などの治療も組み合わせて行います。

乳房内に病変はない「潜在性乳がん」

前述の通り、潜在性乳がんは乳房内にはがんがなく、わきのリンパ節のみに乳がんの転移を認めます。マンモグラフィやエコー、MRI等で検査をしても乳房内にはどこにも病変がないにもかかわらず、病理検査ではリンパ節に乳がんを疑う像があるのです。
治療はわきのリンパ節転移のある乳がんに準じて行います。わきのリンパ節の切除に加え、乳房の切除または乳房への放射線治療をします(乳房の切除はしない場合もあります)。必要に応じて、抗がん剤治療やホルモン治療も加えます。

わきの下の副乳にできる「副乳がん」

通常、人間は胸の左右に乳房が一つずつありますが、わきの下やおなかのあたりに乳房がある人がいます。それが副乳です。
よく見ないとわからないような小さなものもあれば、かなり目立つものもあり、人類の進化の名残りと言われています。妊娠期には副乳にも乳汁がたまって膨らみ、リンパ節が腫れていると受診される方も時々みかけます。時には乳汁が出ることもあります
特に何もなければ放置しておいて構いませんが、稀にわきの下の副乳ががん化することがあります。

副乳がんの治療は、通常の乳がんに準じて行います。
ただ、珍しいタイプのがんだけに、初めから副乳がんを疑うことはあまりありません。副乳がんとなってしこりができても、がんとは思わず「きっとおできだろう」と塗り薬で対処されていて、治らずに調べると副乳がんだったという例や、粉瘤(脂肪の塊のようなもの)など皮膚の良性腫瘍と思って手術で切除したら副乳がんだった、などという例も見かけます。

意外と多い? 乳がん患者の100人に1人は男性乳がん

意外と知らない人も多いのですが、男性も乳がんになります。
乳がんの患者さんは、女性100人に対して男性1人程度の割合で、男性乳がんは比較的稀です。しかし、「男性が乳がんになるわけがない」という思い込みによって、時おり発見が遅くなってしまうこともあります。

治療は基本的に女性の乳がんと同じで、手術や放射線治療、抗がん剤治療、ホルモン治療などを組み合わせます。早期発見、早期治療のほうが予後は良好です。

男性が乳腺外来を受診する場合、乳房の痛みやしこりなどの自覚症状が伴っていることが多いです。それらの多くは、薬の副作用やホルモンバランスのくずれやすい思春期、あるいは更年期に起こる女性化乳房症が原因です。これは痛みを伴うため、受診につながりやすいのですが、男性乳がんは痛みを伴わないことが多く、受診が遅くなりがちです。

男性には乳がん検診はありませんが、女性よりも乳腺が少ないため、セルフチェックで見つかりやすい特徴が。また、男性乳がんは遺伝性である確率が高いとも言われています。男性乳がん認知度を上げることにより、早期発見につながると思われます。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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