しこりがあっても、乳がんではなかった…間違えられやすい「良性腫瘍」。がん化の可能性は?(専門医が語る乳がんセミナーvol.3)

  • 作成:2022/11/01

女性の9人に1人が罹る乳がんは、40歳を超えると発症数が急に増えていくのが特徴です。AskDoctorsではオンラインセミナーを開催し、乳腺専門医の法村尚子先生(高松赤十字病院胸部乳腺外科副部長)に、乳がんの特徴や検査方法、乳がんと間違いやすい良性腫瘍、乳がんの治療方法などを語っていただきました。当日の様子を、5回シリーズで紹介します。第3回は、乳がんに間違えられやすい良性腫瘍についてご紹介します。 ※掲載されている内容は2022年7月時点の情報です。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は6分です

しこりがあっても、乳がんではなかった…間違えられやすい「良性腫瘍」。がん化の可能性は?(専門医が語る乳がんセミナーvol.3)

「乳腺症」と「乳腺炎」はどう違う?

今回は良性腫瘍についてお話させていただきます。病院で乳腺症や乳腺炎と言われたことがある人は多いと思いますが、乳腺炎、乳腺症は名前が似ていても全く別の症状です。

(1)乳腺症
乳腺症とは、触ってみるとゴツゴツしたり、痛みが出たり、お乳が張ったりといった良性疾患の症状や所見の総称で、乳がんとは関係ありません。どちからというと体質に近いものだと捉えていただければと思います。例えば、生理が始まったら和らいだ、といった症状も乳腺症といえるでしょう。

(2)乳腺炎
乳腺炎にもいろいろありますが、よく起きるのが「うっ滞性乳腺炎」です。授乳しているときに、赤ちゃんがあまり吸ってくれなかったり、出にくかったりして、乳汁がお乳の中に溜まることで発生します。

対処法としては、やはり乳汁をたくさん出すことです。赤ちゃんに飲んでもらう、搾乳する、マッサージをしながら授乳するなどが挙げられます。抱き方も変えながら左右両方の乳房で授乳しているとたくさん乳汁が出ますので、うっ滞性乳腺炎になりにくいかなと思います。ただ、痛みがあるときは、少し冷やすなどして痛みを和らげてください。自分で対処できないときには、助産師さんに相談してマッサージなどしてもらうのもいいかなと思います。

乳腺炎で、処置や手術が必要な場合もある

化膿性乳腺炎

赤ちゃんの口にも菌はいるので、乳首の傷から菌が入って起きるのが「化膿性乳腺炎」です。赤みが出たり、腫れが出たり、激しい痛み、高熱が出たりすることもあります。必要に応じて抗生物質を投与したり、皮膚を切って膿を出したりするような処置が必要となってきます。ただ、治療をしても完治せずに慢性化したり、何度も再発を繰り返す人の場合は、最後には手術で切除しなければいけないこともあります。
痛みがひどかったり発熱があったりする場合には、早めの受診を心がけてください。授乳中はだれでも起こりがちですが、喫煙者や糖尿病の方はより起こりやすいといわれています。

乳輪下膿瘍

化膿性乳腺炎をこじらせたり、別の原因で乳輪の下や乳腺の中に膿がたまったりした状態のことです。痛みのあるしこりや瘻孔(膿瘍と皮膚が通じる穴)ができることもあります。結構しつこいこともあり、膿を出して一旦は治っても再発することがあるので、どうしても完治しないときには膿瘍、瘻孔、原因となっている乳管を丸ごと切除することを検討します。授乳中以外でも、喫煙者や糖尿病など感染しやすい方は発症しやすいので、ご注意ください。

肉芽腫性乳腺炎

まれにみられる、乳腺の腫瘤(しこり)や乳房の赤みを伴う良性の炎症性疾患です。はっきりとした原因は分かっていません。これも難治性で、治療にはステロイド薬が用いられますが、細菌感染をしているわけでもないのに、何回も赤くなったりして再発を繰り返します。どうしても治らない時は、原因となっている部分を切除することも検討する必要があります。
また、肉芽腫性乳腺炎は乳がんとよく似ていて、私たち医師でもその判断に迷うことがあります。乳腺炎自体は乳がんとは関係ありませんが、炎症性乳がんの症状と紛らわしい時もあります。乳房全体に赤みが出るなど、おかしいと思ったら自己判断せずに乳腺外来を受診してください。

乳房の良性腫瘍 〜乳がん以外で良性のしこりを作る疾患とは〜

(1)線維腺腫
乳房にできるしこりには、悪性腫瘍であるがん以外に良性のものもたくさんあります。一番多く見られるのが線維腺腫です。コロコロとよく動いて10〜40代ぐらいの比較的若い方に見られます。通常は経過観察でいいのですが、大きくなってきた場合や、いろいろな検査をしても線維腺腫と確定できないような場合は、手術で切除した方がいいかなと思います。若いころに線維腺腫が出来てそのまま放置していると、次第に石のように石灰化することがあります。高齢の方で、大きな石みたいになっている状態をよくお見受けします。

(2)葉状腫瘍
ほとんどは良性ですが、中には悪性の場合や、良・悪の境界線上のものがあるなど少し厄介な腫瘍です。線維腺腫よりやや年齢の高い方に発生します。良性のものでも局所再発してしまったりするため、通常は手術で摘出した方がいいかなと思います。その場合、再発防止のために腫瘍を含めて少し大きめに摘出します。悪性の葉状腫瘍だった場合には、がんのように別の臓器に転移することもあるので要注意です。

(3)過誤腫
線維腺腫と見た目がよく似ている良性腫瘍です。細胞の検査などで過誤腫と診断するのはなかなか難しく、線維腺腫だと判断して思って切除したら過誤腫だったということもよくあります。発症頻度は少ないですが、過誤腫は取ってしまえば特に問題とはなりません。

(4)乳管内乳頭腫
母乳の通り道である乳管にできるしこりです。時々、血が混じった分泌物が乳頭から出てくることがあります。そうしたときには乳がんが疑われるので、精密検査が必要になります。乳管内乳頭腫自体は良性ですが、乳がんとの鑑別が難しいこともあります。悪性化の可能性は低いのですが、一部は初期の乳がんや過形成(正常細胞が過剰に増殖した状態)を伴っていることもあるので、乳管内乳頭腫と診断されたら、手術をするか厳密な経過観察が必要となります。

(5)嚢胞
これは乳管の中の液体がたまって袋状になったものです。大きなものから小さなものまでありますが、良性であり治療の必要はありません

(6)脂肪腫
これも時々見ますが、柔らかく痛みを伴わない脂肪のかたまりです。脂肪腫だと断定できた場合はいいのですが、すごく大きいなど美容的に問題があったり、悪性が疑われたりした場合は切除をおすすめします。

(7)石灰化
石灰化は、乳腺にカルシウムが沈着したもので、ほとんどは良性のうえ自覚症状もありません。大きな石灰化や小さい石灰化など、いろんなものがあります。大きな石灰化はまず問題ないのですが、とても小さい石灰化がたくさん集まったようなものは乳がんの可能性もあり、精査が必要となってきます。

(8)副乳
通常、人間の胸には左右一対の乳房しかありませんが、ときどき脇の下やお腹などに乳頭・乳輪がある人がいます。それが副乳です。乳頭・乳輪というよりはおできみたいになっていることが多く、何か腫瘍かなと思って受診されることも多いですね。副乳が発達している人は、授乳をするときに、副乳からも一緒に母乳が出ることもあるようです。授乳中に副乳が腫れてきて、おかしいなと思って受診される方もたまに見かけます。

(9)外傷性脂肪壊死
乳房を打撲し、その後、硬いしこりとして現れることがあります。マンモグラフィやエコー等の検査では乳がんとまぎらわしい場合もありますが、針生検などの結果で診断されます。乳がんではなく、脂肪壊死と確定診断できた場合は経過観察で構いません。

(10)豊胸後変化
乳房に脂肪やヒアルロン酸を注入して豊胸をされた場合、時間が経過すると嚢胞状になったり、石のような塊になったりすることがあります。乳がん検診で異常として指摘されることがあるので、正しい診断をするためには豊胸していることを医師または検査技師に事前に伝えていただけたらと思います。その状態によってはマンモグラフィができない場合があります。

今回はがん以外の良性腫瘍の紹介をさせていただきましたが、悪性化する可能性のある腫瘍についてはご注意いただければと思います。

※次回は、乳がんの治療について、法村先生に解説していただきます。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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