がんではないけど痛み、しこり、乳頭分泌液…見た目ではわかりづらい良性の乳房疾患
- 作成:2022/01/31
乳腺外来には、日々たくさんの患者さんが、乳房の痛み、しこり、違和感、乳頭分泌液など、様々な悩みを抱えて訪れます。みなさん乳がんを心配して来院されるそうですが、検査をすると、良性であることがほとんどとのこと。乳腺外来でよくみかける良性の乳房疾患について、乳腺外科が専門の法村尚子先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
乳房に様々な症状が現れるが、病気ではない「乳腺症」
女性ホルモンのバランスがくずれて、乳房に痛みや張りが出たり、ごりごりとしこりのように乳腺が硬くなったりすることがあります。このような様々な乳房の症状や所見の総称を「乳腺症」と言い、病気ではありません。
生理的な変化であり、誰にでも起こる可能性があります。女性の多くはこのような症状の経験があるのではないでしょうか。月経前に症状が強くなり、月経がはじまると症状はやわらぐ傾向にあります。
痛みを感じるため、心配して外来を受診する人は非常に多く、また、今までに乳腺症と言われたことがあり、乳がんにつながる重大な病気だと思っている方も多くみかけます。しかし、乳腺症は乳がんに進展することもなく、特別な経過観察の必要もありません。
良性でも手術が必要なケースがある
他にも、がんではないけれど痛みなどが伴う良性の乳房疾患はたくさんあります。いくつか代表的なものをあげました。
痛みを伴わず、しこりが動く「線維腺腫」
「線維腺腫」は10代後半~40代に多くみられる良性の腫瘍です。ころころとよく動くしこりで、痛みは伴わない場合が多いようです。
通常は経過観察でいいのですが、大きなものや、急に大きくなってきたもの、線維腺腫と確定診断ができない場合には手術で摘出します。
良性の場合も、悪性の場合もある「葉状腫瘍」
線維腺腫よりやや年齢の高い女性に発生する「葉状腫瘍」という腫瘍もあります。頻度はまれで、ほとんどは良性ですが、なかには悪性のものや、良性と悪性の中間のものあります。
良性のものでも局所再発をすることがあり、葉状腫瘍と診断されると、通常は腫瘍より少し大きめに手術で摘出します。診断が難しいこともあり、線維腺腫と診断されていても、急に大きくなってきた場合などは葉状腫瘍の可能性を考え、摘出する必要があります。悪性の葉状腫瘍の場合はがんのように転移を起こすこともあります。
線維腺腫と似た「過誤腫」
「過誤腫」は細胞の検査などで診断することは難しく、切除したあとに診断されることが多い良性の腫瘍です。見た目は線維腺腫とよく似ています。
良性でも経過観察が必要な「乳管内乳頭腫」
乳管内にできるしこりで、血液の混じった分泌液が乳頭から出ることがあります。乳頭分泌液が透明や白い場合はほとんど問題ないのですが、血液の混じった分泌物がみられた場合には、乳がんの可能性もあるため精密検査が必要です。
乳管内乳頭腫は良性の腫瘍ですが、乳がんとの鑑別が難しいこともあります。悪性化の可能性は低いですが、一部に初期の乳がんや過形成(正常細胞が過剰に増殖した状態)を伴うこともあります。乳管内乳頭腫と診断された場合は手術で切除するか、経過観察が必要です。
所見や症状があっても、治療の必要のない疾患も
乳管内に液体がたまる「嚢胞(のうほう)」
乳管内に液体がたまり、袋状になったものを「嚢胞」といいます。嚢胞がある方はとても多く、大きさは小さなものから大きなものまでありますが、良性であり治療の必要はありません。
痛みがない脂肪のかたまり「脂肪腫」
柔らかく痛みを伴わない良性の脂肪のかたまりです。大きい場合や悪性が疑われる場合には切除することもあります。
自覚症状が現れない「石灰化」
乳腺にカルシウムが沈着したもので、ほとんどは良性です。自覚症状はありません。
大きな石灰化や、小さい石灰化が乳腺全体にまんべんなくあるものなどはまず良性ですが、とても小さい石灰化がたくさん集まったようなものでは乳がんの可能性もあり、精査が必要となります。
左右の胸以外にも乳房がある「副乳」
通常、人間は胸に左右ひとつずつ乳房がありますが、わきの下やおなかのあたりに乳房がある人がおり、それが副乳です。小さなものもあれば、かなり目立つものもあり、腫瘍と思われて受診される方も時折みかけます。
薬の副作用やケガ、手術などが原因の場合も
男性の乳房が肥大化する「女性化乳房」
男性の乳房が肥大し、痛みやしこりなどの症状が伴うことがあります。多くは薬の副作用によるものや、思春期や更年期などにホルモンバランスがくずれることが原因で起こります。
特に治療は必要ありませんが、薬の副作用が原因と思われる場合は、休薬したり、薬を変更したりして様子をみます。また、見た目の改善のために手術を行うこともあります。
ケガや手術などで起こる「外傷性脂肪壊死」
乳房をぶつけたり、ケガや手術などが原因で起こることがあります。しこりを自覚したり、検査をしても乳がんとまぎらわしい場合もあります。針生検などで悪性を否定できた場合には経過観察とします。
脂肪・ヒアルロン酸注入で起こる「豊胸後変化」
乳房に脂肪やヒアルロン酸を注入後、時間が経過してしこりとして触れたり、嚢胞や石灰化することがあります。乳がん検診を受けると、異常として指摘されることもあり、正確な診断をするためには、豊胸しているとことを医師に伝える必要があります。
見た目では悪性と区別がつきにくい。心配な場合は受診を
乳腺の良性疾患は、ほとんどは乳がんと関係ないものです。しかし、乳管内乳頭腫と診断された場合や、良性腫瘍と診断されても悪性の可能性が捨てきれない場合などは、経過観察が必要となります。
乳腺外来でみかける良性疾患を紹介しましたが、見た目や触った感じだけでは乳がんとの区別は難しいものです。異常を感じた場合は、乳腺外来で検査を受ける必要があります。
香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。
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