定期的に起こる「むくみ」原因は?医師に聞く「知られざる疾患」HAE

  • 作成:2022/05/31

日常的に起こる、身体のむくみや腹痛。もしそれが定期的なものである場合、”命に関わる重篤な疾患”が隠れている可能性があります。 今回取材したのは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の診療にあたる堀内孝彦先生(九州大学病院別府病院・院長)。国内の患者数が2500人と推計される「希少疾患」であるものの、発症者のほとんどが一度は命に関わる重篤な発作に見舞われることがあるというHAE。現在は治療方法も確立し、「診断さえできれば、致死的な事態も防げる」という、実情を伺いました。

堀内 孝彦 監修
九州大学病院別府病院 病院長
堀内 孝彦 先生

この記事の目安時間は6分です

定期的に起こる「むくみ」原因は?医師に聞く「知られざる疾患」HAE

定期的な「原因不明のむくみ」やがて致死的な症状に至ることも

先生のもとには全国からHAE患者さんが訪れると聞きました。まずは、どのような症状を訴えて受診される方が多いか、教えてください。

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堀内先生

やはり、「顔や手足など、体の各部に定期的に発生するむくみ」を気にして受診される方が多いですね。もちろん、むくみ自体はHAEに限らずさまざまな疾患で認められる症状なので、「身体がむくんでいるからHAEだ」と考えるのはあまりにも早計ですが、疾患に関する認知が広がったことや、インターネットで積極的に情報収集する方が増えたことで、「もしかして自分はHAEではないか」と、ご自身で見立てた上で受診される方も増えてきています。

そもそもHAEとは、生まれつき、体内にあるC1インヒビターというタンパク質の量が少なかったり、働きが弱かったりすることなどが原因で、皮膚や粘膜が急にむくんだりする疾患です。浮腫が起こる箇所はくちびる、手足、腕、脚など多岐に渡りますが、こうした「目に見える部分」だけでなく、「身体の内部」に浮腫が起こり得る点も、大きな特徴と言えるでしょう。例えば消化管に浮腫ができた場合は激しい腹痛が起こることもあり、腹部膨満感、吐き気や嘔吐、下痢などの症状があらわれることがあります。

「顔や手のむくみと、腹痛の根本的な原因が同じ」というのは、想像しづらいことでしょうし、双方とも医療現場では「よくある症状」ということもあって、医療者から見ても、診断の難易度が高いというのが正直なところです。ですが、ご説明したような症状が定期的に現れる方は、「HAEという疾患があること」をまず知っていただけると良いかと思います。

HAEは生まれつきの疾患とのことですが、初回の発作は何歳ごろに起こることが多いのでしょうか。

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堀内先生

およそ半数が15歳までに、ほぼ全員が30歳までには、初回の発作を経験しているというデータがあります。とはいえ、6歳で発症した方もいれば、90歳以上になってから発症した人もいて個人差が大きいので、あくまで参考程度に考えてください。

発作が起こる頻度も人それぞれで、国内の調査によると、HAE患者さんの年間の平均発作回数は15.7回。1年間に1回も発作が起こらなかった患者さんもいれば、年間20回以上の発作を起こす患者さんも26.1%いたというデータもあります。

潜在的なHAE患者は約2500人…こんな方は要注意

浮腫が発現する場所はもちろん、発現するタイミングや頻度も多岐にわたるということですね。

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堀内先生

その通りです。
お話しした通り非常に幅広い症状を引き起こすHAEですが、中でも注意が必要なのは「喉に浮腫が現れた場合」です。喉に浮腫ができると気管が閉塞し、窒息死をもたらす危険性があり、HAE患者さんの50%が、生涯に1度はこの「喉頭浮腫」を経験するとされています。特にお子さんの場合、気道が狭い分窒息リスクは高く、痛ましい事態につながりかねませんから、最大限の注意が必要です。

「致死的な発作が起きる前にきちんと診断を受けていただきたい」というのが、医師として、さまざまな患者さんを見てきて心から思うことです。HAEに関してはこの数年で治療がかなり進歩しており、診断さえつけば致死的な事態を防ぐことは可能ですから。

現在、日本国内でHAEと診断されているのは450人程度と言われていますから、2000人以上の患者さんが「潜在的なHAE患者」として、適切な医療を受けられていないというのが、大きな課題となっています。

HAEの兆候を見逃さず、早期に適切な医療機関を受診することが重要ということですね。「自身がHAEであるかどうか」を判断する上で、家族歴を洗い出すのも有用だと伺いました。

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堀内先生

おっしゃる通りです。「遺伝性血管性浮腫」という正式名の通り、HAEの75%は、常染色体顕性遺伝によって起こり、両親のいずれかがHAEである場合、50%の確率で子に遺伝します。HAEが疑われる場合は、「同様の症状がご親族にも発現していなかったかどうか」を意識いただけると診断の鑑別には役立つでしょう。また、もしご自身がHAEだった場合、お子さんがHAEでないかどうかは、早めに検査をしておくと安心かと思います。

ただ、1点難しいのは、HAEのうち25%のHAEは遺伝ではなく、遺伝子の突然変異によって起こるということ。医学的には孤発(こはつ)例と言うのですが、「親族にHAEの方がいなかったとしても、それだけではHAEの可能性を否定できない」という点は、強調しておきたいと思います。

HAEの診断に必要なのは血液検査のみと非常に簡便ですから、不安に思われる方には、早めに医療機関を受診いただくことをお勧めします。

「もしかしてHAE」どんな医療機関にかかるべき?

HAEを疑った場合、どのような医療機関を受診すべきでしょうか。

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堀内先生

率直に申し上げて、希少疾患ということもあって対応できる医療機関は限られるのが実情です。

診療科の中では皮膚科医であれば一定の知識を持っているとは思いますが、一般的なクリニックや病院だと、5万人に1人というHAEに対し、十分に治療薬を処方できるような環境が整えきれないのが実情でしょう。「HAEを診られること」を謳っている医療機関を見つけて受診していただくのが、最も近道ではないかと思われます。

九州大学医学部卒。国立がんセンター研究所研究員、米アラバマ大学医学部フェローなどを経て、2008年九州大学大学院医学研究院准教授、2013年九州大学病院別府病院教授、2016年4月から同病院長を併任。専門は臨床免疫学、リウマチ学。「血管性浮腫」の実態を解明してその成果を社会に役立てることを目的として設立したNPO法人「血管性浮腫情報センター」(略称:CREATE)の代表として活動するとともに、「HAE患者会 くみーむ」にて患者とその家族のサポート活動に精力的に従事。また、日本補体学会が作成する我が国の「HAE診療ガイドライン2010年初版、改訂2014年版」の作成に責任者としてかかわった。「改訂2019年版」では再び責任者として厚生労働省研究班と連携・協力し、我が国のHAE診療ガイドラインを作成。アジアで初めてHAE3型の原因遺伝子を同定した。

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