自覚症状が出にくい「甲状腺」の腫瘍。首の腫れ、しこり、食べ物を飲み込みにくいと思ったら危険信号!?

  • 作成:2022/08/04

体の新陳代謝を調整する「甲状腺」は、首の真ん中の喉仏の下あり、チョウチョのような形をしています。普段はあまり存在を意識されない臓器ですが、時に腫瘍ができることも。腫瘍にはがんだけでなく、生命にかかわらない良性腫瘍もあります。そこで今回は、甲状腺の専門医である法村尚子先生に、甲状腺の良性腫瘍について解説していただきます。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

自覚症状が出にくい「甲状腺」の腫瘍。首の腫れ、しこり、食べ物を飲み込みにくいと思ったら危険信号!?

甲状腺にできる腫瘍には良性のものと悪性のもの(がん)があります。主に、触診、甲状腺エコー(超音波)検査等を行い、必要な場合は、血液検査、CT検査、シンチグラフィ検査、病理検査(細胞診、組織診)などを行って診断します。

一部の甲状腺がんは遺伝子の異常により発生することが知られていますが、良性腫瘍の場合、多くは原因不明です。自覚症状があまりないため、腫瘍に気づかないまま過ごしている人も多くいます。良性と診断されれば、基本的に治療はいりませんが、腫瘍が大きく圧迫症状がある場合や、悪性の可能性が否定できない場合、機能性甲状腺結節で症状がある場合などは手術をすることもあります。

「腺腫様甲状腺腫」~大きくなると手術が必要に

甲状腺に1個~複数個のしこりができます。小さいものから大きいものまで様々です。甲状腺の機能に影響を与えることは少なく、治療は必要ないのですが、大きくなると手術を勧めることもあります。

【主な症状】
小さいものは無症状です。大きくなると、首が腫れてきてしこりを触れるようになり、飲み込むときに違和感がでたりします。

【診断】
血液検査による甲状腺ホルモン、サイログロブリンなどの測定、甲状腺エコー検査でしこりの大きさや形状をみます。また、細胞診で悪性の有無を調べます。ただし、細胞診はエコーで見ながら、細い針で腫瘍の一部の細胞をとって調べる検査であり、腫瘍全体を見る検査ではありません。細胞診で腺腫様甲状腺腫と診断されても、100%良性と言い切れるわけではありません。

【治療】
通常は治療の必要はありません。しかし、以下のような場合は手術をしたほうがいいでしょう。

  • 腫瘍がどんどん大きくなる
  • 腫瘍が大きく首の腫れが目立ち美容的に問題がある
  • 細胞診では腺腫様甲状腺腫と診断されているが、がんの可能性が否定できない(超音波検査で腫瘍の形状が不整である、血液検査で異常値である等)
  • 大きくなりすぎて気管や食道等を圧迫し、飲み込みにくいなどの圧迫症状が出ている

「濾胞腺腫」~悪性との鑑別が難しい

濾胞腺腫(ろうほうせんしゅ)は甲状腺の良性腫瘍です。しかし、濾胞腺腫と濾胞がんは、細胞診の検査で鑑別が難しく、細胞診で良性の濾胞腺腫と診断することはできません。

【主な症状】
小さいものは無症状です。大きくなると、首が腫れてきてしこりを触れるようになり、飲み込むときに違和感がでたりします。

【診断】
血液検査による甲状腺ホルモン、サイログロブリン等の測定、甲状腺エコー検査でしこりの大きさや形状をみます。また、細胞診で悪性の有無を調べます。ただし、細胞診では濾胞腺腫は濾胞がんとの区別ができないため、最終診断は手術で腫瘍摘出後の病理組織検査の結果となります。

【治療】
細胞診で「濾胞性腫瘍」(濾胞腺腫、濾胞がんの総称)と診断された場合、良性のことが多いのですが、がんの可能性を考え、小さくても手術をお勧めすることがあります。
また、腺腫様甲状腺腫と同様に、以下のような場合は手術をお勧めします。

  • 超音波検査や血液検査で悪性が疑われる
  • 腫瘍がどんどん大きくなる
  • 腫瘍が大きく首の腫れが目立ち美容的に問題がある
  • 大きくなりすぎて気管や食道等を圧迫し、飲み込みにくいなどの圧迫症状が出ている

「機能性甲状腺結節」~首にしこりができ、動悸、多汗などの症状

甲状腺の中に甲状腺ホルモンを産生する結節(しこり)ができ、甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。「プランマー病」とも言われます。結節は1つだけのこともあれば、複数の場合もあります。

【主な症状】

  • 甲状腺のしこり

そのほか息切れ、動悸、手の震え、多汗、食欲旺盛なのにやせる、倦怠感、下痢、イライラなど。

【診断】
血液検査での甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、自己抗体を測定します。甲状腺エコー検査、甲状腺シンチグラフィなどの画像検査も行います。

【治療】
手術での摘出、放射性ヨウ素内用療法、腫瘍にエタノールを注入して腫瘍を壊死させる「PEIT」(経皮的エタノール注入療法)、ラジオ波やレーザーなどで病巣を熱焼する方法などがあります。甲状腺ホルモンが過剰で、動悸や手の震えがひどい場合は「βブロッカー」の薬を投与することもあります。

「嚢胞」~気付かずに持っている人も多い

袋状に液体のたまったものです。特に珍しいものではなく、嚢胞があることに気づいてない人もたくさんいると思われます。

【主な症状】
基本的には症状はありませんが、大きくなると、首が腫れてきてしこりを触れるようになり、飲み込むときに違和感がでたりします。

【診断】
主に甲状腺エコー検査で診断します。

【治療】
甲状腺嚢胞は基本的には良性で、特に治療は必要ありません。大きくて症状が出ている場合は、注射器で中の液体を吸い出します。この際、この液体を細胞診の検査に提出することもあります。また、繰り返し大きくなる時は嚢胞内にエタノールを注入して嚢胞をつぶす「PEIT」(経皮的エタノール注入療法)を行うこともあります。
ただし、PEITで効果が認められない場合もあります。確実性を求める場合、また悪性の可能性が否定できない場合には、手術での切除をお勧めすることもあります。

甲状腺の異常は「自分では気づきにくい」と覚えておこう

甲状腺がんの検診は、乳がん検診や肺がん検診のように一般的ではありません。自治体から甲状腺の検診を受けなさいという通知もきません。そのため、甲状腺の病気を見つけるには、人間ドックなどで自ら甲状腺の検査をオプションで付けたり、自分で疑って医療機関を受診したりする必要があります。
集団検診や人間ドック等での触診を受けたとしても、甲状腺腫瘍の発見率は0.78~5.3%程度です。大きくなるまで自覚症状がでないため、甲状腺外来に来る人は、ほかの病気でCTを撮った時や、動脈硬化の検査のために首のエコーをした時など、偶然、甲状腺に腫瘍が見つかったという人が多く見受けられます。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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