「甲状腺がん」は自分で首を触れてもわからない! ほとんどは予後良好だけど、診断時には「余命わずか」なタイプも…。

  • 作成:2022/09/09

喉のほぼ中央にあり、蝶々のような形をした「甲状腺」。新陳代謝を促す「甲状腺ホルモン」を作っている臓器です。普段は静かに活動していますが、この甲状腺にもがん(悪性腫瘍)ができることがあります。今回は甲状腺の悪性腫瘍について、甲状腺専門医の法村尚子先生に解説していただきます。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

「甲状腺がん」は自分で首を触れてもわからない! ほとんどは予後良好だけど、診断時には「余命わずか」なタイプも…。

自覚症状が乏しく、別の病気の検査で偶然見つかる

甲状腺の悪性腫瘍にはいくつかの種類があります。代表的なものは、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様(ずいよう)がん、低分化がん、未分化がんで、その他に悪性リンパ腫などができることもあります。
甲状腺の悪性腫瘍の90%以上は、比較的進行がゆっくりで生命予後の良い乳頭がんですが、まれに悪性度の高いものもあります。多くは原因不明ですが、一部遺伝性のものもあります。

初期には自覚できる症状はほとんどなく、ほかの病気でCTを撮った時や、動脈硬化の検査のために首のエコーをした時などに、偶然見つかることが多い病気です。
進行すると、腫瘍が大きくなり、喉が圧迫されている感じや痛み、食道や気管などの圧迫症状(飲み込みにくい、呼吸困難感)が出ることがあります。また、甲状腺のすぐ近くにある反回神経(声を出したり、飲み込んだりすることをつかさどっている神経)に腫瘍が浸潤し、マヒが生じると、嗄声(させい:声がガラガラになる)、むせる、という症状が出てきます。

甲状腺に腫瘍が見つかると、血液検査で甲状腺ホルモン、サイログロブリンなどを測定したり、甲状腺エコー検査でしこりの大きさや形状を確認します。また、細い針で腫瘍の一部の細胞を取り、悪性の有無を調べる細胞診を行います。悪性と診断すされると、CTなどの画像検査でがんの広がりやリンパ節への転移、他の臓器への転移など、さらに詳しく調べます。

甲状腺腫瘍で最も多い「乳頭がん」

【主な症状】
初期には症状はほとんどなく、しこりが大きくなるまで自分で触ることはできません。

【診断】
細胞診で診断がつくことが多いがんです。

【治療】
基本的にはがんのある側の甲状腺を手術で切除します。
再発リスクが高い場合、何度も再発する場合、遠隔転移(別の臓器にがんが転移する)がある場合などは、「放射性ヨード内用療法」(放射線ヨードのカプセルを内服する)や、薬物療法(甲状腺ホルモン薬)を行うこともあります。
また、腫瘍の大きさが1cm以下で、リスクが低いと判断されると、手術をせずに定期的な経過観察をしていく場合もあります。

細胞診で良性との区別がつきにくい「濾胞がん」

甲状腺の悪性腫瘍のうち、濾胞がんの頻度は約5%。肺や骨に転移しやすい特徴がありますが、転移がなければ比較的予後は良好です。

【主な症状】
乳頭がんと同じく、初期には症状はほとんどなく、しこりが大きくなるまで自分で触ることはできません。

【診断】
細胞診を行いますが、濾胞がんは濾胞腺腫(良性)と区別ができないため、手術で腫瘍摘出後の病理組織検査の結果を見て最終診断をします。

【治療】
基本的には手術で、がんのある側の甲状腺を切除します。再発リスクが高い場合、何度も再発する場合、遠隔転移がある場合などは、放射性ヨード内用療法や薬物療法を行うこともあります。

「髄様がん」の3分の1は遺伝性

甲状腺の悪性腫瘍のうち、髄様がんは約1〜2%と稀で、やや進行が速く、なかには遺伝性のものもあります。

【主な症状】
ほかの甲状腺がんと同じく、初期には自覚できる症状はほとんどありません。

【診断】
細胞診のほか、血液検査で「カルシトニン」(ペプチドホルモン)と「CEA」(腫瘍マーカーのひとつ)などを測定します。髄様がんの3分の1程度は遺伝性で、遺伝性の場合は、同時に副腎や副甲状腺などに病気をともなうことがあり、これらを「多発性内分泌腫瘍症(MEN:エムイーエヌ)2型」といいます。また、それとは別に、遺伝性で甲状腺髄様がんのみができることもあります。

【治療】
放射性ヨード内用療法は効きにくく、手術が中心となります。遺伝性の髄様がんは、両側性や多発性にできることがあり、甲状腺全摘手術を推奨します。 非遺伝性の場合は、がんの広がりや大きさに合わせて切除範囲を決めていきます。進行すると薬物療法も行います。

注意深い経過観察が必要「低分化がん」

甲状腺の悪性腫瘍のうち、低分化がんの頻度は約1%と稀で、やや進行が速く、転移の頻度も高いがんです。乳頭がん、濾胞がんと次に解説する「未分化がん」との中間的な形態を示します。

【主な症状】
低分化がんも初期には自覚できる症状はほとんどありません。

【診断】
術前に診断するのは難しく、手術で腫瘍摘出後の病理組織検査で診断されることが多くあります。

【治療】
基本的には手術です。術後に低分化がんがわかり、甲状腺を片側のみ切除する手術を行っていた場合、追加で甲状腺全摘をおすすめします。また、放射性ヨード内用療法や薬物療法を行うこともあります。悪性度はやや高く、注意深い経過観察が必要です。

悪性度が高く、急速に進行する「未分化がん」

未分化がんの頻度も約1〜2%と稀ですが、悪性度は高く、非常に急速に進行し予後不良です。診断されてから1年以内にほとんどの人が亡くなってしまいます。
未分化がんの多くは乳頭がん、濾胞がんを長期にわたり放置していて、突然未分化がんに転化した(性質が変わった)ものといわれています。

【主な症状】
急に大きくなった甲状腺のしこり、痛み、首の皮膚の発赤、発熱、倦怠感など。また初診時から、反回神経や食道、気管などの圧迫症状(声がれ、飲み込みにくい、息が苦しい)が現れることもあります。

【診断】
細胞診や組織診を行います。

【治療】
手術が可能な場合は行います。手術が可能でも不可能でも薬物療法や、内服するタイプの「放射性ヨード内用療法」は効きにくいため、外から放射線をあてる放射線療法を加えることが多いがんです。

橋本病と合併していることが多い「甲状腺悪性リンパ腫」

頻度は甲状腺悪性腫瘍の1〜5%と稀です、甲状腺悪性リンパ腫になった方のほとんどは橋本病を合併しています(橋本病から甲状腺悪性リンパ腫が発症することが多い)。

【主な症状】
急に大きくなる腫瘍。腫瘍が大きくなった場合は、反回神経や食道、気管などの圧迫症状(声がれ、飲み込みにくい、息が苦しい)が現れることもあります。

【診断】
細胞診や針生検により悪性リンパ腫が疑われた場合には、手術で腫瘍の一部を取り、どのようなタイプの悪性リンパ腫か診断します。

【治療】
放射線がよく効くため、放射線療法(外から放射線をあてる)を行ったり、リンパ腫のタイプや広がりの状況によって薬物療法も行います。

少しでも異常を感じたら、速やかに受診を!

ここまで、甲状腺の悪性腫瘍についてお話ししました。生命予後の良いケースが多いとは言え、中には命に係わるタイプの腫瘍もあります。初期の自覚症状がないことが多いので注意を払いにくい面がありますが、少しでも異常を感じたら早期に専門医への受診をおすすめします。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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