眠気やだるさ、筋力低下、あまり食べていないのに太る…その不調、甲状腺ホルモンの不足かもしれません。

  • 作成:2022/07/14

甲状腺は、首の真ん中の喉仏の下あたりにある臓器。体の新陳代謝を調整する役割を担っています。ここから分泌される「甲状腺ホルモン」は、多すぎても少なすぎても様々な不調をきたします。今回は甲状腺ホルモンが“少なすぎて起こる病気”について、甲状腺の専門医である法村尚子先生に解説していただきます。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

眠気やだるさ、筋力低下、あまり食べていないのに太る…その不調、甲状腺ホルモンの不足かもしれません。

甲状腺ホルモンの不足を招く病気は、大きく分けて2種類

甲状腺ホルモンが不足すると、体の新陳代謝が低下します。その結果、眠気やだるさ・筋力低下・無気力・冷え性・便秘・むくみ・抜け毛・あまり食べていないのに太る・記憶力低下などの症状が現れます。また、甲状腺ホルモンの不足は、月経異常・不妊・流産・胎児の成長への影響などとも関連しています。

甲状腺ホルモンが低下する原因は、主に以下2種類あります。
1)甲状腺自体に原因がある場合(原発性甲状腺機能低下症)
2)甲状腺自体に異常はないが、脳下垂体から分泌される「甲状腺刺激ホルモン」(TSH)の働きが弱まることで、甲状腺ホルモンが低下している場合(中枢性甲状腺機能低下症)

原発性甲状腺機能低下症にはいくつの病気があり、最も多いものは「橋本病」です。成人女性の10人に1人に発症すると言われ、比較的頻度の高い疾患です。女性に多く、男女比は1:20~30くらいです。

成人女性の10人に1人に発症する「橋本病」(慢性甲状腺炎)とは?

橋本病になると、体内で自分を攻撃する自己抗体(抗TPO抗体、または抗Tg抗体)が作られてしまいます。この抗体が甲状腺の組織を少しずつ壊して甲状腺ホルモンが作られにくくなり、甲状腺ホルモンが不足します。 根本的な原因ははっきりとわかっていません。

しかし、橋本病と診断された人のすべてが甲状腺機能低下症になるわけではなく、甲状腺機能に異常がないまま過ごせる人や、甲状腺機能低下が回復する人も多くいます。

【主な症状】
甲状腺に慢性的な炎症が起きており、甲状腺が腫れて首に圧迫感を覚えたり、逆に甲状腺が縮んだりする人もいます。全身の代謝が低下することによって、眠気やだるさ・筋力低下・無気力・冷え性・便秘・むくみ・抜け毛・あまり食べていないのに太る・記憶力低下などの症状が出ます。

【診断】
血液検査で甲状腺ホルモン (FT3、FT4)や「甲状腺刺激ホルモン」 (TSH) 、甲状腺自己抗体を調べます。また、超音波検査で甲状腺の腫大の状況や、腫瘍を合併していないかなども調べます。

【治療】
甲状腺機能が正常であれば、治療は必要ありません。
甲状腺機能低下症がある場合は、「甲状腺ホルモン剤」を内服し、甲状腺ホルモンを補充します。甲状腺ホルモンがちょうどよくなると症状は消え、多くは甲状腺の腫大も改善します。

その他の原発性甲状腺機能低下症には、どんな病気がある?

ほかに甲状腺機能が低下する原因としては、昆布の食べすぎやヨウ素を含むうがい薬など、ヨウ素の過剰摂取によるものがあります。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料ですが、過剰摂取により甲状腺機能が低下してしまいます。さらに、甲状腺の病気の治療によるもの(甲状腺の手術後、放射性ヨード治療後、首や頭への放射線照射後など)があります。
また、「先天性甲状腺機能低下症」(クレチン症)など、生まれつきのものもあります。

甲状腺には問題のない「中枢性甲状腺機能低下症」

中枢性甲状腺機能低下症は、脳の下垂体や視床下部の障害により、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きが弱まることで甲状腺ホルモンが低下してしまうものです。主な原因は、脳下垂体の腫瘍や手術後、脳の外傷後、くも膜下出血後などです。

【症状】
原発性甲状腺機能低下症と同様に、眠気やだるさ・筋力低下・無気力・冷え性・便秘・むくみ・抜け毛・あまり食べていないのに太る・記憶力低下などです。視床下部や下垂体機能低下による症状(性腺機能低下・乳汁分泌・成長障害・視野異常など)を伴うこともあります。

【診断】
血液検査で甲状腺ホルモン(FT3、FT4)や甲状腺刺激ホルモン値(TSH)などをはかります。甲状腺超音波検査をしたり、薬を負荷して血液検査を行うこともあります。中枢性甲状腺機能低下症が疑われた場合は、原因検索のためMRIやCT撮影をします。

【治療】
甲状腺ホルモンの投与に加え、原因となっている腫瘍を手術で取り除くなど、原因疾患に準じて治療を行います。

このように、甲状腺ホルモンの不足による病気は様々な種類、そして治療法があります。思い当たる症状がある方は、早めに医師にご相談ください。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

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