脳梗塞の後遺症 認知症、記憶障害、言語障害が発生?運転は可能?自分で気づけない後遺症や合併症も解説

  • 作成:2016/03/22

脳梗塞は、脳の血管がつまり、詰まった先の部分に血液が出なくなることで、各部位がつかさどる身体機能に影響が残る可能性があります。どのような症状があるのかや、運転の可否、合併症も含めて、医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は6分です

脳梗塞後に運転できる?
脳梗塞の後遺症で認知症になる?
脳梗塞の後遺症による記憶障害
脳梗塞の後遺症による言語障害、嚥下障害
脳梗塞の後遺症で痙攣になる?
脳梗塞になったあと、運転できる?
自分で気づけない後遺症も
その他の脳梗塞の後遺症
脳梗塞の合併症とは?

脳梗塞の後遺症で認知症になる?

脳梗塞の後遺症として起こってくる認知症は、「脳血管性認知症」または「脳卒中後認知症」といわれ、後遺症としては比較的多いものの1つです。脳出血も含め脳卒中の種類を問わず、認知症を起こす可能性はありますが、脳梗塞に伴って起きなる認知症としては、タイプとして小さな梗塞(ラクナ型)や発作のない梗塞(無症候性)を繰り返しながら、徐々にゆっくりと進行するものが多くなっています。

「前頭葉(ぜんとうよう;大脳の前側の部分)」の症状といわれる、意欲や自発性の低下にはじまり、判断力(正式には「遂行機能(すいこうきのう)」と言います)や注意力などに障害が起きます。

認知症になるメカニズムとしては、意欲の低下のために脳を使わなくなり、脳の機能の低下(専門的には「廃用性脳機能低下(はいようせいのうきのうていか)」と言います)が進んでいくことが考えられているようです。

代表的な認知症である「アルツハイマー型認知症と異なり」、記憶の障害が軽いものにとどまることが特徴です。脳血流の検査では前頭葉の血流が低下することが中心で、アルツハイマー型認知症が大脳の後ろ3分の2に低下が確認されるのとは、対照的です。

脳梗塞の後遺症による記憶障害

言語、記憶、思考、空間の認知など脳が受け持つ知的な機能(まとめて「認知機能」といいます)は、専門的には「高次脳機能(こうじのうきのう)」といわれます。脳梗塞の後遺症では、しばしば高次脳機能障害がみられます。脳梗塞の種類、場所および程度により、特有の障害が単独または組み合わせで出現します。代表的な障害である「失語症(しつごしょう)」と「記憶障害」に簡単に紹介します。言語障害は一般に「失語症」と「構音障害(こうおんしょうがい)」に分けられます。

(1)失語症;
「運動性失語:(別名)ブローカ失語」は、左脳の比較的前の方の部分の障害で起こります。聞いて理解することは比較的よくできるのに、話すことがうまくできず、ぎこちない話し方になります。

「感覚性失語:(別名)ウェルニッケ失語」は反対に、なめらかに話せるものの、言い間違いが多く、聞いて理解することも困難なタイプです。左脳の比較的後ろの部分に障害が起きている場合に出ます。

(2)記憶障害;
大脳の深いところにある「海馬(かいば)」や「視床(ししょう)」などと呼ばれる部分が行う記憶の過程(五感でとらえた情報を整理、取捨選択して、記憶しておくこと)が障害されて起きます。主に新しいことが記憶できなくなります。

脳梗塞の後遺症による言語障害、嚥下障害

言語障害のうち「構音障害」は、「嚥下障害(えんげしょうがい)」とともに、舌、咽頭(いんとう)、声帯(せいたい)、喉頭(こうとう)などの運動機能に麻痺(まひ)が起きることによる障害です。手足のマヒなどと同じ運動障害ということになります。「ろれつが回らなくなったり、声が出にくくなる」ことが多い構音障害と「ものが飲み込みにくくなったり、気管に入ってむせたりする」嚥下障害は、脳梗塞の後遺症として同時に見られることも多くなっています。前頭葉の左右両側に多発した「ラクナ梗塞」というタイプの脳梗塞で、よく起こることが知られています。

脳梗塞の後遺症で痙攣になる?

痙攣(けいれん)は、脳梗塞をはじめとする脳卒中において、発作時の症状の1つとしても起こりますが、後遺症としても、さまざまな時期に出現します。脳卒中後、2週間以内に起こる「早期けいれん」は、2%から8%の患者さんに生じ、主に24から48時間以内に起こります。早期けいれんの約3分の2は良性のもので、再発しません。

14日以上経ってから起こるけいれんは「遅発性けいれん」とよびますが、遅発性のものは再発することが多く、半数は最初の3年間のうちに「脳卒中後てんかん」(または「症候性てんかん」ともいいます)を発症します。

脳卒中のタイプ別にみると、「脳出血」「心原性脳塞栓」「血栓性脳梗塞」との順にてんかんになりやすくなっています。脳梗塞の後に起きるものは、比較的大きなもので、大脳の皮「質(ひしつ;脳の表面に近い神経細胞の細胞本体が並ぶ層)」という部分に損傷がある場合に多くなっています。また、大脳の場所で言うと、「頭頂葉(とうちょうよう;脳の上側)」や「側頭葉(そくとうよう;脳の横の部分)」の梗塞で、痙攣が起こりやすくなっています。

脳梗塞になったあと、運転できる?

てんかんや統合失調症(とうごうしっちょうしょう)などの病気については、車の運転に関する学会の提言や道路交通法によって、罰則を含む法的な規制があります。脳梗塞、脳出血などは、道交法において「脳卒中などの病気に伴い安全な運転に必要な認知または操作のいずれかの能力を欠く場合は免許証の更新ができないことがある」との記載はあります。ただ、具体的にどんな検査で、どの程度の問題があると運転を控えるべきであるといった明確な指針は学会などからも示されていません。脳梗塞後の運転の再開には、まず、各地にある運転免許センターに行って適性相談を受け、必要に応じて適性検査を受ける必要があります。その際、医師の診断書の提出が求められることになるでしょう。

運転に問題が起きる脳梗塞の後遺症として、片側の手足のマヒや視野狭窄(しやきょうさく;目に見える範囲がせまくなるもの)などがありますが、自覚できる症状であり、障害の程度による運転の可否の判断もしやすいと思われます。手足のマヒに関しては、ハンドルやペダルの改造による対処法もあるようですので、運転が必要な場合は、行政機関などに相談するとよいでしょう。

自分で気づけない後遺症も

注意しなければいけない後遺症は、高次脳機能障害に含まれる注意や判断などの機能の低下です。注意力や判断力の低下は、自身では気づかないことも多い症状です。注意力の障害の1つである「半側空間無視(はんそくくうかんむし)」は、視力に問題はなく見えているのに、視野の半分が認識できないもので、理由は明らかになっていませんが、左側に起こることがほとんどのようです。症状が検査時には起こらなくて日常生活で起こるものもあり、車の運転には要注意です。右側の前頭葉の脳梗塞はとくに注意が必要になります。

その他の脳梗塞の後遺症

脳梗塞のその他の後遺症として、以下のようなものがあります。

(1)見る(視覚)に関するもの;「視力の低下」、「物が二重に見える複視(ふくし)」、「眼の動きの障害」など
(2)聞く(聴覚)に関するもの;「聴力の低下;難聴(なんちょう)」、「耳鳴(みみなり)」など
(3)口の中に関するもの;「味覚障害」、「ドライマウス」など
(4)尿に関するもの;「ひんぱんにトイレに行く;頻尿(ひんにょう)」、「尿が出にくい;排尿困難(はいにょうこんなん)」、「漏らしてしまう;尿失禁(にょうしっきん)」。この3つは、排尿をコントロールする脳の障害による「神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)」といわれるものの症状です
(5)精神や心理に関するもの;「夜間に興奮して暴れる;夜間譫妄(やかんせんもう)」、「感情のコントロールができず、ちょっとしたことで怒ったり泣いたりする;感情失禁(かんじょうしっきん)」など

脳梗塞の合併症とは?

脳梗塞の合併症は急性期に起こりやすく、比較的よくみられるものに次のようなものがあります。

1.肺炎など呼吸器(こきゅうき)感染症および膀胱炎など尿路(にょうろ)感染症;
中等症以上の梗塞で、意識障害が起き、ベッド上に横たわったままの患者さんに多く起こります。また、「嚥下障害」のある患者さんでは、飲み込みがうまくできず、気管にだ液や飲食物が流れ込んでしまうことによる誤嚥性(ごえんせい)肺炎の危険が高まります。

2.胃潰瘍(いかいよう)などによる消化管(しょうかかん)からの出血;
肺炎と同じように重症および高齢の患者さんに多い傾向があります。脳に対する強いストレスからくる潰瘍で出血を起こしやすいものです。

3.うつ状態;
急性期から慢性期を通してみとめられます。早期の抗うつ薬の投与で改善されることが多くなっています。

4.その他;
「ベッドからの転落による外傷」、「寝たきり状態による圧迫からくる皮膚の損傷(褥瘡((じょくそう)と言います)」、「下肢(足)にマヒのある患者さんに起こりやすい下肢深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」などがあります。

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脳梗塞の後遺症や合併症などについご紹介しました。家族や知人が脳梗塞になるなどして不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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