腹腔鏡手術の死亡率、合併症、後遺症 従来比の長所や短所は?

  • 作成:2016/06/27

腹腔鏡で行う手術については、新しい技術であることから、死亡事故などが起きると、マスメディアなどで大きく取り上げられる傾向にあります。実際に、死亡率、合併症、後遺症について、通常の手術と比較してメリット・デメリットがあるのかを、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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腹腔鏡手術の死亡率は高いの?

腹腔鏡手術の死亡率 通常の手術と比べて高い?

腹腔鏡手術は患者さんにとって傷も小さく退院も早いということですが、実際に治療成績の面ではどうなのでしょうか。いくら身体への負担が少ないからと言っても、病気が治らなければ意味がありません。腹腔鏡手術を受けた患者さんが合併症などにより、不幸にも亡くなってしまうとニュースや新聞で報道が盛んにされていて不安になる方も少なくないかと思います。

合併症などによる死亡事故を受けて、2015年に日本外科学会と日本消化器外科学会は、腹腔鏡手術の現状と安全性について報告しています。この報告では、2011年から2013年までに「食道切除再建術」「胃切除」「胃全摘」「右半結腸切除」「低位前方切除」「肝切除(1区域以上)」「膵頭十二指腸切除」という手術を受けた患者さんのデータを分析しています。

その結果、腹腔鏡で行われている割合の比較的高い胃切除、胃全摘、右半結腸切除、低位前方切除、食道切除再建術で見てみると、それぞれの腹腔鏡手術による死亡率は、胃切除:0.43%、胃全摘:0.89%、右半結腸切除:0.55%、低位前方切除:0.56%、食道切除再建術:2.44%という結果でした。現在の日本では、年々腹腔鏡による手術が増えていますが、腹腔鏡手術の死亡率については、開腹手術と比較して高いということはなく、開腹手術を含む全体の死亡率よりも低いという結果でした。

また、予後に関しては日本のデータではありませんが、直腸がんについて、腹腔鏡手術と開腹手術の予後について比較した論文があります。周辺組織への浸潤や遠隔転移がない直腸がんにおいて3年後の再発率は5%で両群に差はなく、生存率についても腹腔鏡群と開腹群で有意な差はありませんでした。この研究からは、術後3年の経過において、安全性や有用性には、腹腔鏡も開腹手術も同程度であると言えそうです。

とはいえ、腹腔鏡手術では高い技術が要求されるため、手術が成功に向けては、慎重な診断が行われ、最適な治療法が選択される必要があると言えます。

腹腔鏡手術後の合併症 通常の手術と比較して危険?

腹腔鏡手術、開腹手術に関わらず、どんな手術でも身体を傷つけている以上、合併症として出血や感染、術後の腸閉塞などが、頻度は高くありませんが起こる可能性があります。

術中あるいは術後の出血が起こった場合には、開腹による再手術を行って止血を必要とする場合があり、出血量が多ければ輸血を要することもあります。また、術後には体力も落ちているため感染を起こすこともあり、手術を行ったお腹の中に膿瘍(膿がたまった状態)ができれば、「ドレナージ」という膿を体外に排出させる処置が必要となります。また、術後は腸の動きが悪いために腸管の麻痺が一時的に起こります。さらに手術によって腸管を切除したり、吻合(ふんごう、つなぐこと)していると、縫合不全を起こすことや、ねじれ、癒着によって腸閉塞(イレウス)を起こすことがあります。結果として、鼻から腸にチューブを入れる処置が必要となったり、完全に血液が通わなくなり腐りかけている場合には緊急で開腹手術が必要となります。これらの合併症は話だけ聞くととても怖いですが、実際には非常にまれですし、開腹でも起こりえます。術前に必ず医師から手術の方法と合併症について説明があるので、不明なことや不安なことは聞くようにしましょう。

一方で、腹腔鏡手術に特有の合併症とはどんなものでしょうか。腹腔鏡手術の特徴として、まずカメラや器具を挿入するための穴に「トロッカー」と呼ばれる筒を取り付けて、トロッカーを介して器具の出し入れを行います。また、お腹の中では胃や腸などの臓器が密着して存在しているため、炭酸ガスを注入し、お腹の中を風船のように膨らませて手術を行います。さらに術者の視野はカメラに映っている動画に限られます。これらの特徴により、腹腔鏡特有の合併症として、トロッカー挿入に伴う臓器損傷や抜去時の出血、炭酸ガス注入(気腹)に伴う皮下気腫・ガス塞栓・肺塞栓(血液によって流れてきた異物で肺の血管がつまること)、限られた視野による臓器損傷など挙げられます。炭酸ガスは電気メスの使用による引火の危険性がなく、呼吸によって排出されるため安全ですが、トロッカーを介して皮下に空気が溜まれば「皮下気腫」となりますし、過度に血管内にガスが流れ込めば致命的な肺塞栓という合併症をきたすこともあります。

外科医や麻酔科医、看護師などスタッフが十分に注意して治療にあたっていますが、合併症を100%防ぐことは不可能ですので、十分に納得をして手術に臨む必要があります。

腹腔鏡手術後の後遺症 通常の手術と比べて起こりやすいものあり?

腹腔鏡で手術を行った場合、身体の表面にある傷は小さくなりますが、身体の中(お腹の中)で行っている手術内容は開腹手術と基本的に同じであるため、手術を受けた後の後遺症に関しては変わらないと考えてよいでしょう。

例えば、胃がんに対して腹腔鏡下で胃切除術や胃全摘術を受けられた場合、胃の機能を失ったことによる「胃切除後症候群」が生じる可能性があります。これは、食べ物が急激に腸に流れ込むことによって、腹痛や動悸などをきたす「ダンピング症候群」や胸やけ、貧血などが含まれます。胃がんに限らず、それぞれの疾患に特徴的な後遺症は、腹腔鏡であろうが開腹であろうが、同様に起こる可能性があります。

ただ、腹腔鏡手術では、開腹手術に比べて癒着(ゆちゃく)に関しては少なくなることが期待できます。もちろんお腹の中で切開したり、縫うという操作を行っているため、まったく癒着が起こらないというわけではありませんが、癒着による痛みや腸閉塞(イレウス)、不妊症といった合併症は起きにくくなると考えられます。また、術後の痛みに関しても、腹腔鏡手術では傷が小さいため、術後の痛みは開腹手よりも軽度であるとされています。


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腹腔鏡手術の死亡率、合併症、後遺症の観点からのメリットなどについてご紹介しました。御自身や近い方の手術に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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