腹腔鏡手術とは?向き不向きの部位は?保険適用の手術はどれ?

  • 作成:2016/06/27

腹腔鏡で行う手術は、少しずつ一般的になってきています。そもそも腹腔鏡手術がどのようなものかや、向いている部位、2016年4月時点での保険適用範囲を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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腹腔鏡手術が向いていない部位がある?

腹腔鏡手術とはどんなもの?

お腹の中で壁に囲まれ、胃や肝臓、小腸、大腸などの臓器がつまっているスペースを「腹腔(ふくくう)」と呼びます。腹腔鏡手術とは皮膚に1cm程度の穴を開けて、そこから筒状のテレビカメラを腹腔内に入れて行う手術を意味しています。

腹腔鏡手術では、まず開けた穴からお腹の中を見やすくするために炭酸ガス(CO2)を注入します。炭酸ガスを使う理由は、もし酸素や空気であると、電気メスなどを使用した時に引火してしまう恐れがあり、非常に危険だからです。また、炭酸ガスは体内に吸収されても呼吸によって肺から排出できるので安全性に優れています。炭酸ガスによってお腹の中を風船状に膨らませたら、筒状のテレビカメラを挿入して、視野を確保します。腹腔内を観察しつつ、血管や臓器を傷つけないように、器具を挿入するための1cm程度の穴を3カ所か4カ所程度開けて、準備を行います。

開けた穴には、まず「トロッカー」という円筒状の筒をはめて、そこからメスやはさみなどの器具を出し入れします。この小さな穴から手術操作を行うため、手術道具は細長い構造をしており、これによって小さな傷口での手術が可能となっています。切り取った臓器などもこの穴から(出なければ少し傷口を広げて)取り出します。

したがって、外科医は手術室のテレビモニターに映し出された腹腔鏡の映像を見ながら手術を行うため、今までのお腹を開けて直接見ながら行う手術とはまったく異なることが分かるかと思います。手術をする医師にとっては映像を拡大したり、位置を変えることで開腹手術では見ることのできなかった部分も見ることが可能です。一方、高い技術が必要とされ、手術時間も開腹手術に比べて長くかかってしまう可能性もあります。

腹腔鏡手術が可能、向いている部位と不可能、向いていない部位

現在、腹腔鏡で行われている代表的な手術としては、胆嚢摘出術、胃切除術、大腸切除術、肝臓や脾臓の摘出術、子宮筋腫核出術、子宮内膜症病巣除去術、卵巣腫瘍摘出術、腎切除術、腎(尿管)悪性腫瘍手術、前立腺悪性腫瘍手術などがあります。

一方で、腹腔鏡で行われていない代表的な手術としては以下のようなものです。

・膵臓の手術
・肝臓の内部まで腫瘍のあるような肝臓の手術
・がんが進行して他の臓器にまで浸潤(浸透すること)しており取りきれない胃がんや大腸がんの手術
・炎症が強い胆嚢の手術

また、以前にお腹を開ける手術を受けている方や腹膜炎にかかったことがあるような患者さんでは、体内の臓器の癒着が強く、小さなカメラを腹腔内に挿入しても、動きの自由が効かず、視野の確保が難しいため、最初から開腹手術が選択されることが多いです。さらに血液の凝固異常(固まる機能の異常)がある場合など、止血が難しいと想定される場合にも開腹手術を行います。

患者さんにとってメリットも多い腹腔鏡手術ですが、デメリットとして取り上げられる点に手術時間が開腹手術よりも長くなってしまうということがあります。そのため、急性期の早く治療を行わなければならないようなケースでも、腹腔鏡は、不向きとされています。例えば、子宮外妊娠によって卵管が破裂して腹腔内に大量出血しているような場合では、安全性と緊急性から開腹手術のほうが望ましいと言えます。

したがって、腹腔鏡手術と開腹手術にはそれぞれ利点もありますので、患者さんの状態や適応をしっかり考慮して、かつ安全に行える方法を選択する必要があると言えます。

国内の腹腔鏡手術で保険適用になっているものは?

2016年度の診療報酬(医療行為に対する医療機関への支払い金額)の改定に伴い、腹腔鏡の分野においても、内視鏡下手術用ロボットを用いた「腹腔鏡下腎部分切除術」が保険適応となるなど腹腔鏡を用いた治療は拡大し、より一般的になりつつあります。医療技術は日々進歩しており、診療報酬改定では多くの新規医療技術が保険収載されます。ただし、医療財源には限りがあり、保険収載されるかどうかについては、新規技術の安全性・有効性・汎用性(広く使えるか)などを考慮した上で、中央社会保険医療協議会・総会にて審議されます。

腹腔鏡を用いる診療科としては主に消化器外科、産婦人科、泌尿器科が挙げられます。保険適応となっている代表的な病気は以下の通りです。

消化器外科領域→胃切除術(部分切除、全摘出含む)、食道裂孔ヘルニア手術、胃・十二指腸潰瘍穿孔縫縮術、胆嚢摘出術、肝嚢胞切開術、脾臓摘出術、腸管癒着剥離術、小腸切除術、虫垂切除術、大腸切除術、臍ヘルニア手術、鼡径ヘルニア修復術

産婦人科領域→子宮筋腫核出術、子宮内膜症病巣除去術、卵巣腫瘍摘出術

泌尿器科領域→腎部分切除術、腎摘出術、副腎摘出術、腎(尿管)悪性腫瘍手術、前立腺悪性腫瘍術

また、泌尿器科領域では2016年度から内視鏡下手術用ロボット、いわゆる「ダ・ヴィンチ」を用いた腎部分切除術も保険適応となりました。泌尿器科領域では、前立腺がんに対して2012年にもダ・ヴィンチによる手術が保険適応として認められています。

ここで列挙した疾患が腹腔鏡下で行われている代表的な疾患となりますが、自分に腹腔鏡手術の適応があるのか、また保険適応となるには医療機関側の施設基準の問題もあるため、医師に詳しく聞くことをお勧めします。


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腹腔鏡手術の概要や保険適用範囲についてご紹介しました。御自身や近い方の手術に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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