「お酒を飲むほど強くなる」都市伝説の真相

  • 作成:2021/05/31

「お酒は飲めば飲むほど強くなる」という通説があります。実際、お酒を飲み始めてから年月を経るにしたがって強くなったように感じた経験のある方もいらっしゃるでしょう。その通説が生理学的に正しいのか、「強くなった」と感じさせる理由は何なのかを解説します。

アスクドクターズ監修ライター アスクドクターズ監修ライター

この記事の目安時間は3分です

Q.お酒は飲めば飲むほど強くなるって本当?

A.強くなることはない

お酒を飲むと、そのお酒に含まれるアルコール(エタノール)は食道や胃を通り、小腸から吸収された後、主に肝臓で分解されます1)。お酒に強いかどうかは、この肝臓で分解されるスピードが速いかどうかに大きく左右されます。 アルコールの分解には、体内の色々な「代謝酵素」が関わっていますが、主に「エタノール」は①アルコール脱水素酵素と呼ばれる酵素で「アセトアルデヒド」に代謝されたのち、最後は②アセトアルデヒド脱水素酵素によって「酢酸」になります。

「お酒を飲むほど強くなる」都市伝説の真相

この①や②の酵素の”強さ”は基本的に遺伝によって決まるため、お酒を飲む習慣や、一時的にお酒をたくさん飲む訓練などによって大きく変わるものではありません。

厳密には他にも様々な要因が複雑に関係していますが、たとえば①も②も速い人は、お酒を速いペースで飲んでもあまり酔っ払うことがなく、しかも二日酔いにもなりません。そのため、必然的にお酒を飲む量も多くなり、肝臓を壊したりしやすい傾向にあります。

一方、①は速いのに②が遅い人の場合、「エタノール」はすぐに代謝・分解されますが、「アルデヒド」は蓄積しやすい傾向にあります。つまり、お酒を飲んでもあまり酔っ払うことがなく、顔が赤くなったり、動悸がしたり、吐き気がしたりといった不快な症状がすぐに現れます2)。そのため、このタイプの人は基本的にあまりお酒を好んで飲むことをしない傾向にあります。

実際、日本人の75%は①が遅いタイプ、25%が②が遅いタイプで、①も②も大半が速いタイプの欧米人とは大きく異なっています。また、日本人の進化の歴史上、遅いタイプが何らかの理由で有利に働いて、遅いタイプを持つ人が徐々に増えてきた、という研究結果も発表されており、日本人らしさと関連する広範な食習慣(飲酒歴・飲酒量・コーヒー・緑茶・牛乳・ヨーグルト・納豆・豆腐・魚)と関係があることが明らかになってきています。3)

このように、お酒を飲んだ時の反応はおよそ遺伝的な要因によって大きく左右されるため、「お酒をたくさん飲んでみる」といったような訓練で劇的に変わることはありません。

極めて過量なアルコール摂取を続けていると、身体はアルコールを“強引に代謝・分解”するようになる

なお、①エタノールの代謝・分解には、肝臓の「CYP2E1」という酵素も関係しています。この「CYP2E1」は、日常的に大量の飲酒を続けていると“強く”なってくることがあります4)。これを「お酒を飲んでいると強くなる」という現象の根拠にする人もいます。

確かに、この「CYP2E1」という酵素が”強く”なると、お酒を飲んだ際に「エタノール」はすぐに分解されるようになるため、あまり酔っ払わないようになってきます。しかし、②アセトアルデヒドの代謝・分解のスピードが遅いままでは身体に「アセトアルデヒド」が蓄積しやすくなるため、肝臓に負担がかかったり、食道がんなどを起こすリスクが高くなったりします5)。いわば、身体がアルコールを強引に代謝・分解するようになっているだけで、決してお酒をたくさん飲んでも平気な身体になっているわけではありません。

「お酒を飲むほど強くなる」都市伝説の真相

また、「CYP2E1」という酵素は様々な薬の代謝・分解にも関係しています。そのため、この酵素の働きが変わると、薬を飲んだ際の効果や安全性にも影響します(例:痛み止めや熱冷ましとして広く使われている「アセトアミノフェン」が通常と異なる代謝をされることによって、肝障害や肝不全を起こすリスクが高くなります6))。

このように、大量のお酒を毎日のように飲み続けていると、確かに①エタノールの分解が速くなる可能性はありますが、それは「お酒をたくさん飲んでも平気な身体になった」のではなく、身体に負担をかけながら「お酒を強引に代謝・分解をする身体になった」と言った方が適切です。これを“お酒に強くなった”と表現することには、やや疑問が残ります。

少しのお酒でも、機会が増えると「お酒に強くなった」ように感じるのは何故?

上記のような、やや危険なほどの大量の飲酒を続けている人でなくとも、経験として、お酒を飲む機会が増えてくると「お酒に強くなった」ように感じたことのある人も多いでしょう。これには、自分の“飲み方”が影響している可能性もあります。

たとえば、お酒を飲む機会が増えてくると、酔い潰れてしまうほどに速過ぎることもなく、かといって酔わないほどに遅過ぎることもない、自分に合った飲酒のペースが掴めてきます。また、「これ以上飲むと、明日に影響しそうだな」と、自分で止めどきを見つけられるようにもなってきます。つまり「上手に飲むスピードや量を調整しながら飲めるようになる」ため、お酒に強くなったように感じることがあります。

あるいは、適度に水を飲んだり、軽食を摂ったりしながらお酒を飲めるようになると、脱水や低血糖なども起こしにくくなるため、二日酔いの頻度も少なくなります。これも、お酒に強くなったと感じる要因になります。

節度のある飲酒の習慣を

お酒は、日本人にとっても古くから(一説には縄文時代から)親しみのある飲料で、時に食事を美味しくしたり、人との会話を弾ませたりと、人生を彩るアイテムの1つになっています。しかし、アルコールは急性中毒による死亡例も多く、また依存性もあり、慢性的な飲酒は肝障害や各種がんなどとの関連も示唆されているものでもあります。健康を大きく損なうような飲み方はせず、自分に合ったペースと量を守って、楽しく飲むようにしてください。

(参考文献)

1) Addict Biol . 2002 Jan;7(1):5-14.

2) Pharmacol Biochem Behav . 1983;18 Suppl 1:127-33.

3) https://www.riken.jp/press/2020/20200130_1/index.html

4) Int J Legal Med . 2008 Mar;122(2):129-34.

5) Cancer Sci . 2010 Aug;101(8):1875-80.

6) カロナール錠 インタビューフォーム

症状や健康のお悩みについて
医師に直接相談できます

  • 24時間受付
  • 医師回答率99%以上

病気・症状名から記事を探す

その他
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師