「コロナ第5波」訪問診療医が見た在宅療養のリアル

  • 作成:2021/10/23

一時は日々の新規感染が5000人を超えた東京都内の新型コロナウイルス感染者も、最近では50人以下になるなど落ち着きをみせています。今回の「第5波」では「自宅療養者」が急増し、全国で10万人を超えました。入院が必要とされる中等症Ⅱの状態でも、感染者が入院できない異常事態に、全国各地で在宅医療を行う医師たちが往診に奔走しました。桜新町アーバンクリニック(世田谷区)の遠矢純一郎先生もそのひとり。訪問診療で見た在宅療養の実情と、この冬、予想される「第6波」への提言を聞きました。 (2021年10月4日にインタビュー。全3回の連載)

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「コロナ第5波」訪問診療医が見た在宅療養のリアル

第5波で急増した自宅療養者 その時現場は

東京都医師会が「第5波」に向けた対策づくりを、東京23区と都下の医師会に呼びかけたのは5月でした。訪問診療医である遠矢先生が感染者の往診をするようになったのは、いつからですか?

本格的に訪問するようになったのは、8月に入ってからです。世田谷区では当初、夜間・休日往診を専門に行う区外の医療法人など3社に、コロナ感染した在宅療養者の往診を業務委託していました。しかし、東京都からの要請もあり「地域を守るのは地域の医師の役目ではないか」と、世田谷区玉川地域で熱心に訪問診療を行う3クリニック(桜新町アーバンクリニック、ふくろうクリニック、GPクリニック自由が丘)が話し合い、在宅療養者支援の協力体制をつくって、何かあったら相談してくださいと保健所に申し入れました。

3クリニックはもともと在宅でのPCR検査や、発熱した患者さんへの往診を行っていたし、地域の訪問看護や薬局とも連携体制が取れていたので、コロナの自宅療養者への往診にも対応できるだろうと考えました。

でも、保健所からの依頼があったのは、5月から7月までは月1回くらい。潮目が変わったのが8月に入ってからですね。委託していた医療法人だけでは間に合わなくて、僕らにもどんどん依頼が来るようになり、訪問診療の合間を縫いながら、多いときには1日5~6軒の感染者宅を往診する日々が続きました。

あの時期は東京都のコロナ在宅療養者数は1万人を超えていました。世田谷だけでも、何千人という自宅療養者が出ていましたね。

連日4000人を超える感染者数が続き、世田谷区でもあっという間にコロナ病床が満杯になりました。僕らが保健所から要請されたのは、その7割が「中等症Ⅱ」以上で、呼吸不全の出ている方々です。その方々の状態を診て、病院に送る必要があるかどうかのトリアージをしながら、在宅酸素療法やステロイドなどによる治療を行うのが、僕らの役割でした。

先生はそれまで、コロナ感染者への往診をされたことはありましたか?

僕らは発熱外来やPCR検査をやっていましたから、熱発した患者さんの診察や感染者の保健所への報告は行っていました。でも、コロナに感染した患者さんを実際に在宅で診たことはありません。そこで、コロナの中等症以上で入院した患者はどのような経過をたどるのか、そこがわかっていないと、その手前のトリアージができないと考えました。幸い、以前、当院におられた遠藤拓郎先生が、現在、国際医療福祉大学成田病院で重症コロナ患者への対応をされているので、先生にコロナに関するモーニング・レクチャーをしていただきました。

お聞きしてよかったことのひとつは、すでにコロナはある程度治せる病気になったということでした。ただ、それには条件があり、しかるべきタイミングで治療にきちんと乗っていれば、亡くなるところまでいかずに済む。だから、何よりも大事なのは重症化する前に入院して治療を受けるということでした。それを聞いて考えたのは、病院で使える薬が在宅では使えないので、下手に在宅で粘ることをせず、しかるべきタイミングで入院治療につなぐことに徹しようということでした。

在宅医療の現場で見た、コロナ患者のリアル

新型コロナの感染者は、それまではすべてが入院か宿泊施設への隔離対象とされてきました。でも、8月になると、入院できるのは中等症でもかなりの重症者に限られるようになりましたね。

保健所からいただく往診要請の多くは、熱や咽頭痛に始まったウィルスによる炎症がじわじわと肺に広がり、やがて呼吸不全を来していく発症後7~10日目、酸素吸入が今すぐにでも必要な方々でした。医者としてなによりも辛かったのは、在宅でできるのが酸素とステロイドのみという打ち手のなさ。病院であればより幅広い治療薬が使え、適切なタイミングで治療開始できれば、コロナは生還できる病気になりつつある。これだけ自宅療養せざるを得ない状況にあるのなら、せめて病院でできる治療を自宅でも受けられるようにすべきなのに、登録された医療機関でしか治療薬を使用できないのが、とても悔しかったですね。

感染者のほとんどは、20代から40代の若い人で、びっくりしたのは、若くても急速に悪化が進むことです。身長180センチ以上の屈強な青年が、身動きできないほどの呼吸困難にあえいでいる。コロナは怖い病気だと思い知らされました

感染者の診療で接する時間は15分以内にと言われていますが、そうもいきませんよね。

「コロナ第5波」訪問診療医が見た在宅療養のリアル

保健所から事前情報を得るなどして、できるだけ往診の滞在時間を短くしようと努めていましたが、自宅で単身療養している方はたくさんの不安を抱えており、薬やパルスオキシメーター、酸素濃縮器の説明なども含めると、なかなか短時間では終わりません。なかには高熱が続いて、食事もとれず水もとれず、脱水状態になっている人もいるので、点滴をしたりすることもしばしばありました。

しかも夏だったので、防護服をつけていると全身汗だく。こちらが熱中症になりそうになります。何例か経験するうちに、コロナ自宅療養で必要な知識や、説明すべきことが見えてきたので、当院の感染対策委員のスタッフたちが、患者説明用の資料を製作してくれました。

通常の訪問診療での往診と、コロナ感染者の往診とはずいぶん違った点があったのではないでしょうか。

ある程度のギャップはイメージしていましたが、感染した方の往診の現場は想像以上でした。通常の訪問診療では、患者さんはたいてい介護用ベッドに寝ています。でも、コロナの感染者は布団に寝ている人も多く、点滴をするときには、床に膝をついてやる必要がある。ガウンは膝までしかないので、これはまずいと、パンツをはくタイプにすぐ変えました。いつもの訪問診療と違い、感染者は毎回新しい患者さんなので、家にたどり着くのに時間がかかる。治療中も高熱でフウフウいっている方に「保険証はどこですか」と探していただくこともあったのは、とても心苦しかったですね。

聞き手・まとめ:中澤まゆみ(ノンフィクションライター)

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