夏休みの予定はキャンセルすべき? 感染症専門家の「ポイントを押さえた対策」とは。

  • 作成:2022/07/30

子どもたちは夏休みに入り、大人の夏季休暇も目前の今、新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最多を更新しています。旅行やレジャーの予定はどうしたらいいのでしょうか? また、ウイルスの系統が、感染力が強いといわれる「BA.5」に置き換わったことで、感染対策上の注意点はあるのでしょうか。感染症専門医の水野泰孝先生(グローバルヘルスケアクリニック院長)に伺いました。

この記事の目安時間は6分です

夏休みの予定はキャンセルすべき? 感染症専門家の「ポイントを押さえた対策」とは。

「換気」の大切さを今一度、認識してほしい

8月になるとお盆休みなどで、普段会わない人たちと接触する機会が増えると思われます。感染対策で特に気をつけるべき点を教えてください。

夏でも冬でも「換気」は非常に大事です。今回、感染者数が増え始めたのは、梅雨明けから3~4日後でした。おそらく急に暑くなったのと、熱中症対策として、窓を閉めて一日中エアコンをつけるようになったからでしょう。 すなわち、締め切った空間で、換気していた頃と同じように飲食やマスク無しの会話をしたことが感染拡大のアクセルになったと思います。

特に、暑い日にはエアコンが効いている飲食店はとても快適ではありますが、多くの人がマスクを外す密閉した環境でもあります。一人で食事をしていても、隣で大人数のグループがマスクなしで会話をしているとエアロゾル感染を起こすことがあるかもしれません。

消毒やマスクはどうですか。

家や職場、店内などの環境消毒に関してですが、環境からの感染リスクは高くはないことがわかってきています。第87回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年6月8日)の資料によれば、接触感染対策としての「過剰な環境消毒の中止」を提言しています。例えば頻回の環境消毒、抗菌コート、エレベーターのボタンのカバーなどです。
飲食店で従業員がテーブルや椅子をアルコール消毒している光景をよく見かけますが、利用者が手指をきれいにする方が効率的です。ただ、入口で強制的に消毒を課するのは行き過ぎであると感じます。

マスクは、屋外や室内でも誰とも話さないような時には不要ですが、近距離で人と話す時は屋外でもした方が無難です。

このポイントを押さえればいいのに、ちぐはぐなことをしている人をよくみかけます。たとえば、屋外でもマスクをしているのに、室内で喋るときにわざわざマスクを外す人、食事が終ってもマスクをしていないのに、外に出るときにする人など。マスクは至近距離で会話をする時に着けることがポイントなのですが、このような人は「マスクをしていたのに感染した」と思っているのかもしれません。

ちなみに、私は毎日患者さんと接触しているため、仮に自分が感染源になっても拡げないように、自宅で食事をするときも小声か、あまり喋らないようにしています。また、会話をする時には距離をとるようにしています。
基本的な感染対策は「接触予防対策としての手指消毒」「飛沫予防対策としてのマスクの着用」であることに間違いはないのですが、大きく網をかけて「とにかくマスクをしましょう、消毒しましょう」ではなく、ポイントを押さえたメリハリのある感染対策が大事なのです。

この考えは「行動制限」にも言えることで、人の動きを抑えたからといってポイントが絞られていなければ、その言葉による社会的影響の方がデメリットを生み出す要因にもなりかねません。特に多くの子どもたちが楽しみにしている夏の行事を奪うことはあってはならないことです。

水辺のレジャーは「更衣室」「タオルの共有」に注意!

子どものいる家庭などでは、夏はプールで遊ぶ機会も増えます。マスクができない水回りにおける感染リスクはどう考えればいいでしょうか。

まず、プールの水には塩素が入っていることもあり、水を介した感染リスクはきわめて低いと考えられます。感染リスクがあるとすれば、普段の生活と同様にプールの中やプールサイドにおける至近距離での会話の時でしょう。

特に、更衣室は注意が必要です。更衣室は狭い空間に人が集まり、窓がなく換気はよくありません。できるだけ会話を控え、短時間の滞在にとどめるようにしましょう。
また、新型コロナだけではなくプール熱(咽頭結膜熱)は、タオルの共用などで拡がることがありますので、個々のタオルを使うようにしてください。

医療逼迫の地域に行くなら、1週間前から十分な対策を

今回の第7波をめぐって、今後懸念されるポイントや、読者へのメッセージがあれば教えてください。

新規感染者数は増えていますが、夏休みに旅行を企画されている方はキャンセルする必要はないと思います。重要なポイントは、体調を万全にすることと旅先での行動です。少しでも体調に不安があれば、迷わずキャンセルしたり延期したりして無理をしないことです。また、リゾート地などでは開放的な気分になりますが、基本的な感染対策を講じながら過ごしていただきたいと思います。

今年のゴールデンウィークも、大勢の人出がありましたが、大きな感染拡大は見られませんでした。とはいえ、現段階で医療逼迫がみられる地域への旅行を考えている方は一層の注意が必要です。旅行中に体調を崩し現地の医療機関を受診するようなことがあると、医療逼迫を助長させてしまうおそれがあります。

もし該当する場合には、自分が感染源にならない最大限の努力をしてください。具体的には出発の1週間程度前から人との接触をできるだけ断つこと、外食機会をもたないこと、可能であれば自主的に検査をすることなどです。

「会食」はしていないが「カフェで2時間お喋りした」

自分が罹らないようにするのはもちろん、「人にうつさないようにすること」も非常に大切なのですね。

そうです。たとえば少しのどがいがらっぽいけど、キャンセル料がもったいないからと旅行を強行するようなことは止めましょう。旅行に限ったことではありませんが、自覚する症状があり、もしかしたら新型コロナかもしれないと感じるのであれば、1週間程度は人との接触を避ける、外食はしない、家族とも会話の機会を減らすなど、他の人にうつさない努力をするべきです。

この2年間で基本的な感染対策の知識はかなり向上してきたと感じますが、誤解されている方も散見されます。
たとえば問診で「家族以外と会食していません」が「カフェで友人と2時間お茶は飲みました」と答える方がおられました。その方にとっては「会食=夜の飲み会」なのでしょうが、カフェで友人とお茶を飲むだけでもマスクを外し近距離で会話をしていませんか? しかも長時間にわたって……。

すなわち昼か夜か、何を食べたかではなく、「至近距離でマスクなしでの会話をしたか」なのです。

水野 泰孝 先生

グローバルヘルスケアクリニック 院長

1994年、昭和大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院で臨床研修、同大学小児科学講座に入局。同大学大学院で熱帯医学を専攻し、2003年同大学附属病院感染制御部に異動。2004年より国立国際医療センター(現・国立国際医療研究センター)国際医療協力局・国際疾病センター(現・国際感染症センター)厚生労働技官、外務省医務官などを経て、2011年より東京医科大学病院 感染制御部・渡航者医療センター准教授。2013年より感染制御部部長・感染症科診療科長。2016年より国際診療部部長。また2009年から2017年まで、国際協力機構(JICA)感染症顧問医を務める。2019年6月、東京・千代田区に「グローバルヘルスケアクリニック」を開業。現在は千代田区医師会理事、東京都三鷹市感染症対策アドバイザーなどを務める

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