誤った情報に騙されずに、正しい医療情報を見極めるためのポイント

  • 作成:2023/03/24

テレビやWebサイト、書籍、広告、SNSなど、私たちが目にするものには医療情報があふれています。健康のために良い生活習慣を取り入れたいと思う一方で、誤った情報に振り回されてしまうことも少なくありません。では、膨大な量の情報のなかから、どのように正しいものを見極めればよいのかでしょうか。今回は、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)を上梓した山田悠史先生に、誤った情報に惑わされず、正しい医療情報にたどり着くためのポイントを教えていただきました。

山田 悠史 監修
マウントサイナイ医科大学老年医学科 アシスタント・プロフェッサー
山田 悠史 先生

この記事の目安時間は3分です

誤った情報に騙されずに、正しい医療情報を見極めるためのポイント

「信頼できる情報か」 疑う視点を持つことが大事

人生100年時代などとも言われ、生活習慣病なども気になります。健康のために情報収集をしたいのですが、たくさんの医療情報のなかでどれを信じていいのか。先生はどのように見ていますか?

世の中にはたくさんの情報があふれていて、本当に正しい情報が伝わっていないのでは、という危機感があります。私が2022年に『最高の老後』(講談社)という本を刊行したとき、書店の健康書コーナーを見てびっくりしました。パッと見ただけでも、並んでいる本の9割は目も当てられないような内容で、「これは確かな情報だ」と思える本を見つけるほうが難しかったんです。

しかも、表紙を見ると、患者さんが抱える不安に直接訴えかけるような言葉が使われている。そんな本の著者が有名大学の教授だったりするので、説得力があると思ってしまう人も少なくないはずです。

たしかに大学教授が書いた本だったら、それだけで信じてしまいそうです。

肩書や著名人や好きな芸能人が発信しているからといって、そのまま情報を鵜呑みにしてしまうのは危険です。手が届くところにさまざまな情報があふれている分、正しい情報にたどり着くためには注意が必要です。

例えばSNSで発信されている医療情報は、50%以上の確率ででたらめな内容が含まれています。そうした情報に騙されないように、常に「これは本当かな」「信頼できる発信源だろうか」と疑う視点を持って、情報に接することが大事です。

たくさんの情報のなかから、正しい情報を得るためにはどうすればよいでしょうか?

論文などの一次情報に基づいているかなど、判断するポイントはいくつかあるのですが、それだけでは見分けるのが難しいので、まずは1人が言っていることを妄信しないことですね。誰か1人の意見を信じるのではなく、他にも言っている人がいるのかを確かめること。同じようなことを何人かが言っているのであれば、それだけ情報の信ぴょう性は高まります。信頼できる発信をしている医師を何人か見つけておくことが、SNSで情報を探す時代には必要かもしれません。

ただ、そこで注意してほしいのが、複数の人が同様の情報を発信していたとしても間違う可能性はまだあるということ。例えば、ワクチンの情報について「反ワクチン」を主張する人の意見だけを集めてしまった場合、確かに皆が同じ方向を向いて同様の情報を発信しているように見えるかもしれませんが、それらは残念ながら十分な根拠に基づいた正しい情報ではありません。その場合のバックアップとなるのが、公的機関が発信する情報です。

ワクチンに関して言えば、厚生労働省が発表する情報には、何十人もの専門家が目を通しているので、それだけ信頼性は高まります。常にチェックしておく必要はありませんが、気になるトピックスがあったときにはバックアップとして確認してみるとよいでしょう。今の時代、ヘルスリテラシーを持つことが、大事な健康法の一つなのです。

生活習慣病の治療は、「未来の自分の健康」を守るためのもの

山田先生の著書『健康の大疑問』には、医療に関する記事や広告に「最新論文」が引用されているケースにも、注意が必要だと書かれていますよね。

「最新論文」が記載されていれば、科学的根拠に基づく内容なのだと納得してしまうかもしれませんが、実際にはそれが根拠として十分ではない場合もあります。商品を売るために、あえて情報を切り取って、誤解を招くような書き方をしているものをよく見かけます。

例えば最近、抹茶を与えたマウスのうつ症状が改善したという論文が発表されました。すると、時を経ずして「抹茶でうつが治る」というタイトルで記事が出ましたが、それを見てすぐに抹茶を飲もうとする前に立ち止まる必要があります。マウスの実験だけが根拠になっているということは、逆に言うと、人間ではまだ明らかになっていないということ。すぐに情報に飛びつくのではなく、そうしたとらえ方ができるようになれば、情報を見極める力が鍛えられていくと思います。

『健康の大疑問』では、そうした力を養っていただくべく「乳酸菌は風邪予防になる?」「ビタミンDで骨は強くなる?」といった健康にまつわる「よく聞く噂」を取り上げて、実際にはどこまで研究で明らかにされているのかを解説しています。

病気のことは医師に相談できますが、健康情報はなかなか相談しにくくて……。聞いてもいいのでしょうか?

もちろんです。信頼できるかかりつけ医がいるのであれば、病気のことだけではなく、健康情報について相談するのも一手ですので、遠慮せずに聞いてほしいです。ご自分でいろいろと調べて医療情報を得ることも大切ですが、半分以上はでたらめの情報が混じっています。だから、気をつけていても間違ってしまうこともあるでしょう。かかりつけ医に相談すれば、実際のところはどうなのかを確認することができるのではないでしょうか。

生活習慣病などの慢性疾患にかかっていても、ずっと健康でいたいと思う人は多いはず。健康でい続けるために大事なことを教えてください。

治療に対するモチベーションを保つことがとても大切です。特に生活習慣病の多くは、ほとんど自覚症状がありません。そのため治療の意義を感じにくくなってしまう人もいるのではないでしょうか。しかし、生活習慣病の治療は、検査の数値を良くすることが目的というわけでは必ずしもなく、5年後、10年後の自分の健康を守るためのもの。「未来の自分に対する投資」だと考えることが大事なのです。

例えば、高血圧症であれば、血圧の数値を下げることによって、〇〇年後に自分が脳梗塞や心筋梗塞になる確率を下げることができる、これが治療をしている本来の目的です。治療を続けていても、なかなかその効果は実感できないのですが、確実に将来の健康を守ることにつながっているのです。体調が悪くなってからでは手遅れになる病気を防いでいる。実はとても意義のある治療なのだと理解してもらいたいです。

生活習慣病の治療は、未来の自分が健康でいるために大切なんですね。

生活習慣病という言葉から、「これまでの生活習慣が悪かったんだ」と落ち込んでしまう人がいるかもしれませんが、罪悪感を抱く必要はないことも伝えたいです。いわゆる「生活習慣病」になるのは、過去の生活習慣だけでなく、生まれ持った素質や遺伝的な背景など、避けられない要素もあります。

さまざまな要因が積み重なって発症する病気なので、「生活習慣病」と言われたからといって、「自分を否定された」と思う必要はありません。病気をネガティブにとらえずに、前向きに治療に取り組んでほしいですね。

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次回のテーマは高血圧症。老年医学の専門家である山田先生に、「血圧の数値をどう見る?」「目標値はどのように設定する?」といった具体的な疑問に答えていただきながら、病気とうまく付き合っていくためのヒントをお聞きしていきます。

米国老年医学・内科専門医
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学医学部附属病院や川崎市立川崎病院で研修。米国NYのマウントサイナイ・ベスイスラエル病院の内科レジデント、同大学老年医学フェローを経て、現職。その他に、一般社団法人コロワくんサポーターズ代表理事、めどはぶ代表、フジテレビライブニュースαコメンテーターなど。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。

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