逆子(骨盤位)と出産とリスク 帝王切開?骨盤位牽出術?前期破水、微弱陣痛との関係についても解説

  • 作成:2016/08/18

逆子の場合、経腟分娩はリスクがあるため、基本的には帝王切開による出産となります。リスクはあるものの「骨盤位牽出術」という方法で経腟分娩をすることもあります。前期破水や微弱陣痛と逆子の関係を含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です

逆子だと必ず帝王切開になる?

目次

逆子の出産方法 帝王切開になる?怖い臍帯脱出とは?

逆子の場合、気になるのは出産方法かと思います。

赤ちゃんのお尻が子宮口側にあり、両足が上に向いて伸びている時(単臀位)や、膝を曲げた状態でお尻と足が子宮口側にある場合(複殿位)には逆子でも自然分娩が可能です。

ただ、最近では、逆子は帝王切開になるのが一般的です。逆子で自然分娩を試みる場合、赤ちゃんに酸素などを運ぶへその緒が出てくる「臍帯脱出」というリスクがあります。

「臍帯脱出」とは、胎児先進部が、子宮下部を閉鎖しない場合に起こるもので、子宮口と赤ちゃんに密着感がない場合がリスクとなります。逆子の他、「横位」や狭骨盤、児頭過小、過長臍帯(へその緒が長いこと)、前期・早期破水などが原因として考えられます。臍帯脱出では、臍帯が子宮や赤ちゃん自身に圧迫されることで、本来へその緒の中を通る血流が途絶えて酸素が届かなくなり、一気に胎児機能不全になります。脳は、酸素の影響を強く受ける器官であり、酸素の供給が5分止まると障害を残すといわれています。臍帯脱出によって臍帯が圧迫されてしまった場合は、緊急で分娩を行うことが必要になります。

また、逆子で経腟分娩を行う場合には、肩が出るときに上肢が「ばんざい」をしてしまうことがあり、姿勢を解消する際に腕の骨や鎖骨を骨折してしまったり、最後に頭がスムーズに出なくなったりするなど、赤ちゃんに不利な状況になることがあります。

逆子では分娩が長引き、このことが赤ちゃんに様々な悪影響を及ぼしますが、お母さんのリスクはそれほど多くありません。しかし、分娩が長引けば必要以上に体力を奪われることになります。また、ごくまれではありますが、産道が赤ちゃんに長時間圧迫されることで血流が途絶えてしまい、壊死(臓器の一部の細胞が死ぬこと)や「瘻管(ろうかん)」という状態が生じることがあります。瘻管とは、子宮は膀胱と直腸の間にある臓器であり、産道の壊死の程度が強い場合、膀胱や直腸との間にトンネルができてしまうことです。

危険を可能な限り避けるため、赤ちゃんとお母さんの安全を最優先に考えて帝王切開が選ばれることが多いのです。 帝王切開の場合は、予定日の前の妊娠38週頃に予定される事が多いようです。

骨盤位牽出術の概要とリスク

逆子に対して、帝王切開でなく経腟分娩する方法がないわけではありません。骨盤位の経腟分娩では、一番大きい頭が最後に出てくることになるため、どうしても頭と産道との間で、臍帯(へその緒)が圧迫されてしまいます。そのため、ある程度出てきたら、適当な操作を行って速やかに分娩を終了させることが必要になります。分娩を速やかにすませるために行われるのが、「骨盤位牽出術(けんしゅつじゅつ)」です。牽出術には、「横8の字法」と「上下振り子運動法」の2種類の方法があります。

「横8の字法」は、お母さんのお腹側に赤ちゃんの背中がくる向きで赤ちゃんの腰を両手でつかみ、横向きの8の字、つまり無限大の記号「∞」を描くように赤ちゃんの腰を左右に振る方法です。これによって、赤ちゃんの肩、上肢(肩から先の手)が出やすくなります。上肢がなかなか娩出されない場合、「上下振り子運動法」を行います。これは、赤ちゃんの両足を持って、半円を描きながら引きだす方法です。これを繰り返すことで、上肢が娩出されます。

両肩、両上肢が娩出され、顎(あご)まで出てきたら、最後は「後続児頭牽出法」という方法で、頭を出します。頭の分娩は、臍帯に一番負担がかかるので、速やかな処置が必要ですが、無理に牽引すると、筋肉を損傷したり、神経麻痺などの障害が生じてしまいます。特に、首は上肢の神経が分岐する場所であり、手首は動きますが、障害としては、肩や肘が動かなくなる「上位型麻痺(Erb麻痺:エルブまひ)」というものが代表的なものとして有名です。この他、「全型麻痺(腕全体が動かない)」や「下位型麻痺(肩・肘は動くが、手首から先は動かない)」などという障害が出ることもあります。

上肢の麻痺を起こさないためには無理な牽引にならないよう、十分注意して操作を行うことが必要になります。「後続児頭牽出法」では「Veit-Smellie(ファイト-スメリ)法」と呼ばれるものが一般的です。これは、赤ちゃんの口に示指(人差し指)を入れて、牽引する方法です。顎(あご)を引かせることで骨盤に沿った形で娩出できるようになるため、頭がスムーズに出てくるようになります。

骨盤位牽出法では、Erb麻痺などの神経麻痺の他、以下のような障害が残る可能性があります。

・胸鎖乳突筋(首を曲げたり回転させたりする筋肉)の損傷
・大腿骨、上腕骨、鎖骨の骨折
・頭蓋内出血

頭を娩出する際に臍帯圧迫が長引けば、酸素不足の影響を受けやすい脳がダメージを受け、「脳性麻痺(運動障害の他、精神遅滞や視力障害、張力鍾愛を伴うこともある)」などの障害が残る可能性もあります。

障害のリスクを考えると、やはり帝王切開を選択する例が多くなっています。

逆子では前期破水が起きやすい?前期破水が起きた際の対応は?

逆子では前期破水が起きやすいといわれています。

「破水」とは、赤ちゃんを包んでいる卵膜が破れて、中の羊水が流れ出ることをいいます。破水は通常、分娩が進行して、子宮口が大きく開いた状態になり、赤ちゃんが出てくる直前にみられるものです。これに対し、陣痛が発来する前に破水してしまうことを「前期破水」といいます。

子宮頸部が熟化すると、子宮口周辺の卵膜が破れやすくなります。頭位では頭と子宮壁に密着感があるので、子宮口周辺の卵膜は破れづらくなっていますが、逆子では頭位のような密着感がないので破れやすく、赤ちゃんの足が「卵膜」を蹴ってしまう可能性もあるので、前期破水が起こりやすくなっています。

破水すると分娩が進行するので、妊娠37週に満たない場合に破水が起こってしまうと早産になる可能性が出てきます。このため、まだ赤ちゃんが出てくる準備ができていない妊娠37週未満に前期破水してしまった場合には、感染に注意しながら慎重に経過をみるということになります。

しかし、羊水は赤ちゃんを細菌やウイルスなどの病原菌から守る働きをしているため、破水すると子宮内の感染が起こりやすくなります。感染がみられる場合は、赤ちゃんとお母さんのリスクを考えて妊娠を終了させることがあります。このとき、逆子では経腟分娩はリスクが多いので、帝王切開を行って胎児を取り上げることになります。

逆子では微弱陣痛が起きやすい?微弱陣痛が起きた際の対応は?

逆子では「微弱陣痛」も起きやすいといわれています。

「微弱陣痛」とは、陣痛が弱いために分娩が進行しない状態をいいます。陣痛は、子宮口全開大(分娩に向けて大きく開いた状態)になると、2分おきくらいに1分間持続するものですが、「微弱陣痛」は「間隔が3分30秒以上、持続時間が30秒以内」と定義されています。

原因としては、子宮の過伸展(伸びすぎた状態)、赤ちゃんの向き、お母さんの体調不良の3種類が考えられています。子宮奇形や羊水過多などで、子宮が過伸展してしまうと、子宮が十分に収縮することができません。また、逆子や「児頭骨盤不均等(赤ちゃんの頭が大きい、または骨盤が狭いために分娩が進まない)」でも微弱陣痛となります。お母さんの体調不良や恐怖感で力が入らない場合も同様です。

子宮口周辺には、「子宮頸部神経叢」という神経の集合している部分があります。胎児が下がってきてこれを刺激することで、子宮が収縮し適切な陣痛が生じます。頭位の場合、大きく硬い頭が出口に近いところにあるために十分な刺激が得られますが、逆子の場合は子宮口周辺にある部分が柔らかいお尻であったり、小さな足であったりするために、子宮頸部神経叢を十分に刺激することができません。このため、陣痛が弱くなってしまうのです。

頭位で微弱陣痛の場合は経過観察や陣痛促進薬を使用することで経腟分娩を促しますが、やはり、逆子の場合は帝王切開を選択する場合がほとんどになります。



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逆子の出産についてご紹介しました。検診で「逆子」と指摘されて不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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