人生100年時代、「死ねない日本人」が直面する“長生きのリスク”

  • 作成:2021/09/05

医療の進歩やライフスタイルの変化によって、脳卒中や心筋梗塞といったいわゆる「急性疾患」で命を落とすリスクが低減する一方、認知症や寝たきりなど、「長生き」による新たな健康リスクが増大しつつあります。「人生100年時代」の到来が現実的なものとして語られる今、日本人に必要な健康への向き合い方とは――。 『健康をマネジメントする 人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』(CCCメディアハウス)の著者でもあり、慈恵医大晴美トリトンクリニックで「行動変容外来」という新しい外来を立ち上げた横山啓太郎氏が解説します。

横山 啓太郎 監修
慈恵医大晴海トリトンクリニック 所長
横山 啓太郎 先生

この記事の目安時間は3分です

人生100年時代、「死ねない日本人」が直面する“長生きのリスク”

「ピンピンコロリ」で亡くなるのは男性で10%、女性で2%

「病気に苦しむことなく、元気に長生きし、最後は苦しまず、コロリと死にたい」――。

いわゆる「ピンピンコロリで死にたい」と考える方は多いかもしれません。
しかし、現在このように亡くなる人の割合は、男性で10%、女性で2%程度*。1970年代に心筋梗塞を患い亡くなった方の4分の3の人は現在のカテーテル治療では助けられるとも言われているように、かつては治療が困難で、死に至るレベルだった急性疾患であっても、助けられる事例が増えたことがこの一因だと言われています。従来の「人生70年の時代」では、死ぬまで認知症になったり、寝たきりになったりしなくても最期を迎えることができたのですが、現在は「病気で簡単に死ねない時代」なのです。

「ピンピンコロリ」に代わって、昨今増えているのが「凸凹パターン」。つまり、心筋梗塞や脳梗塞などの急性疾患を乗り越えた後、後遺症を抱えるなどし、身体機能の低下を抱えたまま、最期を迎えるという状態だと言われています。

もちろん、急性疾患で亡くならなかったこと自体は、ご本人やご家族にとって良いことだったかもしれません。しかし、凸凹パターンの状態はいわば、「病気で長年苦しみ、長年医療費を支払い続けるというつらい老後を送るリスクがある状態」とも言い換えられますから、「できれば避けたい」と思う人も多いのではないでしょうか。

人は生まれたときから、生命財産を徐々に失い、財産を使い果たし、ゼロになった時に亡くなります。これは確実なことですが、あまり考えないことかもしれません。
「財産としての生命財産」が失われていくスピードは人によって様々ですが、パターンは大きく、上述の「ピンピンコロリ」「凸凹」パターンに加え、生命財産がギリギリで生きていく状態が継続する「寝たきり」パターンの3つが挙げられます。

人生100年時代、「死ねない日本人」が直面する“長生きのリスク”

健康を「資産としてマネジメントする」という視点

健康を損なうと仲間と遊ぶこともできませんし、医療費がかかるばかりか、充分に働けず、収入も失うケースも珍しくはありません。健康が、皆さんにとって重要な財産であることは言うまでもないでしょう。

ですから、「生命財産を守るか、失われるがままにするのか」という判断を、「財産が失われる前」に下し、行動を起こしていくこと。それが「人生100年時代」に求められることなのです。老後の貯蓄に力を入れる方は、同じくらいの気持ちで、生命財産をいただいても良いのではないかと考えています。

とはいえ、「早いうちから健康管理をしよう」と思ったとしても実際に行動を起こせるかどうかは話が別です。生活に制限がかかる印象が大きく、嫌になってしまうことも多いかと思います。そこで健康管理を、「我慢して行う」のはなく、「失われそうな財産を取りに行く」という前向きな視点で、アプローチしているのが重要だと考え、2016年に私が設立したのが「行動変容外来」です。

行動変容外来では、「そもそもなぜ健康を保ちたいのか」という目的意識を患者さんと目線合わせした上で、健康を維持する上でその人にとって重要な因子を特定し、アプローチを考えていきます。
健康でい続けたい理由は、長生きなのか。脳卒中や心筋梗塞にならないためか。寝たきり予防か、あるいはルックスを維持するためなのか――。人生の優先順位が異なる以上、その目的も人それぞれです。その目的に立ちかえって考えると、健康を保つうえで重要な因子が、健康診断で測るような検査値である場合もあれば、運動や食事などの生活習慣である場合もありますし、ときには人間関係や生きがいなどの一見「医療とは遠いことがら」であることも珍しくありません。大切なのは、「その人にとって」、健康を保つために最重要の事柄が何なのかを明確にすることであり、それにのっとったサポートを行うことが、この外来には求められていると感じています。

今回のまとめにはなりますが、行動変容を起すために大切なのは、次の3つです。そのポイントについても次回以降お伝えしていきたいと思います。

【今回のポイント】
1. 生命財産を守るか、失われるままにするのかを決める。
2. 健康を保つ目的を決める。
3. 健康を保つための優先事項を決める。

※ 秋山弘子「長寿時代の科学と社会の構想『科学』」岩波書店,2010年

1958年生まれ。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。2019年には寝たきりのリスクを減らす新型人間ドック「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせた。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。主な研究分野は、慢性腎臓病の進展制御と合併症研究、Ca制御機構に関する研究、血管石灰化研究、生活習慣病行動変容。2021年から東京慈恵会医科大学 大学院 健康科学教授。

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