「精一杯生きた!」親や自分がそう思えるには、認知症の正しい理解&正確な診断が最初のステップ

  • 作成:2021/10/13

認知症は、高齢になって起こることが多い病気ですが、高齢期は、人生の終盤に向かってまとめを作る時期でもあります。本人や家族は、今までの長い人生の最終段階で認知症に向き合うことになり、戸惑いがたくさんあると思います。人生を「良い人生だった、精一杯生ききった」と思って過ごすためには、認知症との付き合い方を理解することが重要です。この記事では認知症についての知識や対処法についてお伝えしていきます。

この記事の目安時間は3分です

「精一杯生きた!」親や自分がそう思えるには、認知症の正しい理解&正確な診断が最初のステップ

高齢者の5人に1人は認知症。だれもが身近に関係する。

日本では高齢化に伴って認知症患者の数が増えています。厚生労働省の調査(※1)によると、2020年の日本の認知症患者は約600万人で、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症と考えられます。認知症は、高齢化が著しい日本においては、だれもが身近に関係することのある、解決すべき大きな社会課題の一つです。
認知症の定義は、「何らかの脳の障害によって一旦は正常に発達した脳機能が低下することで、日常生活に支障をきたすようになった状態」と言われています。認知症は様々な病気が原因となって生じますが、いずれにしても、脳機能の低下により一人で自立して生活することが難しいという状態であれば、おおむね認知症と考えて差し支えないと思います。

※1「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)

老化の物忘れと、認知症による記憶障害の違い

認知症といえば、「物忘れ」がイメージしやすいかもしれません。この物忘れは、認知症の中でも一番多いアルツハイマー型認知症の特徴です。アルツハイマー型認知症の物忘れは、「短期記憶障害」と言われています。例えば、食事の内容をうっかり忘れてしまうという老化に伴うような物忘れとは違い、食事をとったこと自体をまるごと忘れてしまうというエピソード記憶の障害を示します。逆に、古いこと、昔のことは、比較的よく覚えているというのも特徴です。
記憶障害のほかにも、日付や場所がわからなくなる「見当識障害」、ものごとの類推や計画が難しくなる「実行機能障害」なども比較的頻度の高い症状です。

アルツハイマー型認知症以外にも、認知症には様々な種類があります。集中力や注意力の低下、視覚認知障害、幻覚といった特徴を示す「レビー小体型認知症」や、脳卒中後に、まだらな認知機能障害を生じる「血管性認知症」などは、比較的多く見られます。

多くの認知症は、ゆっくりと進行して、重度になってくると「運動機能障害」が出現してきます。段々と足腰が弱くなって転びやすくなったり、食べ物を飲み込む力(嚥下)が弱くなって食べ物を詰まらせたり、むせやすくなったりします。そうなると食事、移動、着替え、入浴、排泄といった日常生活動作に支援が必要になってくるのです。

認知症の原因疾患を特定し、生活環境や支援計画を整える

認知症の患者さんの中には、一人で歩き回る(徘徊)、怒りやすくなる、物を取られたと訴える、夜眠れないといった、周囲の人が困ってしまう症状が出現することがあります。こうした症状の背景には、認知症患者さん特有の認知機能障害のほかに、生活上のストレスや、高齢者によくある体の不調などが影響していることがあります。

認知症との付き合いのスタートは、認知症と診断されることから始まります。認知症の原因疾患を特定することを、認知症の鑑別と言います。認知症の鑑別は、認知症を専門とする精神科医、脳神経内科医、脳外科医などによる丁寧な診察と、頭部MRI検査(※2)や核医学検査(※3)を組み合わせて行われます。
認知症の中には、治るタイプもあります。認知症の鑑別診断を行うことで、今後の経過の予測が立ち、認知症との付き合い方が理解しやすくなります。鑑別診断をもとに、その人の認知症に合った薬物療法を開始できるだけでなく、生活環境の整備や支援の計画を立てることにもつながります。

認知症との付き合いは、診断や治療といった医療的なことだけでは済みません。本人や家族にとって大事にすべき点を軸に、実際の日々の暮らし方、お金の対応、人生の視点といった社会的、経済的、心理的な内容なども知っておくことも大切なのです。

※2 強い磁場を発生させ、体の内部を写して画像化する検査。
※3 特定の組織や臓器に集まりやすい性質のある放射性医薬品を使い、そこから放出される放射線をガンマカメラで画像化し体内の様子を見る検査。アイソトープ検査、R I検査とも言う。

まとめ

①高齢化が著しい日本では、認知症が増えている。
②認知症の原因疾患を突き止めることを、認知症の鑑別という。
③認知症を鑑別することは、認知症との付き合いの最初のステップとなる。
④認知症との付き合いには、医療的なことだけでなく、社会的なことも重要である。

千葉 悠平

精神科医、医学博士、精神保健指定医

日本精神神経学会専門医、指導医。日本認知症学会専門医、指導医。積愛会横浜舞岡病院 医師。「YUAD」代表。認知症の早期診断、画像診断、バイオマーカーなど、認知症について総合的に臨床・研究を行っている。

病気・症状名から記事を探す

その他
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師