認知症の予兆を見落とさないために。専門医に聞く「注意すべき変化」

  • 作成:2024/02/23

高齢者の6人に1人がなると言われる認知症。いまだ根治できる治療法はないため、早期に発見して進行を遅らせるための対策を行うことが重要です。一方、誰しももの忘れをすることはあり、本当に認知症なのかの判断が難しく、受診が遅れるケースも少なくありません。 今回は、認知症診療の第一人者であり、最先端の医療で認知症の予防・検査・治療に取り組む新井平伊先生(アルツクリニック東京・院長)に取材し、認知症の予兆や受診すべきタイミング、最新の検査技術についてお伺いしました。

新井 平伊 監修
アルツクリニック東京 院長
新井 平伊 先生

この記事の目安時間は6分です

認知症は早期発見が重要と聞きますが、どのような症状があった時に受診すればよいでしょうか? もの忘れをすることは誰にでもありますし、本当に認知症なのかどうか自信が持てないこともあると思います。

新井先生

新井先生

認知症かどうか確信が持てなくても、もの忘れに関する違和感を少しでも抱いた段階で専門医に相談してみるのがよいと思います。

まず知っておいてもらいたいのが、人の認知機能の状態は「健康な状態」と「認知症」の2つだけに分かれるわけではないということです。認知機能の状態は「健康な状態」からはじまり、悪化するごとに「主観的認知機能低下(SCD)」、「軽度認知障害(MCI)」、そして「認知症」という段階へ進んでいきます。認知症になる前のSCDやMCIの段階でみつけられれば、対策としてできることの幅が広がります。

これまでは「早期に発見して治療を始めること」が重要とされてきた認知症ですが、現在は「認知症になる可能性を早期に予見して予防を始めること」が重視されるようになってきています。

認知症の予兆を見落とさないために。専門医に聞く「注意すべき変化」

認知機能の段階

主観的認知機能低下(SCD)
もの忘れなどの違和感を自分自身だけが抱いているものの、認知機能を確認する検査を受けても異常がみられない状態。仕事や日常生活に支障はない。

軽度認知障害(MCI)
もの忘れなどの違和感を自分自身や周囲の人が抱いており、認知機能を確認する検査を受けると軽度の異常がみられる状態。仕事や日常生活に支障はない。

認知症
もの忘れなどの違和感を自分自身や周囲の人が明らかに気づいており、認知機能を確認する検査を受けると異常がみられる状態。仕事や日常生活に支障も出ている。症状が進行すると、本人が自覚できないこともある。

SCDやMCIの段階で気づくためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?

新井先生

新井先生

認知機能が低下したときに感じる違和感は、その人の仕事や年齢、性別などによって全く異なります。そのため、よく紹介されるチェックリストなどと照らし合わせるよりも、過去の自分と比べた時の変化に気づくことが大切です。

ポイントは「頻度」と「程度」と「広がり」です。

頻度
「もともと人の名前を忘れることはあったが、出てこなくなる回数が増えた」など

程度
「もともと人の名前を忘れる程度のことはあったが、重要な会議も忘れるようになった」など

広がり
「もともともの忘れをすることはあったが、加えて言葉が出にくくなったり、趣味だったことをしなくなるなどの変化も出てきた」など

過去の自分と比べた時の変化に気づくことが大切ということですが、年をとると、誰もがもの忘れをするようになると思います。病的なもの忘れと老化によるもの忘れに違いはありますか?

新井先生

新井先生

認知症の段階まで進めば、食事したこと自体を忘れて「まだ食べていない」というような症状になるので、病的とわかります。しかし、SCDやMCIの段階では、性格や環境によってもの忘れの出方は異なりますので、区別は難しいです。

例えばコロナ禍の時、微熱があって自身でだるいと感じていても、診察だけでそれがコロナか、インフルエンザか、他の病気かという鑑別は難しかったと思います。SCDやMCIも同じです。

SCDやMCIの段階でのもの忘れの原因は、ただの老化であったり、寝不足で一時的に認知機能が落ちているだけという可能性もありますが、もちろんアルツハイマー型認知症の前段階ということもあります。検査をしてみないと本当の原因はわかりませんので、以前との違いを感じたならば、まずは専門医に相談をすることをおすすめします。

専門医を受診すると、どのような検査を行うのでしょうか?

新井先生

新井先生

認知機能の状態をみるために、まずは病歴と現在の症状を確認し、身体疾患の除外のための血液生化学検査などに加えて、「心理検査」「画像検査」を行います。

心理検査では、認知機能を確認するいくつかの質問に対して、紙と鉛筆を使って回答し、その点数で認知機能を評価します。
画像検査では、MRIなどの機械を使って実際に脳を撮影し、脳の形や状態を確認します。

一般的な心理検査と画像検査では、4つの段階(健康な状態、SCD、MCI、認知症)のうち、MCI以降で異常を確認することができます。

最近では「アミロイドPET」という新しい画像検査の方法も出てきました。できる病院は限られますが、アミロイドPETを用いると、認知症の原因として最も多いアルツハイマー病の原因物質(アミロイドβ)が脳にたまっているかどうかを確認することができます。このアミロイドβは、認知症を発症する20年以上前から蓄積がはじまっていることがわかっています。そのため、MCIより前の段階でも確認することができます。

検査で異常が見つかった場合、どのような対策を行っていくのでしょうか?

新井先生

新井先生

SCDやMCIの段階なら、薬を使わない方法で認知機能を改善したり、認知機能低下を食い止めたりすることができる場合があります。例えば、運動、ゲーム、食生活の改善、禁酒・禁煙などを行います。認知症の段階だと、生活習慣の改善は基本として、薬を使って進行を食い止める治療を行うことが多いです。

検査をして自分の本当の状態を知ることで、何をすべきかもわかります。検査は結果を得て終わりなのではなく、結果を得てからがスタートです。

1984年順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年よりアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。日本老年精神医学会前理事長。1999年、日本初の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。

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