家族が認知症と診断されたら-やっておくこと/接し方/注意点
- 作成:2024/01/25
認知症は、家族の生活に大きな影響を与えます。ご家族が、認知症や軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下MCI)と診断された場合、どのようなことを行えばいいのでしょうか。 本記事ではMCIのうちにやっておくことや、MCIおよび認知症患者さんへの接し方などを、筆者の体験を交えてご紹介します。
この記事の目安時間は6分です
MCIとわかったら
MCIは、早期に適切な対策を講じることで、症状の進行を遅らせたり、緩和できたりする可能性があります。以下は、有効とされる対策の例です1)2)。
MCIの症状緩和・進行抑制の対策例
このほか、料理をすることもよいといわれています。料理は、メニューの構成、材料の購入、段取りなど、頭の中で組み立てる作業も必要になるからです。
また、MCIと診断された場合、認知症へ進行することも考え、その先の方策を練っておくことも、患者さん、家族(介護者)双方にとって大切です。
認知症や認知機能について
気になることを医師に聞いてみませんか?
認知症への進行を見越した方策
■ 資産管理
まだ、認知機能低下がそこまで進行しておらず、判断能力がしっかりしているうちに遺言状の作成などを家族で協議する。家族がいない場合は成年後見人※を選択することを早めに検討する。
※家庭裁判所が本人や家族の求めに応じて選任するもので、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職に資産管理を依頼できる。
筆者の場合、母がまだ判断能力に大きな問題がなく、自筆で意思表示を記せるMCIのうちに、寝たきりになった時にどのような医療を受けたいのかを含め、遺言状を作成しました。
■ 自宅のリフォームなど
転倒による骨折を機に、急激に認知症が進むことが多いので、転倒防止のために手すりをつけたり、バリアフリー化を行ったりする。徘徊防止のため鍵を高いところにつけるなど。
筆者は、母がベッドから転落して骨折した翌日、すぐに手すりをつけました。
手すりは介護保険を利用することで月額180円程度でレンタルできました。ケアマネジャーから紹介された、福祉用具・介護用品・住宅改修の事業者からレンタルしたのですが、同事業者では、手すりばかりでなく、車椅子やスロープ、介護ベッドなどのレンタルのほか、介護に伴う改修もしてくれます。何かレンタルしたい場合、家を改修したい場合には、まず、担当のケアマネジャーに相談することをおすすめします。
■ 危険なものの排除
石油ストーブからエアコンなど火のない暖房器具へ変更する。コンロは数分でガスが止まるものを導入なするなど。
筆者は、母が消えたばかりの石油ストーブの天板に手をつけ、火傷したことをきっかけに、家から火の出るものを排除しました。また、台所のガスコンロも、使わないように言っても使ってしまうので、時間が経つと自動消化するものに変更しました。
認知症の患者さんへの接し方
MCIのうちは、それほど他者に向けて不快な気分にさせる言動はないものです。しかし、認知症に進行してくると、普通では理解できないことをしたり、何度も同じことを言ったり、暴言を吐いたりと、一緒に暮らしていると家族がイライラすることも多くなるかもしれません。介護はいつ終わるとも言えませんから、疲れきってしまう前に、ケアマネジャーに相談して、デイサービスや宿泊サービスなどを利用するのもよいでしょう。
筆者も最初は母を叱ってばかりいました。しかし、叱ることにも疲れ、ストレスも溜まるので、ある時から、叱る前に母がやってしまいそうなことに備えるようにしました。
たとえば、母は不安神経症の傾向もあるため、気になったらコンセントをすべて抜いていました。そのたびに「抜いてはダメ」と言っていましたが、どうしてもコンセントを抜かれたくない仕事部屋には、鍵をつけました。これで私も母も多少のストレスの軽減ができました。
認知症や認知機能について
気になることを医師に聞いてみませんか?
認知症患者で気をつけたいケガのこと
認知症患者で気をつけたいものの一つに「ケガ」があります。認知機能低下のため、廊下の段差などへの注意が散漫になりやすく、転倒して頭部打撲や大腿骨骨折を引き起こしやすくなります。これらの外傷は、認知症を加速度的に進行させてしまったり、身体機能を急激に落としてしまったりする要因になってしまいます。
認知症患者の場合、どこで、どのようにケガをしたのかを覚えていないことが多く、症状をうまく伝えることもできないため、傷とは違うところが痛いと言うこともあります。また、痛みに鈍感であることもたびたびあり、骨折に長らく本人や周囲も気づかないことがあります。あるベテランのケアマネジャーは、「大腿骨が骨折していても歩けていることもあった」と言っていました。
筆者の母も、足の小指の基節骨を骨折した際、普通に歩けており、頑なに受診を拒否したため、骨折がわかるまでに1週間かかりました。医師からは「若い人なら痛くて歩けない」と言われました。病院への行き渋りも、認知症の方には多いようです。
認知症の介護にあたられている方へ
認知症のタイプは人それぞれです。怒りっぽくなる人もいれば、徘徊が目立つ人も、無気力になる人もいます。その人なりに、きっと何か理由があるのでしょう。しかし、残念ながらそれを正確に推しはかることはとても難しいと思います。
以前は、私も「どうして? 何でわからないの?」と考える毎日を送っていました。それはきっと、自分の中の親としてのあの毅然とした姿を忘れられないからだと思います。しかし、私も通院を共にする中で、穏やかで幸せそうならそれでいい、とやっと思えるようになりました。そう思えるようになるまで10年もの月日がかかってしまいました。
最後に、介護は一人では限界があります。どこまで続くかわからない道でもあります。誰かを頼ることも時には必要だということを忘れないでいただければと思います。まずは、地域の相談窓口に行き、担当のケアマネジャーを紹介していただくことも大切です。
1) 精神科・内科油山病院
2) Midtown Clinic
おすすめコンテンツ
2003年福井大学医学部卒。福井大学神経科精神科助教を経て、2013年国立精神・神経医療研究センター 思春期精神保健研究室長。2023年より仁恵病院副院長。現在、主に精神科救急医療に従事。専門は児童精神医学。児童のメンタルヘルス向上を目的とした「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」、「児童思春期の精神疾患薬物療法ガイドライン作成」に責任者として携わった。日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医、日本臨床精神神経薬理学会専門医、日本医師会認定産業医、医学博士。
関連するQ&A
関連する記事
このトピック・症状に関連する、実際の医師相談事例はこちら
病気・症状名から記事を探す
- あ行
- か行
- さ行
-
- 災害
- 再放送
- 子宮外妊娠
- 子宮筋腫
- 子宮頸がん
- 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん
- 子宮頸がん検診・検査
- 子宮頸がんの症状
- 子宮頸がんのリスク・予防
- 子宮内膜症
- 脂肪肝
- 手術
- 出産後の症状・悩み
- 出産準備・入院
- 食事・授乳・ミルク
- 食欲
- 心臓病
- 自閉症
- 女性
- 自律神経失調症
- 腎炎・腎盂炎
- じんましん(蕁麻疹)
- 膵臓がん
- 睡眠
- 髄膜炎
- 頭痛薬、副作用
- 性器の異常・痛み
- 性器ヘルペス
- 性交痛
- 成長(身長・体重など)
- 性病検査
- 性欲
- 生理痛(生理・月経の痛み)
- 生理と薬(ピルなど)
- 生理不順・遅れ(月経不順)
- 摂食障害
- 切迫早産
- 切迫流産
- セミナー・動画
- 前立腺
- その他
- その他アルコール・薬物依存の悩み
- その他胃の症状・悩み
- その他うつの病気・症状
- その他エイズ・HIVの悩み
- その他肝臓の病気
- その他外傷・怪我・やけどの悩み
- その他心の病気の悩み
- その他子宮頸がんの悩み
- その他子宮体がんの悩み
- その他子宮の病気・症状
- その他出産に関する悩み
- その他腫瘍の悩み
- その他消化器の症状・悩み
- その他腎臓の病気・症状
- その他生理の悩み・症状
- その他臓器の病気・症状
- その他皮膚の病気・症状
- その他卵巣がんの悩み
- その他卵巣の病気
- その他流産の症状・悩み
- た行
- な行
- は行
- ま行
- や行
- ら行
協力医師紹介
アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。
記事・セミナーの協力医師
-
白月 遼 先生
患者目線のクリニック
-
森戸 やすみ 先生
どうかん山こどもクリニック
-
法村 尚子 先生
高松赤十字病院
-
横山 啓太郎 先生
慈恵医大晴海トリトンクリニック
-
堤 多可弘 先生
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷
-
平野井 啓一 先生
株式会社メディカル・マジック・ジャパン、平野井労働衛生コンサルタント事務所
Q&Aの協力医師
内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。