【治療】認知症や軽度認知障害(MCI)を進行させないために
- 作成:2024/01/25
本記事では、認知症や軽度認知障害(MCI)に対して、どのような治療選択肢があるかについてご紹介します。
この記事の目安時間は6分です
目次
認知症の治療
現在、認知症そのものを根治できる治療はありません。そのため、進行を遅らせたり症状をやわらげたりすることを目的とした治療を行います。一度失われた脳の機能を取りもどすことは難しいので、できるかぎり早く治療を始めることが望まれます。認知症には薬を使う治療と薬を使わない治療があり、2つを組み合わせて治療を行っていきます。
認知症や認知機能について
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薬を使う治療
認知症の種類によって使う薬は異なります。ここでは、認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症の治療に使用する薬をご紹介します。
■コリンエステラーゼ阻害薬1)
脳内の情報伝達に重要なアセチルコリンという物質の量を増やす薬です。日本では、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンという3つの薬が承認されています。いずれも認知機能を改善することがわかっていますが、この3つの薬の間に明らかな効果の差はないとされています。
主な副作用として、吐き気、下痢などがあります。
比較的軽い症状(軽度から中等度)の患者さんに処方されますが、ドネペジルは量を増やすことで重い症状の患者さんにも処方されることがあります。
■NMDA受容体拮抗薬1)
脳神経にダメージを与えるグルタミン酸という物質の働きを抑える薬です。日本では、メマンチンという薬が承認されています。比較的重い症状(中等度から重度)の患者さんの認知機能を改善することがわかっていますが、軽い症状(軽度から中等度)の患者さんには効果がないとされています。
主な副作用として、眠気、めまい、便秘、頭痛などがあります。
■抗アミロイドβ抗体薬2)
アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβという物質を脳から取り除く薬です。日本では、レカネマブという薬が承認されており、まだ発病初期の軽い症状の患者さんの認知機能を改善することがわかっています。また、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)にも効果があります。
主な副作用として、発熱、呼吸困難、アレルギー反応などがあります。脳のむくみや出血などの報告もあります。
特殊な検査(アミロイドPET、脳脊髄液検査など)によって、脳にアミロイドβが確認できた場合のみ使用できます。
薬を使わない治療
薬を使わない治療では、主に、精神的なストレスによって起こる行動・心理症状(BPSD)の改善も目指します。
■認知機能訓練1)
記憶や問題解決など、認知機能の特定の領域について、個人のレベルに合わせた課題を行います。
■運動療法1)
有酸素運動、筋力強化、平衡感覚訓練などの運動を組み合わせたプログラムを行います。
■音楽療法1)
音楽を聴く、歌う、楽器の演奏、リズム運動などを組み合わせたプログラムを行います。
■回想法1)
過去の人生の振り返りについて、聞き手が受け入れながら聞いてあげることで心を支えます。
■認知行動療法1)
精神状態が不安定な時に歪みがちな認知を修正することでストレスの軽減を図ります。
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軽度認知障害(MCI)の治療
認知症のように日常生活には大きな支障をきたさないものの、認知機能に問題がある状態のことを軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)といいます。
MCIの治療としては、有酸素運動や筋力トレーニング、ゲーム、旅行など、様々なものがあげられます3)。
アルツハイマー病に起因するMCIの場合は、認知症と同様に薬物治療を行うこともあります4)。最近ではアルツハイマー病によるMCIに適応を持つ新薬も登場しました。
また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病があると、認知症に進行するリスクが高まります1)。これらの基礎疾患がある人は、まずは生活習慣を整え、基礎疾患の治療をしっかり行うことが大切です。
1) 日本神経学会監修 「認知症疾患診療ガイドライン2017」
2) レケンビ点滴静注 電子添文(第1版)
3) 繁田雅弘監修 「安心な認知症 マンガとQ&Aで、本人も家族も幸せになれる!」 主婦と生活社, 2021
4) 繁田雅弘 「現在使用されている抗認知症薬の課題─臨床実践の視点から─」 老年精神医学雑誌31: 73-77, 2020
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東京慈恵会医科大学精神医学講座教授。日本認知症ケア学会理事長。神奈川県平塚市にある実家を拠点に、地域住民と一緒に認知症の啓発活動などをおこなう「SHIGETA ハウスプロジェクト」を主催。主な著書、監修書に『認知症の精神療法 アルツハイマー型認知症の人との対話』(HOUSE出版)、『安心な認知症 マンガとQ&A で、本人も家族も幸せになれる!』(主婦と生活社)、『気持ちが楽になる 認知症の家族との暮らし方』(池田書店)などがある。
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