夜泣きが親や子どもに与える影響は? 医学的に実証された「消去法」の寝かしつけを医師が解説
- 作成:2021/11/14
AskDoctorsでは、子どもの病気やケアで親が悩みがちなポイントについて、小児科医の森戸やすみ先生に解説いただいています。連載第4回のテーマは「子どもの夜泣き、寝かしつけ」。子どもにはどのくらい睡眠が必要なのか、睡眠が足りないとどんな影響があるのか、そして科学的に実証された寝かしつけ方法について、じっくり教えていただきました。
この記事の目安時間は3分です

子どもが寝ないのは、あなたのせいではない
子どもが夜に、なかなか寝てくれないと困る親御さんは多いですね。
生まれてすぐの新生児期の1日は、眠っているか母乳・ミルクを飲んでいるかのどちらかであることがほとんどで、あまり苦労することはないかもしれません。夜泣きや夜間覚醒は生後6~8ヶ月がピークで、3歳までに収束するという調査もあります。
「赤ちゃん 寝ない」で検索するととても多くの人が困っていることがわかりますし、育児相談・育児雑誌、Webの記事などでも「どうしたら赤ちゃんが寝てくれるか」というのは、常に話題です。ということは、今この記事を読んでくれている「我が子が寝てくれなくて苦労している」という人も、あなた自身のやり方が悪かったり、あなたに原因があったりするというよりは、子どもについての普遍的な困りごとだということでしょう。
あなたのせいではないと考えられると少し楽になりませんか?
現在は、専業主婦世帯に比べて共働き世帯が2倍以上多いので、両親ともに仕事で忙しいです。日本は今でも女性の方が子育てに時間を取られ、家事にかける時間も女性の方が多いので「早く眠ってくれたらいいのに」と焦りながら、子どもの背中をトントンするお母さんがいるでしょう。
子どもの寝かしつけに時間がかからなければ、自分の時間を作ることができ、自分の睡眠時間も確保できます。近年、出産した女性の10人に1人が「産後うつ」を経験することが知られてきました。周産期女性の自殺率の高さも問題になっています。厚生労働省の研究班によると、妊産婦の死因は自殺が最多で、2年間で102人にのぼるそうです(※)。自分の時間が取れ、睡眠時間が十分になれば、メンタルヘルスは確実に改善するでしょう。
※…周産期関連の医療データベースのリンケージの研究(厚生労働科学研究費補助金・臨床研究等ICT基盤構築研究事業)国立成育医療研究センター
22時までに寝ないと成長ホルモンが出ない? 医学的な見解は――
自分が辛いばかりでなく、子どもが寝ないでいると大変なことになってしまうのではないか? と心配な気持ちになるものです。書き出さなくてもいいので、なぜ心配になるのかを考えてみましょう。例えば、こんなことではありませんか?
(1)明日、機嫌が悪くなり保育園に連れて行くのに困ってしまう。
(2)ゴールデンタイムに眠っていないと成長ホルモンが出ないという話を聞いたことがある。
(3)眠らないと肥満になるらしい。
(4)風邪を引きやすいのは私がうまく寝かせられないせい?
(5)キレる子になるかもしれない。
このうち(1)についてですが、子どもは1日トータルで十分に睡眠が取れていればいいのです。夜に短くしか眠れなかったら、きっとお昼寝をたくさんするだろうと考えて、気を楽に持ってください。(2)ゴールデンタイム、つまり夜の10時から午前2時までに眠っていないと、成長ホルモンが出ないという説がありますが、実は誤解です。成長ホルモンはいつ眠っても出ます。睡眠のゴールデンタイムというものはないのです。
(3)睡眠不足だと、生活習慣病になりやすかったり、問題行動が起こりやすかったりするというのは本当です。明るい時間は起きていて、暗くなると眠るという「概日リズム」は大事なので、毎日ほぼ同じ時間に起きて寝られるようにしましょう。
(4)子どもが夜になかなか寝てくれないと、病気になりやすいということはありません。年齢にもよりますが、夜と昼寝をあわせて1日で10~12時間眠れているといいですね。2時間も昼寝してしまったら、夜にそんなに長く眠れないでしょう。そして、親御さんのせいではなく、子どもはしょっちゅう風邪をひくものです。保育園の通い始めや子ども同士の接触で繰り返し風邪を引くのはウイルスのせいで、しかたのないことです。
(5)「キレる子になる」というのは、問題行動のことだと思いますが、これもだいたい規則正しい生活で、1日トータルで睡眠時間を取れていれば大丈夫です。
「寝ないと親が近くにいてくれる」の誤った学習を取り除く
多くの保護者が、子どもが泣いたらすぐに授乳や抱っこをしたり、寝付くまでそばに居てあげたりすると思います。日本を含むアジアでは、大人と子どもが添い寝をするのが一般的ですね。でも、子どもの側から見るとそれは、「眠らなければお母さんやお父さんは近くにいてくれる」とか、「眠りにつくのは1人ではできない」ということを覚えてしまうきっかけになっているのかもしれません。誤った学習です。
欧米では生まれて数日から、親子は別の部屋で夜間を過ごします。それは、子どもが1人で眠ることを学習するのに合理的なのかもしれません。
「消去法」という寝かしつけ法があります。眠らなければ親がいてくれるという誤ったご褒美を取り除き、子ども自身が落ち着いて眠るスキルを育てる方法です。
親が子どもを決まった時間に布団に寝かせたら、朝まであまり手を出さないようにします。具体的には、夜泣きをしてもすぐに授乳、すぐに抱っこ、眠るまであやすということをなるべくしないようにします。
子どもを布団に入れたら、家事をしながら時々様子を見る
翌朝の決めた時刻まで一切対応しない、泣いたりかんしゃくを起こしたりしたら、決めた時間(5〜15 分程度)だけ待って、それでも治まらない場合に様子を見に行く、親が同室するけれど対応しないようにするなど、色々な方法があります。お子さんの様子を見ながら、できそうなやり方を試してみてはどうでしょうか。
保護者が一緒に横になって隣にいたら難しいですから、子どもを布団に入れたら、保護者は残った家事などをしながら時々様子を見るというのが現実的かもしれません。これは以前から提唱されていた方法ですが、システマティックレビュー(多くの研究論文をもとに偏りをなくして分析したもの)やメタアナリシス(複数の研究結果をもとにデータ解析したもの)で効果が確かめられています。
眠りにつくまでの時間、夜間に起きる回数、夜間に起きている時間、睡眠効率(横になっている時間のうち、どのくらい眠っているか)が改善するという結果でした。
日本とイギリス、フランスで子育てをした薗部容子さんの著書『まず、ママが幸せに』(日本機関紙出版センター)には、薗部さんがそのような寝かしつけ方をしていた経験が書いてあります。申し訳なさそうに「独りで寝かせてごめんなさい」と言って寝室のドアを締めるのではなく、笑顔で「おやすみ」と言って寝かせるそう。眠る前のママの顔が悲しそうだと子どもは不安になるかもしれませんからね。ぜひ、試してみてください。
1971年、東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内のどうかん山こどもクリニックに勤務。『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)、『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』(内外出版社)など著書多数。二児の母。
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