医師に聞く「コロナ収束傾向の今こそ、しなければならないこと」

  • 作成:2021/12/16

新型コロナウイルスの「第6波」に備え、政府は公立・公的病院の専用病床化、病床使用率の向上などで新たな病床を確保。「第5波」の3割増の3・7万人が確実に入院できる体制を11月末までにつくるとしました。3回目のワクチン接種も12月から始め、経口治療薬の年内実用化をめざす、としています。しかし、楽観できないのが新型コロナ。国内の感染者は激減していますが、オランダやドイツでは感染が再拡大し、変異株「オミクロン株」が日本にも上陸しました。「第1波」が始まった昨年4月から、在宅でのコロナ感染の最前線に立ってきた、東京都新宿区の訪問診療医、英裕雄先生(新宿ヒロクリニック院長)に、第5波から学んだことと、第6波への「備え」を聞きます。(3回連載の第3回)

この記事の目安時間は3分です

医師に聞く「コロナ収束傾向の今こそ、しなければならないこと」

感染者数が減少に転じた今こそすべきこと

地域の感染対策はこれからが正念場になる、とおっしゃっていましたね。

幸いなことに、もうコロナはなくなっちゃうんじゃないかというほど感染者は減っているわけですが、そうした時期だからこそ、どんな波が来ても市民の社会生活が脅かされない体制をつくっていくことが何より大切だと思っています。もしかしたら使われることはないかもしれないけれど、そうした体制があることが、市民の社会生活を円滑にするためには必要かなと。今やワクチンもあって、まだまだ治療薬は使いにくいけれど、今後、内服薬も少しずつ用意されるという段階にきているので、適切な医療体制に結び付けていく体制づくりを、今こそしていかないといけないと思います。

オンライン診療も行いましたね。やってみて、いかがでしたか?

オンラインの診療はとりあえずとしては必要だし、濃密にできる部分もあると思いました。対面診療はオンライン診療よりもはるかに情報量が多いとよくいわれていますが、こと感染症に関していうと、PPEをつけていると聴診もままならない。むしろ、オンライン診療の方が時間をかけられたりするし、状況がわかる場合もあります。オンラインと対面診療の組み合わせは、相手の容態や診療の内容によって変わってきます。感染症にとっては、オンライン診療はかなり有用だったと私は考えています。

今後、新型コロナはどうなっていくと思われますか?

予測はなかなかできません。まだ十分な体制ができているとは言えませんが、ワクチンが回って治療薬も出てきたので、あとは恐れず、きちんと普通に対応できる地域医療の体制ができればいいと思います。6波が来ないに越したことはないけれど、来ても大丈夫な体制をつくっておくことが大事です。今回の第5波はワクチン接種も始まったので、まさか、あれだけ大きな波が来るとは思わなかった。そういう意味では油断はできません。

新型コロナ感染が始まって、そろそろ2年近くになりますが、そのなかでご自分が変化した、と思うことはありますか? 

ある意味では、すべてが変わりましたね。自分の価値観も、人生観も職業観も。それまで大事にしてきたものと、いま、大事にしているものがずいぶん変わったように思います。もっと自分がやらなければいけないことをやりたいというか、もっと自分にわがままに生きようかな、という感じです。コロナ診療でいろんなドラマを見ましたが、そのことを通じて、10年くらいで出てくることが、たった1年でそこにたどりついたかなとも。

「政治に対してものを言わなきゃいけない」とも、SNSで書いていらっしゃいました。

オリンピック、パラリンピックと感染拡大の因果関係はわかりませんが、ちょうど感染拡大の時期と一致したことは否めません。選手や関係者の方々には申し訳ないのですが、日々、感染者の診療に当たっていると、どこかほかの世界の出来事だという感じがしていました。幸いなことに亡くなった方は少なかったけれど、多くの方々がコロナ感染で苦しみましたし、医療界もかなり振り回されました。そういう中で感じたのは、政治は現場をどう考えているのだろう、ということです。

行政からはさまざまな助成金をいただきましたが、実際には多くの陽性者の方々の対応では保険証確認さえままならず、診療報酬請求ができなかった事例が少なくありません。助成金申請のための手続きの煩雑さで、スタッフは一時は夜11時まで残業しているありさまでした。結局は区の医師会が看るに見かねて代行してくれましたが、助成金申請をあきらめた時期もありました。

酸素が枯渇しそうになったときは、せめてボンベだけでも確保しようと走り回り、業者と話をつけて保健所に泣きついたら、即座にボンベ確保をしてくれました。そのあとFBで知り合った区長に直接メッセンジャーしたところ、早期退院支援のためなどの患者移送手段の確保や緊急避難施設の設置などに、即座に前向きに動いてくださいました。

今回の第5波でわれわれ現場は、区政、そして区医師会の応援に本当に助けられました。そういう意味ではもっと、自治体や地域に権限移譲をしていくことが地域感染症対策、さらには地域包括ケアの進展につながるのではないかと思います。国政ももちろん大切ですが、現場を大事にする国政であってほしい、というのが僕の願いです。国政や都政に携わる方々に、ぜひ、ご一考いただければと思います。

聞き手・まとめ:中澤まゆみ(ノンフィクションライター)

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