昔の記憶が頭の中をぐるぐると回って辛い…精神科医は「コロナ禍以降、同様の悩みが増えている」

  • 作成:2022/06/01

AskDoctorsに寄せられたお悩みをマンガで紹介し、医師からの回答を紹介する本シリーズ。今回ご紹介するのは、過去の記憶がよみがえってきて疲れるというご相談です。

堤 多可弘 監修
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷  副院長/精神科医・産業医
堤 多可弘 先生

この記事の目安時間は3分です

昔の記憶が頭の中をぐるぐると回って辛い…精神科医は「コロナ禍以降、同様の悩みが増えている」

【今回のお悩み】
コロナ禍以降、完全在宅勤務になりました。最初の頃はやる気に満ち溢れていましたが、ここ半年くらい、大昔の記憶がぐるぐるとよみがえってきて憂鬱です。

今更どうしようもない幼少期の家庭の事情、小中高校時代の出来事、浪人した時のこと、大学時代の思い出、新卒で入った会社のこと、その間に登場する人物の細かいことまで無限によみがえってくるのです。過去のトラウマというわけではなく、辛いことも良いこともひっくるめて人生のドキュメンタリーをずっと見ているような状態です。とても疲れます。

私には5歳の息子と夫がいて、家庭は円満です。でも、頭の中では過去の人物のことでいっぱいで、目の前の仕事や家庭に目を向けられなくなっています。考えられる原因と、生活の中でできる改善方法などのアドバイスをいただけると幸いです。(40代・女性)

脳は退屈が嫌い

ご相談ありがとうございます。
これといった大きな悩みやストレスはない一方で、過去の記憶が無限によみがえってしまうということがお悩みなのですね。

最初にお断りしておくと、ここからお話しする内容は、比較的体調やメンタルが安定していることを前提としております。夜眠れないとか、落ち込みがひどいとか、辛くていてもたってもいられないという場合は、まずメンタルクリニックなどに相談をするようにしましょう。「そこまでではないな」という場合はぜひ読み進めてください。

このお悩みに対しては、「脳の性質」を知っておくといいかもしれません。

我々、人間の脳は「刺激」を求める傾向があります。
例えば、旅行やライブに行く、感動的な映画を見る、知らなかったことを知る。そんな刺激を脳は喜ぶ傾向があります。

これには日常的なちょっとした刺激・変化なども含まれ、会社の人とおしゃべりをする、通勤経路に新しいお店ができた、電車のつり革広告を見た、道端に花が咲いていた。そんなものでも脳は喜びます。
無意識にSNSやニュースサイトを次から次へと見たことはありませんか? あれも実は脳が刺激を求めている行為なのです。

ここまで説明したところで、相談者さんの今の状態を振り返ってみましょう。
半年前から在宅勤務をしていて、円満な家庭生活を送っている。非常に穏やかな日々である一方、強い刺激はもちろん、日常的な刺激・変化が乏しくなってはいませんか?

ほとんど景色の変わらない自宅の中、仕事と家事に追われて、変化というものを感じづらくなっていないでしょうか?

そうなると脳は退屈し始めます。

ここから先は仮説でしかないのですが、退屈した脳が過去の記憶から刺激を得ようとして、記憶を掘り返しているのかも知れません。

また刺激、もっと言うと適度なストレスがないと脳はサボりがちになることも知られています。在宅勤務で生活にメリハリがなくなると、相談者さんのように家庭や仕事のことが手につかなくなる方もいらっしゃいます。実際にコロナ禍以降で数多くの方が同様の悩みをお持ちでした。

簡単にまとめると、在宅勤務で刺激が減り、退屈した脳がうろうろとさまよってしまっている状態なのでしょう。

生活の中に、メリハリとスパイスを!

ここからは対策をお伝えしてきます。

今できることとしてはズバリ、

  • 生活にメリハリをつける
  • 意識的に刺激を得る

この2つです。

まず、メリハリの付け方は、こんなことを心掛けてください。

  • 起床時間や仕事の時間をしっかり決める
  • 仕事の前後は着替える
  • 朝必ず外に出て日光を浴びる
  • 勤務前や勤務後の運動を心がける
  • 仕事が終わったら仕事道具はきちんと片付ける

続いて、刺激を得ていくことについて。

このコロナ禍で旅行に行ったり、大勢で外食したり、ライブに行ったりなどは難しいかもしれません。そこで、日常で変えられるものを色々試してみましょう。大きな変化である必要はなく、ちょっとスパイスを加える程度でもOKです。

  • 自宅で映画を見る
  • オンラインで友人などと話す
  • 模様替えをする
  • ちょっとした趣味を探してみる

などなど。

普段より5センチ目線を上に向けて歩いてみる

その他に、最近では防災訓練代わりに家の中でキャンプのようなことをする人も増えています。いわゆる「おうちキャンプ」です。電気やガスコンロを使わずに防災グッズだけで生活してみたり、非常食を食べてみたり。そうした非日常はお子様も喜ぶので、ぜひやってみてください。

もっと簡単な方法として、外出時に普段より5センチだけ目線を上に向けて歩いてみてください。普段は目に止まらないものが入ってきて、ちょっとした刺激になります。

上記を2週間程度試してみてください。それでもなかなか改善しなかったり、ますます記憶がよみがえったり、その記憶が体の反応や心の辛さを引き起こしてしまうのであれば、早めに受診しましょう。

早くお悩みが良くなれば幸いです。

弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。 現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長とスタートアップへのアドバイザー業務を務めるとともに、企業や行政機関の産業医を10か所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。 共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医 」(祥伝社新書)がある。

note:  https://note.com/music_takahiro
Twitter:  https://twitter.com/djbboytt

症状や健康のお悩みについて
医師に直接相談できます

  • 24時間受付
  • 医師回答率99%以上

病気・症状名から記事を探す

その他
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師