【専門医に聞くVol.1】健康診断で「腎機能に不安」どう受け止める?

  • 作成:2000/12/07

初期段階ではほとんど自覚症状がない、慢性腎臓病(CKD)。健康診断で異常を指摘されてもそこから思うように数字が改善せず、不安に感じる方もいるようです。 そこでこの記事では、ASK Doctorsに寄せられたCKDにまつわる「よくある質問」を、腎臓内科専門医である長澤将先生(東北大学腎臓・高血圧内科 講師)からわかりやすく説明していただきました。第1回目は健康診断で腎臓に異常が見つかったときの受け止め方や治療方法、治療選択に関することまで分かりやすく伺いました。

長澤 将 監修
東北大学病院 腎臓・高血圧内科 講師
長澤 将 先生

この記事の目安時間は6分です

インタビュー企画Vol.1

健康診断で「腎機能に不安」どう受け止める?

健康診断で腎臓の機能を見る際は、どこの数値を重要視するとよろしいのでしょうか。

腎機能においては「eGFR」をみることが一番です。クレアチニン値から算出されるもので、この数値が30未満の場合は専門医に診てもらいましょう、1ヶ月以内が良いと思います30−44であれば2ヶ月以内、45−59であれば3ヶ月以内が良いと思います。

もしeGFRが算出されていないクリニックの場合は、現在のレベルの腎臓病について理解が乏しいので、セカンドオピニオンを行った方が良いと思います。腎機能を評価する上では、この数値を見ていないことはありえません。

その他のカリウム(K)、カルシウム(Ca),リン(P)、ヘモグロビン(Hb)などは腎不全の合併症の状態を見るときに観察します。薬剤の副作用などでも数値の変動が見られるので、もし異常があれば指導することもありますが、一般の方が腎機能を見るときはあまり気にせずで大丈夫でしょう。

AskDoctorsには、「健康診断で腎機能の数値が悪いものの、なかなか改善しない」という声も届いています。健康診断で腎機能が引っ掛かりがちな人はまず、何を確認すべきでしょうか?

慢性腎臓病(以下、CKD)の進行度を測る上で重要なのは、「eGFR」に加えて「尿タンパク」です。特に尿タンパクが出ている人と出ていない人では、治療の選択が異なります。腎機能がよく(GFR>60)かつ尿タンパクが出ていない場合は、進行速度が遅いことが考えられるため、ほとんど心配いらないですね。

ですが、尿タンパクが出ている場合は要注意です。尿タンパクの数値が高ければ高いほど腎臓が壊れている証拠と言われていますから。このようにまずは、尿タンパクが出ているのかどうかを確認しましょう。

尿タンパクが「出ているかどうか」が重要なのですね。たとえば「尿タンパクが出ていない人」はどのような治療をすべきでしょうか。

「尿タンパクが出ていない」けれど「eGFRに異常値がある」人ということですよね。その場合は、主治医に「なぜ自分のGFRが低くなっているのか」を確認するのが良いかと思います。加齢と共にeGFRはじわじわと低下していきます。そのために病的ではない事もいくらでもあります、そのため病的、つまり何か困ったことを起こすか?を聞いてみると良いですよね。

尿タンパクがないのであれば、基本的にはそこまで大きな心配はしなくても大丈夫です。多くの場合、血圧をコントロールして過ごしましょう」となると言えます。

「なぜ腎臓が悪くなっているのか」を主治医に確認することで、CKD以外の可能性も、確認できるということでしょうか。

そうですね、腎炎であれば進行はゆっくりとしているのですが、糖尿病などだと進行も早く、対処が必要な場合があります。「なぜ腎臓が悪くなっているのか」を深掘ることで、その後の治療方針などが変わってくるため、主治医に確認しておくと良いでしょう。

なるほど、腎臓の治療をしたほうが良いのか、糖尿病の治療をしたほうが良いのかなど、違いが出てくるわけですね。では次に「尿タンパクが出ている人」はどのような治療となりますか。

尿タンパクが出ている場合は、薬剤の選択が変わります。たとえば糖尿病の薬物療法では、尿タンパクが出ないよう調整していくわけですが、薬の量や種類などは、人によっても様々です。年齢や副作用によって選べない薬剤もあるので、そのあたりは細かな部分まで主治医がどのように診察しているのかが極めて重要ですね。

CKDの治療ガイドラインというものがあり、このガイドラインに沿って治療が行われているのかを確認すると良いかもしれません。ガイドラインには、尿タンパクが出ている人の目標血圧値や使うべき薬なども細かく掲載されています。

人の身体には個人差があるのでガイドラインの治療が全員に当てはまるわけではありませんが、主治医がどういった方針や判断の下で治療を行っていくのか聞いておくと、治療の納得度も上がるのではないかと思います。

中には「健康診断で毎年尿タンパク陽性となるが、精密検査では異常が見つからないことが多い」という内容も届いているのですが、これはいったいどうしてでしょうか。

尿検査で使う試験紙の問題かなと思います。試験紙の管理方法が悪かったり、試験紙の使い方を間違っていたりすると陽性が出やすいです。
陽性が出た場合は、精密検査で「クレアチニン値」や「尿タンパク定量」を検査してもらいましょう。その数値に異常がなければ、なにも心配はいりません。

健康診断で異常が出た場合、すぐに精密検査へ行くべきでしょうか?

健康診断の結果に異常があった場合、3ヶ月以内に医療機関へ行きましょう」と伝えています。検査にも鮮度があるため、」3ヶ月以上経つと古いデータになってしまいますとはいえ、仕事を無理に休んで行くことや大事な予定を潰してしまって行くほどでもないため、3ヶ月以内に医療機関を受診すると良いです。(症状があるときは話は別です。まずはかかりつけ医に相談しましょう。)

CKDのセカンドオピニオンについて

CKDの治療を提供する中で、説明時間を長く設けてくれる医師もいれば、そうではない医師もいるかと思います。自分の状態を詳細に知りたいと思ったときのセカンドオピニオン先は、患者自身が探すしかないのでしょうか?

少し前までは患者会というものがあり、同じ疾患をもっている方が集まって相談の窓口になっていたのですが、医学的な判断を要する内容についてはやはり、かかりつけ医から大きな病院へ紹介が一番なのではないかと思います。
地域毎に大きな病院があると思うので、もし街の小さなクリニックに通っていて、別の医師の意見を聞きたい時は、大きい病院へ紹介してもらいましょう。
セカンドオピニオンというと通常は保険がきかないので、本当に意見を聞きたいだけなのか?専門医に診察してもらいたいのか?を考えるのが良いと思います。

都内では徐々にオンライン診療なども普及してきていますが、CKDにおいてもオンライン診療は有効に活用できるのでしょうか?

腎機能をみるときは必ず血液検査を必要としますし、患者さんの診察は現在でも重要ですから、オンラインだけで治療を完結させるのは難しいかもしれません。
健康診断の結果の相談や、採血後の数値の相談、それこそセカンドオピニオンなどにも有効に使えるかもしれませんね。

まとめ

本記事では腎臓内科専門医であるから、健康診断で異常が見つかった際の考え方や治療の選択肢、セカンドオピニオンについてお話を頂きました。

ご自身の状況を整理したり、セカンドオピニオンを受けたりするときの参考になれば幸いです。

長澤将(ながさわ・たすく)先生

東北大学病院腎・高血圧・内分泌科講師

2003年東北大学医学部卒。研修を経て、Medical College of Wisconsinに留学し、医学博士取得。2012年より石巻赤十字病院腎臓内科部長。2018年より東北大学病院、2019年より現職。RPGNガイドライン2020、腎生検ガイドブック2020などに参加。10冊以上の腎臓内科・透析の著書がある。(『長澤先生、腎臓って結局どう診ればいいですか?』(羊土社)、『Dr.長澤の腎問答』(中外医学社)、『この局面にこの一手!Dr.長澤直伝!腎臓病 血液透析の定跡』(金芳堂)など)
総合内科専門医、腎臓専門医・指導医、透析専門医・指導医、日本医師会認定産業医、医学博士

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