胃がんの治療法選択の考え方と抗がん剤・放射線・分子標的薬での治療 進行度や転移状況で変化?

  • 作成:2016/07/06

胃がんの治療では、基本的に手術となりますが、手術を選択しない場合もあります。その場合、抗がん剤や放射線を使った治療になります。どのように治療方法を考えるのかや、分子標的薬による治療まで、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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胃がんに使う抗がん剤を知ろう
胃がんの治療概要
初期と末期など進行度や転移状況などで違う?
胃がんで使う抗がん剤 副作用、費用は?SOX療法とは?
胃がんの放射線治療 費用、メリット、デメリット
胃がんに分子標的薬がある?メリット、デメリットは?

胃がんの治療概要

胃がん治療は内視鏡的治療、外科的治療(手術など)、化学療法の3本柱になります。早期がんで転移の可能性が極めて少なければ、内視鏡による治療が可能ですが、胃がん治療で最も一般的なのは外科的な摘出を伴う手術です。手術では基本的に胃の3 分の2以上の切除とリンパ節郭清が標準的な術式となります。外科的な切除が困難な例では抗がん剤による化学療法が基本となります。また、化学療法は、単独で行われるのではなく、より根治する確率を上げるために、術前や術後に補助的に使用する場合もあります。

初期と末期など進行度や転移状況などで違う?

胃がんの治療は基本的に日本胃がん学会のガイドラインに準じて行い、ステージ分類や病変の大きさ、がん組織の分化度(がん細胞が元の正常な細胞の特徴をどの程度残しているかということ)、患者さんの状態や他の病気などを総合的に判断して治療方針を決定します。がん組織の分化度が低いほど悪性といえます。

まずがんが胃の粘膜に限定されたステージIAでは内視鏡による治療が一般的となります。ステージIBからステージIIICでは、手術が選択されることが一般的となります。さらにステージや患者さんの状態に応じて、手術方法が選択されます。術後は補助的に化学療法を追加することもあります。ステージIVでは手術によってがんをすべて取り除くことが困難なため、主に化学療法や放射線治療が選択されます。

胃がんで使う抗がん剤 副作用、費用は?SOX療法とは?

胃がんにおける化学療法(抗がん剤を使った治療)は、主に進行がん(切除不能がん)に対する延命、あるいは手術後の再発防止のために術後の補助的な治療として使用されます。抗がん剤は、主にがん細胞が分裂する過程に作用し、がん細胞が増殖するのを妨げる作用があります。ただし、抗がん剤はがん細胞を攻撃するだけでなく、正常な細胞も同時に攻撃してしまうため、副作用も現れてしまいます。一般的に見られる副作用としては吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状、白血球や赤血球、血小板が減少する骨髄抑制、脱毛などさまざまな症状が見られます。これらの副作用は今までの経験的に事前に分かっているため、事前に予防処置を行うなどの対策がなされています。

抗がん剤の種類は数多く存在しますが、胃がんに対してよく使用される抗がん剤としては、注射剤である「5-FU(フルオロウラシル)」や、経口剤(口から飲むもの)の「TS-1」「シスプラチン」「イリノテカン」「パクリタキセル」「ドセタキセル」などがあります。これらの薬剤を組み合わせて治療を進めていくのが現在の基本であり、再発がんやすでに転移のある切除不能がんでは、TS-1とシスプラチンを組み合わせた「TS-1+シスプラチン療法(SP療法)」を行います。これで効果がみられない場合は、二次療法、三次療法としてパクリタキセルやドセタキセル、イリノテカンを使用します。また、最近ではTS-1とオキサリプラチンを併用した「SOX療法」もSP療法と同等の効果があるとして注目されています。

術後補助化学療法では。術後の再発率を下げる効果があるとされているTS-1が用いられます。4週間飲み続けて2週間休むというサイクルで1年間続けます。

化学療法の費用については、薬の組み合わせや投薬期間などでも変わってくるため一概には言えませんが、再発予防のために1年間続ける場合に100万円程度、進行がんや再発がんに対する治療では月々10万円から30万円かかると言われています。医療保険によって自己負担額は3割(あるいは1割)となりますが、それでも高額であるため、高額療養費制度の利用ができます。高額療養費制度とは、年齢や所得に応じて、1か月の療養費が一定額を超えた場合に超えた分の費用が、返還される制度です。

胃がんの放射線治療 費用、メリット、デメリット

胃がん治療は多くの場合で手術が第一選択(優先的に選択される治療方法)となるため、放射線治療は進行した切除不能例や再発に対して用いられます。例えば、胃がんがあまりにも大きくなり、食べ物が通らなくなった場合に、がんを小さくして症状を緩和する目的で使用されます。また、術前にがんを小さくしたり、術後に残存したがんを小さくする目的で使用されることもあります。

放射線治療の方法としては、1日1回、週5回、4週間から5週間にわたって行います。治療前にはCTで胃や病変の位置を確認し、他の健康な臓器に放射線が当たらないように照射範囲を決定します。最近では技術が進歩し、正常な組織には放射線を当てず病変に絞って効率よく当てる技術も確立しつつあります。副作用としては、胃粘膜が荒れることによる胃炎や食欲低下、吐き気などがあります。一般的には1週間から2週間で副作用の症状は改善しますが、非常にまれな重い副作用として腸閉塞や腎障害、肝障害があります。

費用に関しては、方法や病変などによっても変わってきますが、おおむね60万円程度とされています。基本的には医療保険の適応となりますが、一部先進医療と呼ばれている「重粒子線治療」や「陽子線治療」と呼ばれるタイプは保険適応外であるため、300万円程度と高額になります。

胃がんに分子標的薬がある?メリット、デメリットは?

近年耳にするようになってきた「分子標的薬」とは、がん細胞の持っている特定の部分をターゲットとした薬のため、がんに対する特異性が高い(がん細胞を標的として効果をあげやすい)という特徴があります。また、正常な細胞は攻撃しにくいため、抗癌剤に比べて副作用は少ないと言われています。胃がんで使用されるようになった分子標的薬の1つに「トラスツズマブ」があります。トラスツズマブはもともと乳がんの治療薬として開発された分子標的薬であり、標的とする「HER2タンパク」と呼ばれるたんぱく質が、一部の胃がんでも発現していること分かり、使用されるようになりました。適応は「HER2陽性例(HER2の量が増えていることが確認された例)」に限られますが、抗がん剤と組み合わせることで従来よりも治療効果が高いとされています。

また、最近ではがんに栄養を運ぶための血管を作る「血管新生」という動きを阻害する分子標的薬「ラムシルマブ」も登場してきており、臨床試験(薬の効果やデメリットを確かめる試験)で良好な結果を得ています。

分子標的薬のデメリットとしては、分子標的薬は抗がん剤に比べて費用が高いことが挙げられます。トラスツズマブの場合、自己負担額は3割負担でも1か月あたり5万円7万円程度はかかってしまいます。したがって、使用にあたっては事前に医師とよく相談し、費用に見合う効果が得られるのかどうかなどを話し合い、納得したうえで使用することが大切になります。


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胃がんについての治療選択の考え方や抗がん剤を使った治療などをご紹介しました。胃の痛みに不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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