膵臓がんは危険因子を排除することで予防する

  • 作成:2021/10/20

膵臓がん(膵がん)は、消化器系のがんの中でもとくに治療が難しく、進行が早いことで知られています。しかし近年、早期発見できる検査や効果的な治療薬が登場し、予後の改善が期待されるようになってきています。

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膵臓がんは危険因子を排除することで予防する

自覚症状が現れにくく、生存率が低い

膵臓がんは、初期のうちは特に自覚症状が現れることが少なく、発見時にはかなり進行し、根治療法である手術ができないケースが多く見られます。進行の状況に合わせて治療方針は決められますが、手術以外にも、患部に放射線をあててがん細胞を消滅させる放射線治療や、抗がん剤などの薬剤を使って治療する化学療法が行われています。 

膵臓は胃のうしろ側にある20cmほどの横長の臓器で、食べ物の消化を促す膵液を膵管内に分泌したり、血糖値を調節するホルモンのインスリンを血中に分泌したりしています。膵臓がんの多くは、膵臓を貫き膵臓全体に網の目のように走っている膵管の細胞から発生します。 
進行すると、腹痛、食欲低下、腹部膨満感、体重減少、黄疸、腰や背中の痛み、急な糖尿病の発症や悪化などの症状が見られます。また、膵臓の周囲には多くの神経が分布しているので、がんが散らばるように拡がって神経が侵されると、激しい痛みに襲われます。膵体部や尾部(図参照)にがんができると早期に痛みが出ることもありますが、胃や背中の痛みと勘違いされ見逃されることも少なくありません。膵頭部(図参照)にがんができたときには、肝臓が体内の老廃物を排出している「胆管」が詰まりやすくなり、早期の段階で目や皮膚が黄色くなる“黄疸”が現れ、比較的早く発見される場合もあります。

膵臓がん治療の難しさは、さまざまな数字にも示されています。胃がんなどに比べると患者数は少ないですが、すべてのがんのうち死亡者数の順位が男性は第4位、女性は3位。死亡者数は年間3万人を大きく超えています(2019年)。治療開始から5年後の生存率は、男性は8.9%、女性で8.1%(2009〜2011年)とほかのがんよりかなり低くなっています。

膵臓の構造

膵臓がんは危険因子を排除することで予防する

危険因子を知って自分で早期発見につなげる

ほかのがんと同様、膵臓がんも早期発見し病状に応じた治療につなげることで、予後をよくすることはできます。そのためには、まず “膵臓がんの危険因子”を知ることが重要です。自分に発症リスクを高める要素があるかどうか、チェックしておくことをおすすめします。主な危険因子は次の通りですが、あてはまることが多いほどリスクは高くなります。

①血縁者に膵臓がんの人がいる(両親、兄弟姉妹、子など血縁者が1人発症した場合リスクは約2倍、2人以上発症した場合は家族性でリスクは約7倍)
②糖尿病が悪化した、急に発症した(糖尿病の人は膵臓がんの発症リスクが約2倍)
③慢性膵炎である(慢性膵炎の人は膵臓がんを発症するリスクが約12倍)
④肥満である(肥満の人は適正体重の人よりリスクが20%高い)
⑤喫煙する(喫煙者は非喫煙者より発症リスクが約2倍)
⑥大量飲酒する(長年の大量飲酒は慢性膵炎になりやすくなる)
⑦高脂肪の食品、過度に肉類を食べる食生活をしている
⑧60歳以上である

予防のためには、まず自分で減らせるリスク④〜⑦を少しでも減らすことです。“膵臓がんの危険因子”が多い人は、腹痛、食欲不振、発熱など何らかの症状が続くような時には、早めに検査を受けてください。

早期発見が期待できる検査で生存率が大幅にアップ

治療が難しいとされる膵臓がんですが、早期発見につながる新しい検査や、根治を目指す治療の研究は、世界中のさまざまな機関で進められています。膵臓がんが1cm以下で発見できれば、5年生存率は80%と格段に高くなることもわかってきています。

膵臓がんの中には、「IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)」と呼ばれる良性の腫瘍から悪性に変化して起こるものがあります。IPMNと診断された場合には、専門医による定期的な画像検査が必要になります。
膵臓がんができると非常に小さいうちから、「主膵管の拡張」や「膵嚢胞」が現れます。早期発見にはこの兆候を見逃さないことが重要。おなかの上から超音波をあてる「腹部超音波検査」で見つけることができます。もし疑わしい状態が見つかった時には、さらに精密な検査を受けます。

その精密検査の一つが、内視鏡を胃まで挿入し、超音波を発生させて膵臓を詳しく観察する「超音波内視鏡検査」です。
ほかにも、体への負担が少ない、尿、唾液、血液などを用いた「腫瘍マーカー検査」などの研究も進んでいます。2021年3月には、「リキッドバイオプシー(液体生検)」と呼ばれる、血液から検査を行う“遺伝子プロファイリング検査”が厚生労働省で薬事承認されました。この検査で遺伝子を解析することで、どの抗がん剤を使えば効果的か、薬物治療の選択肢を絞ることができるようになったのです。

<膵臓がんの診断の流れ>
(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービスより)

膵臓がんは危険因子を排除することで予防する

<参考>
●一般財団法人 日本消化器病学会 消化器難治癌シリーズ①膵癌
https://www.jsge.or.jp/intractable_cancer/pdf/suigan.pdf

●日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン2019版
http://www.suizou.org/pdf/pancreatic_cancer_cpg-2019.pdf

●日本膵臓学会 膵癌のリスクファクター
http://www.suizou.org/pdf/cq01.pdf

●国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 
がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html

がん情報サービス 膵臓がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/about.html#anchor2

がん情報サービス がんゲノム医療
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html

●特定非営利活動法人パンキャンジャパン
すい臓がんアクションネットワーク
https://www.pancan.jp/index.php?option=com_content&view=featured&Itemid=464

https://www.pancan.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=973:aacr:リキッドバイオプシーは膵臓癌の早期発見に役立つ可能性&catid=113&Itemid=1043

すい臓がんの危険因子
https://www.pancan.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=585:risk-factor&catid=55&Itemid=1043

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