てんかんの手術治療、リスク 手術可能なケースとは?迷走神経刺激療法とは?

  • 作成:2016/08/10

てんかんの場合、タイプによっては手術をして改善が見込めるケースがありますが、手術の効果が見込めないタイプがあるのも事実です。手術可能なケースや「迷走神経刺激療法」と呼ばれる体に刺激を与える装置を埋め込む治療法含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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てんかんの手術治療を知ろう

目次


てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。

症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの

てんかんの手術治療はどんなもの?

てんかんの手術治療は大きく分けて2つの手術方法があります。

1つは、てんかん発作の原因となる脳の領域(「てんかん原性領域」)を完全に切除する、または周囲と遮断(しゃだん)することによって発作が起こらないようにする根治的(こんちてき)手術です。「脳葉(のうよう)切除術」「皮質焦点切除術」「病巣切除術」「大脳半球切除術」などの種類があります。

もう1つは、発作をおこす異常波の伝導路(電気信号が伝わる経路)を遮断することによって発作の波の広がりを緩和し、重篤な発作を防止することを目指す姑息的(根本的ではなく対症的であること)手術です。「脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)」や「軟膜下皮質多切術(なんまくかひしつたせつじゅつ;MST)」などがあります。

また、2つの手術法以外にも、機能神経外科の分野で行われている「脳深部電気刺激療法(Deep Brain Stimulation;DBS)」という方法が、新しいてんかんの外科治療法として注目されるようになっています。

国際的な大規模調査によると、1986年から1990年までに実施された、てんかんの手術約8,200件の割合は以下の通りです。

選択的扁桃体海馬切除術を含めた前部側頭葉切除術→66%
側頭葉外切除術→およそ13%
脳梁離断術→10%
半球切除術→5%

また、手術の安全性については、世界の40施設で1995年から1997年までに行われた、約3,200件の手術をみると、失語、片麻痺、半盲(はんもう、視野の半分が書けること)など重篤かつ不可逆(もとに戻らない)な合併症の発生率は2.2%、死亡率は0.15%であるということです。日本において、てんかんの外科手術の対象となる患者さんは、約4万人存在すると推定されていますが、日本脳神経外科学会の調査によると、実際に行われている手術は年間わずか500件程度ということです。背景には、てんかん外科の有効性と安全性についての情報が世間一般に浸透していないことがあるといわれています。

手術になるのはどのような場合?

難治てんかんの薬物治療が代表的ですが、長期にわたって薬物治療を試みることは、発作の反復による脳障害の可能性が高くなることからも、患者さんの生活の質(QOL)が低下することから見ても、適切ではありません。そこで、外科的に治療できる、つまり手術できるてんかんおよびてんかん症候群を選別し、早期に手術可能かどうかを決めるという治療方針が生まれてきています。

てんかんの発症から外科治療までの期間は、かつて10年以上ありましたが、2年から3年が妥当とする意見が多くなっています。「外科治療が可能なてんかん(症候群)」、つまり手術可能なてんかんに共通する特徴は以下の通りです。

・てんかんの病態生理(びょうたいせいり;原因と発生するてんかんの発作や症状の関係)がよく理解されている
・病状の経過から、薬物治療が困難で、難治化することが予測されている
・術前評価(手術前の患者さんの状態把握)が非侵襲的(ひしんしゅうてき;患者さんに負担の少ない方法)にできる
・手術により70%以上の軽快が期待できる

具体的には、次の5つのてんかん症候群が手術がとされています。

(1)内側側頭葉てんかん(MTLE);
側頭葉てんかんの約80%を占め、最も多い難治てんかん症候群です。最近、側頭葉てんかんに関して、外科治療と薬物治療における治療効果を比較する試験が初めて行なわれ、外科治療の優位が明らかになっています。とくに、「海馬硬化(HS)」がある「MTLE-HS」というタイプは、最も外科治療が向いていると考えられ、明らかな発作消失が見込まれます。

(2)器質性病変(物理的な異常)が検出された部分てんかん;
てんかん外科の適応となるものの約30%は、何らかの脳の構造異常を持っています。例えば、脳腫瘍、血管奇形、先天奇形、皮質形成異常、外傷・血管障害・脳炎などによる脳の瘢痕が挙げられます。いずれも病巣が限局している(異常の存在範囲が限定的なこと)と、良い術後成績が期待できます。

(3)器質性病変を認めない部分てんかん;
画像診断では明確な病巣は発見できないが、脳波で限局した部位に異常波が出現する場合、見かけは正常でも、てんかんの原因となっていると思われる大脳皮質を切除することになります。

(4)片側大脳半球の広範な病変による部分てんかん;
大脳半球切除術が適用可能なてんかんですが、最近は「半球離断術(神経の経路のみを遮断する手術)」が普及しています。

(5)失立発作をもつ難治てんかん;
脳梁(左右の大脳をつなぐ梁(はり)のような構造物)離断術が行われています。

てんかん手術のリスク

手術のリスクには、「手術操作そのもの」、「手術中の偶発的な出来事」、「麻酔関連」、「術後管理」などが関係しています。

(1)手術操作の危険性→大脳の機能に直接的に関係する部位が、手術操作により損傷されてしまう場合です。例えば、運動機能をつかさどる領域(部位)に栄養を送っている動脈が損傷され、「半身マヒ」などが生じるリスクが考えられます。

(2)手術中の偶発的出来事→手術は順調に進められたのに、患者さんが手術中に脳梗塞などを偶然起こす場合があります。

(3)麻酔関連→最近は、麻酔法が進歩して、麻酔自体の危険性は非常に低くなっています。ただし、麻酔科医による術中の全身管理は、術後の脳の状態にも大きく影響します。不適切な輸液の管理や血液ガス(特に血中の二酸化炭素濃度)の状態は、手術後の脳浮腫などにつながることがあります。

(4)手術後の管理中に起きるリスク→直後の頭蓋内出血、感染(頭蓋内の感染や肺炎など)、脳浮腫、術後けいれんなどがあります。

てんかん手術の死亡率に関しては、他のよく知られている手術と比較してみましょう。心臓の手術で、よく行われる冠動脈(かんどうみゃく)バイパス手術の死亡率は1.3%、つまり100回の手術を行うと1人以上が死亡する危険性があります(2005年、日本胸部外科学会の集計)。また、脳腫瘍の手術では、2006年の日本脳腫瘍学会によるアンケート調査による25,000件以上の集計で、手術死亡率は0.5%、200回の手術に1人死亡のリスクがあります。てんかん手術の死亡率(手術から1カ月以内の死亡)は、750回の手術で1人(0.13%)とされています。非常に低い数字であり、安全性が高いこと考えることができます。

最もよく行われている側頭葉てんかんの手術は、てんかん外科に習熟した脳外科医が行えば比較的安全な手術とされていますが、海馬を切除する限り、どうしても避けることができない後遺症があります。左の側頭葉の切除では、記憶の障害が出やすい症状とされています。記憶障害が術後に生じやすいの原因として、(1)術前のMRIで海馬の萎縮が見られないこと、(2)手術時の年齢が高いこと、(3)手術前の記憶機能が良好であること、などが挙げられています。

てんかんに対する迷走神経刺激療法とは何?

迷走神経(めいそうしんけい)刺激療法[Vagus Nerve Stimulation;VNS]は、てんかんに対する非薬剤治療(薬を使わない治療)の1つであり、抗てんかん薬が効きづらい難治性てんかん発作を減少、軽減する緩和的(かんわてき)治療になっています。

植込型の電気刺激装置(ペースメーカーなどと同じようなもの)により、左頚部(けいぶ)に位置する迷走神経を間歇的(かんけつてき;一定の間隔をおくこと)に刺激します。欧米では1990年代から行われていますが、日本においても2010年7月から保険適用となっています。

VNSはあくまでも、てんかん発作の緩和を目的に施行するもので、発作の完全消失を目指すものではないとされています。てんかん患者さんにみられる認知機能障害や情動障害(気分の落ち込みなど)などの随伴症状に対する有効性も報告されていますが、随伴症状の軽減を主目的とする治療としては、支持されていないのが現状です。最もよい適応は、薬剤抵抗性のてんかん発作のうち、根治的な開頭手術(焦点切除術など)が行えないような場合になります。

実際には、装置の植込手術は、原則的に全身麻酔下で行なわれます。パルスジェネレータ(刺激装置)を左前胸部の皮下脂肪の層に、らせん電極を左の迷走神経において、皮下(トンネル)を通してつながれます。VNSは、原則として植込手術の2週間後から開始します。弱い刺激強度から開始し、副作用の出現しない範囲で、発作に対する効果をみながら、徐々に刺激の強度を上げていき、患者さんに最適な強さをさがします。

刺激治療に伴う副作用は、咳(せき)、嗄声(させい;しゃがれ声)、咽頭部(いんとうぶ)不快感、嚥下障害(えんげしょうがい)などです。耐えられない副作用で強度を下げて解消が見込める場合は、強度を下げて対応することになります。一般に、副作用の発現は、治療の継続とともに減少するようです。パルスジェネレータの電源寿命は現在のところ約6年で、治療継続のためにはパルスジェネレータの交換手術が必要になります。


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てんかんの手術についてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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