てんかんと性格・発達障害・知的障害・記憶障害の関係 影響がある?ない?

  • 作成:2016/08/08

てんかんは、非常に難しい病気で、よく知られた発作以外にも多様な症状があります。てんかんと、性格・発達障害・知的障害・記憶障害の関係について、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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てんかんと発達障害に関係はある?
てんかんと性格の関係
てんかんと発達障害の関係
てんかんと知的障害の関係
てんかんと記憶障害の関係

てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。

症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの

てんかんと性格の関係

てんかんの患者さんの「パーソナリティ(人格または性格)」に関しては、古代ギリシャの時代から宗教的な信心深さなどが注目されていたようです。19世紀から20世紀前半の時代において、偏ったてんかんの観察によりネガティブな面が誇張されてきた歴史があります。結果として、てんかんと性格の問題は、偏見の問題に発展していき、てんかんの性格や行動に関する研究は制限されてしまった経緯があります。

20世紀後半から現代になると、神経科学およびてんかんの学問的研究の進歩により、感情の動き、行動における「側頭葉」や「辺縁系」と呼ばれる脳の役割、さらには、側頭葉てんかんの病態が解明されてきたことに伴って、てんかんの患者さんのパーソナリティについても、病態や治療との関連で論じられるようになっています。

側頭葉てんかんにおける性格や行動の特徴を記述したものとして、「ゲシュヴィント症候群」というものが知られています。4種類の特徴として、(1)哲学、道徳、宗教への関心の増大、(2)過剰書字(粘着性、何か書かずにはいられない)、(3)易刺激性(刺激の受けやすさ)、(4)性的活動低下、が挙げられています。

一般に、てんかんの発作とは直接には関連しない(発作の症状ではない)とされていますが、てんかん患者さんに多い性格的特徴を表現する記述として、次のようなものがよく使われています。

・粘着性が高い、物にこだわりやすい
・回りくどい話し方をする
・話題の流動性が乏しく、遅くなる
・几帳面(きちょうめん)で細かなことに固執(こしつ)する
・融通(ゆうづう)が利かなくなる
・ささいなことで怒り出す

側頭葉てんかんなどで、難治性のために経過の長くなっている患者さんにみられることも多かったことから、発作を繰り返すことで脳に何らかの影響を与えた結果だと考えられています。しかし、最近では早い段階から治療を始めるので、このような性格はほとんど見られないともいわれています。

てんかんと発達障害の関係

てんかんをもつお子さんの一部に、発達面の遅れが認められることがあります。発達の遅れは、運動面か、精神面のいずれかの場合と、両者とも確認される場合とがあります。さらに、重症度を左右する要因としては、以下のようなものが考えられています。

(1)てんかんの原因となる脳の障害そのもの
(2)てんかんの発作に起因するもの
(3)抗てんかん薬の影響
(4)発作のために適切な社会環境や教育の機会が得られないこと

現在は、適切な薬による発作のコントロールも可能になり、運動精神両面の発達の良好なお子さんも多くなっています。できる限り早期にてんかん発作を抑制することは、発達障害の予防では、非常に重要なものになっています。

発達障害とは、発達障害者支援法において、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」などを含む一群の障害として定義付けられています。一方、医学的には、「発達の過程で明らかになる行動やコミュニケーションの問題を主とする障害で、根本的な治療法は現時点ではないものの、適切な対応により社会生活上の困難は減少する」と定義されています。

てんかんには、上記のようなさまざまな発達障害が、さまざまな程度(重症度)で合併することが知られています。発達障害の重症化は、一般的に、「基礎にある脳の障害が重症である」、「発作のコントロールができない難治例(のてんかん)である」、「内服している抗てんかん薬の種類も多く、服用期間も長期になっている」、などのケースで多くなっています。発達障害が重症化してくると、社会および教育現場での適応も困難となり、2次的(教育などの機会が十分に得られないことなどの病気に付随した環境の問題)にも、知的障害が進みやすくなるといわれています。

てんかんと知的障害の関係

重度の身体障害と重度の知的障害とが重複した状態は、「重症心身障害」と定義されています。重症心身障害は、およそ30から60%にてんかんを合併し、とくに、ほぼ寝たきり状態の重度障害者では、およそ80%まで増加するとされています。発達障害と同様に、知的障害もてんかんに合併しますが、発達障害よりも、元々の病気である脳の障害に左右されるところが大きいようです。

小児のてんかんの多くを占める、良性といわれる「特発性てんかん」では、知能の低下は全くみられないものから、ごく軽度の知能の障害を示すに過ぎないものが多くなっています。例えば、特発性良性部分てんかんの大部分を占める「良性ローランドてんかん」は予後が良く、年代ごとに特徴的なてんかんの中で、全体の約10%を占めますが、知的障害を伴いません。

一方、小児の症候性てんかんでは、脳症や脳炎、脳形成異常、代謝異常といった重大な脳の障害をもつ原疾患がある場合も多く、また、小児の難治てんかんとしても、よく知られている「ウェスト症候群」「レノックス・ガストー症候群(50%以上で重度の知能障害があります)」などが含まれます。

知的障害に関しては、てんかん自体やてんかんの発作により影響されるということもありますが、むしろ、元々の脳の障害により、重い軽いの程度が決定されていると面が強いこともあるようです。脳症や代謝異常など高度の脳障害の影響では、知的障害は高度であり、また全体として予後も悪い病気がいくつかあるようです。

てんかんと記憶障害の関係

てんかんのうち、記憶障害と最も関係の深いものに「側頭葉てんかん」があります。側頭葉てんかんには、「外側」と「内側」の分類がありますが、外側側頭葉てんかんの原因が、側頭葉外側の「新皮質(しんひしつ;脳の比較的新しい領域)」であるのに対して、「内側側頭葉てんかん」は、記憶、情動、本能行動などの機能を持つとされる側頭葉の内側にある「辺縁系(へんえんけい;脳の原始的な領域)」にてんかんの異常の焦点があるといわれています。

また、内側側頭葉てんかんの多くが、「海馬硬化(かいばこうか)」といわれる変化が起きています。海馬硬化とは、内側側頭葉の組織の1部において、神経細胞が脱落して、その部分に「グリア(神経細胞の間を埋める接着剤の役目をする支持、保護のための細胞)」というもの増殖があり、硬くなっています。海馬は、脳の記憶の出し入れに関係する重要な領域と考えられ、海馬の変化は、記憶への影響することがあるわけです。

「内側側頭葉てんかん」の発作の特徴として、前兆があることや複雑部分発作として多彩な症状を示すことが知られています。そして、発作後の症状として、ふつう「短期の記憶障害」、「見当識(けんとうしき;自分の周りの状況を正しく認識することです)障害」「健忘(けんぼう)」がみられます。

左脳は、ふつう言語機能を担っていて、「言語の優位半球」とも呼ばれています。そのため、左の海馬の障害では、言語性の記銘力の低下が生じます。具体的には、人の名前を忘れたり、言葉に関連する記憶が障害されやすくなります。対して、右側の海馬に焦点がある場合は、人の名前などは比較的記憶していますが、でき事、地理、人の顔などの記憶障害が目立ってきます。一般に、記憶障害としては、左脳の障害の方が、重症であることが多いとされています。


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てんかんと性格・発達障害・知的障害・記憶障害の関係についてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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