「そのうち治る」は危険?うつ病は早期治療が回復への近道

  • 作成:2025/09/11

一時的な気分の落ち込みは誰にでもよくあることだからこそ、うつ病になっても、「気の持ちよう」「そのうち良くなるだろう」とがまんしがちです。でも、うつ病は放っておくと重症化し、日常生活への影響が大きくなっていくこともあります。早期に治療を受けることは、回復への近道であり、自分自身を守るための大切な一歩です。ここでは具体的な治療法や、回復までの道のりについてお伝えします。

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うつ病は「心の骨折」。早期に治療を受けることが大切

かつて、うつ病は「心の風邪」と表現されることがありました。だれでもうつ病になり得る、という意味ではあてはまる表現です。しかし、実際にはうつ病は風邪ほど簡単に治る病気ではありません。むしろ、うつ病は「心の骨折」と考えた方がイメージをつかみやすいでしょう。

うつ病は、軽症であれば治療をしなくてもそのまま回復する人もいるといわれています。しかし、治療を受けずにいることで、症状を悪化させる可能性もあります。うつ病が重症化すると、身なりを整えたり、入浴したりするといった基本的な自己管理もおっくうになっていきます。仕事や学校に出かけられず、引きこもり状態になる人もまれではありません。また、「消えたい」「死にたい」と考えることが増え、本当に自殺にいたることもあります。また、うつ病は再発のリスクが高く、しっかり治療しないと、繰り返し日常生活に大きな支障をきたす可能性もあります。
そのため、早めの段階で治療を開始し、症状の悪化や再発を防ぐことが重要です。
うつ病治療のガイドラインでは、放置による慢性化や再発のリスクを踏まえ、早期からの治療を推奨しています。

主な治療は「心理療法」、「薬による治療」と「生活の調整」

うつ病の治療には、いくつかの種類があります。症状の重さや、生活環境、仕事の状況などに合わせて、医師と相談しながら自分が納得のいく治療を受けましょう。

・心理療法(対話による治療)
つらい気持ちや考え方を整理し、前向きな行動に少しずつ取り組む手助けをする治療法で、特に「認知行動療法(CBT)」は、軽症から中等症のうつ病に対する治療として、多くの国のガイドラインで第一選択肢とされています。臨床心理士や公認心理師、医師などと話し合いながら、ものごとの「考え方」(認知)や「行動」を見直し、バランスを整えることで、気分の改善を目指します。CBTは健康保険の適用となっていますが、実施できる医療機関が限られているため、実施可能か問い合わせるとよいでしょう。

・薬による治療(抗うつ薬などによる薬物療法)
中等度から重症のうつ病には、抗うつ薬を中心に、睡眠薬などを組み合わせた薬物療法がすすめられています。薬は人によって合う・合わないがあるため、その種類や量は医師が効果と副作用を見ながら調整します。なお、軽症の場合には、すぐに薬を使わず、心理療法や生活の調整から始めることもあります。

・生活の調整(生活リズムの見直し)
うつ病になると、眠れなくなったり、活動量が減ったりして、生活リズムが不規則になりやすい傾向があります。睡眠や食事を摂る時間や日中の過ごし方を整えることは大切です。例えば、毎日同じ時間に起きる、軽い運動をする、近所に散歩に行くなど、できる範囲からやってみるとよいでしょう。ただ、あまり無理して行う必要はありません。

・その他の治療法
症状が重い場合や、薬が効きにくく、著しく生活に支障のある方には、入院治療をすすめることもあります。また、脳に電気刺激を与える「無けいれん電撃療法」(mECT)や、磁気刺激を与える「経頭蓋磁気刺激療法」(TMS)を行う場合もあります。

回復にかかる時間は人によって異なる

うつ病の回復には、症状の重さや治療を始める時期、生活環境などによって個人差があります。
軽症の場合、治療を始めてから3か月から半年ほどで寛解する(症状が落ち着いて安定した状態。完治とは異なり、再発の可能性がある)ことがあります。ただし、症状がよくなっても、すぐに元の生活に戻ると再発するリスクがあります。したがって、活動量を少しずつ増やす「リハビリ期間」が大切です。社会復帰までに半年から1年ほどかかる場合もあります。
重いうつ病では、症状の改善にさらに時間がかかることがあります。なかには、症状が完全に消えずに何年も過ごす人もいます。

治療の始め方も重要です。ある研究では、うつ病の症状が出現してから療法を開始するまでの期間(未治療期間)が短いほど、改善しやすいことが報告されています(Tseng et al., 2017)。また、治療を始めてから早く寛解するほど、その後の再発率が低いことも示唆されています(Kubo et al., 2022)

これらのことから、できるだけ早く治療を開始することが、早期の回復、長期的な安定、再発予防につながると考えられます。2週間以上、心の不調や原因不明の身体の不調が続いていると感じたら、医療機関への相談をご検討ください。

精神科に行くのが不安な時は?

「もしかして受診した方がいいかも」と思っても、いきなり精神科にいくのはためらわれることもあるでしょう。また、近くに精神科がなかったり、あってもなかなか予約がとれなかったりすることもあります。そんなときは、まずはかかりつけの内科や産婦人科など身近な医療機関に相談してみましょう。眠れない、食欲がない、だるいなど身体の不調から相談を始めるのも大丈夫です。身体的な健康状態をチェックすることも大切です。必要があれば、医師が紹介状を書き、スムーズに専門医の受診につないでくれるでしょう。

また、職場の産業医や保健師、産業カウンセラー、あるいは公的な相談窓口(自治体の精神保健福祉センターや保健所)や学校のカウンセラーなど、身近な専門家に相談するのもよい方法です。一人で抱え込まないことが大切です。

*1 Tseng, P. T., et al. (2017). Untreated duration predicted the severity of depression at the two-year follow-up point. Journal of Affective Disorders.
*2 Kubo, K., et al. (2022). Predicting relapse from the time to remission during the acute treatment of depression: A re-analysis of the STAR*D data. Journal of Affective Disorders.
ガイドラインを参考文献に加える場合、以下を加えても良いと思います。
日本うつ病学会治療ガイドライン(2016年改訂)
NICE guideline (2022) Depression in adults: treatment and management

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